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除雪中の水路転落事故現場にあった崩れ雪 川に落ちたらどうする?

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
水路転落事故現場と考えられる水路(筆者撮影)

 今シーズン、ドカ雪で幕開けした新潟県。例年発生している除雪中の水路転落事故で、すでに高齢者が亡くなっています。現場検証したら水際に崩れ雪がありました。子供の河川転落事故現場の崩れ砂に大変似ていて要注意です。

 除雪作業は明るい時間に複数人で行います。もし人が川に落ちたら、すぐに119番通報して救助隊を呼びます。

自分が水路に転落したら、すぐに水から上がる。あるいは水に浸かる部位をできるだけ少なくする。転落した人を発見したら、救助のために川の水の中に降りてはならない。

事故の概要

 12月20日午前、新潟県柏崎市で自宅周辺で除雪作業をしていた85歳男性が、用水路に転落し死亡する事故がありました。(中略)警察によりますと20日午前、男性が自宅の周辺でひとりで除雪作業をしていたところ、午前9時すぎ、同居の家族から「除雪中に姿が見当たらなくなり、用水路にスノーダンプが落ちている」と110番通報がありました。(中略)男性は、除雪作業中に用水路に誤って転落したとみられています。用水路は幅約2メートル、深さ約1メートルで、水面まで約3.8メートルほどの段差があったといいます。(筆者一部改編 12/20(火) 13:30 TeNYテレビ新潟

 水が冷たくてお辛かっただろうと思います。ご冥福をお祈りします。ご家族の皆様にお見舞い申し上げます。

 降り始めからの積雪は現場近くで70 cmに達しました。事故現場近くの住民の方に話を聞くと「12月にこれだけの雪はここでは降らない。まるで1月とか2月の風景だ」とのこと。

 現場の様子はカバー写真の通りです。この水路は2級河川の妙法寺川です。土石流があっても川壁面が削られないようにコンクリートブロックで斜面を護っています。この斜面の高さが厄介で、水面から3.8 mほどあり、転落したら自力ではよじ上ることができません。

 事故当時は水深1 mほどということでしたが、検証した日時での水深は20 cm程度でした。一見して「溺れそうもない川」という印象です。ただし、検証した日時での水温は5.8度で、これは1時間命がもつかもたないかの致命的な温度です。

 男性はカバー写真左(左岸)から転落したとみられ、下流で発見されました。流れにのったのか、歩いて上がる場所を探し下流に達したのかは目撃者がいないため、わかりません。

崩れ雪

 図1をご覧ください。男性が転落したと思われる左岸の拡大図です。ブロック護岸の上(天端)の積雪のある部分にスノーダンプで押した跡のような痕跡がありました。この直下の川の中にスノーダンプが落ちていたとのこと。そしてそこより下流側にはブロックからはみ出すようにして雪庇が続いているのがわかります。

図1 男性が転落したと思われる箇所にあった雪庇と雪面のスノーダンプで押した跡(筆者撮影)
図1 男性が転落したと思われる箇所にあった雪庇と雪面のスノーダンプで押した跡(筆者撮影)

 この雪庇は、護岸の天端の端を完全に隠してしまうため、岸の雪面に立って見た時にはどこまでが天端でどこからが空中になっているか、まったくわかりません。ましてや、この雪庇は空中にとび出している部分を天端の上の雪が引っ張って、ギリギリの接着強度で落ちないようにしているとも言えます。何かモノが雪庇の上にのれば、雪庇はいとも簡単に崩れ落ちてしまいます。崩れ雪です。

 この崩れ雪は、これまで子供の水難事故現場に見られた崩れ砂ととても似ています。崩れ砂は安息角という崩れるか崩れないか、ギリギリの角度で砂が斜面を作っています。その斜面に人が乗ることで砂がいっきに崩れて人を水中に沈めます。

転落事故を起こしたら

 除雪中の水路転落事故は、新潟県では毎年数件発生しています。全国に目を向けると、雪の降るところではどこでも発生しています。いずれも男女問わず高齢者が転落し、発見された時にはすでに手遅れの事故ばかりです。

自分が水路に転落したら

 すぐに水から上がります。たいていは天端までの高さがあって上がれないので、図1であれば写真右の枯草の上に上がります。水に浸かる部位をできるだけ少なくします。身体が濡れていても水から上がれば、その分だけ命を長くつなぐことができます。いくら雪国仕様の長靴を履いていたとしても、上がる場所を探して水中を長く歩いてはいけません。

 携帯電話があれば、すぐに119番通報して救助隊を呼びます。時間との勝負なので、家の人に電話するより119番を優先してください。

 携帯電話がなければ、大きな声で叫んで近所の人に気づいてもらいます。そして何をしてほしいか具体的にお願いします。まず「119番に通報して欲しい」次に「梯子を持ってきて欲しい」と。

転落した人を発見したら

 川の水の中に救助のために降りてはいけません。冷水に浸かったら、すぐに身体が動かなくなります。特に指を動かすことができなくなります。指が動かなければ、梯子を上ることができません。携帯電話を操作することもできません。人を助けるどころではなくなります。陸から直ちに119番通報して救助隊を呼びます。

転落事故を未然に防ぐには

 安全対策施設の設置を検討してください。図2は水路に沿って道路端に設置されたガードパイプの例です。道路を横断するようにスノーダンプで雪を運び、ガードパイプの「キケン」と表示されている所から雪を捨てられるようにしてあります。

図2 道路端に設置されたガードパイプの例(筆者撮影)
図2 道路端に設置されたガードパイプの例(筆者撮影)

 図3に示すように道路端にガードパイプを設置するほど、道路幅に余裕がない通路では、図3の赤枠で囲った部分にあるような金属部品の設置が有効です。これがあれば、雪庇の上に人がのっても雪庇ごと水路に転落することを防止できます。

図3 狭い道路には、雪捨作業時の安全を最低限守るための部品を設置するとよい(筆者撮影)
図3 狭い道路には、雪捨作業時の安全を最低限守るための部品を設置するとよい(筆者撮影)

さいごに

 今シーズンは始まったばかりです。流石の雪国の人でも、シーズン初めは何らかのアクシデントに見舞われます。段々慣れていき、本格的なシーズン中には「東京の人は雪に慣れていないから」と余裕を見せますが、われわれやはりシーズン初めは「ただの人」です。

 今週末も全国的に大雪の予想が出ています。皆さんで声をかけながら一緒に除雪作業し、安全にシーズンを乗り切りましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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