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尋常ではない初雪の除雪 作業中に流雪溝や水路で溺れないために(18日12:30訂正)

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
家の前の雪を流雪溝に捨てて流す除雪。初雪でまさかの重労働(筆者撮影)

 尋常ではありません。今年の初雪は、ところによっては1日で2 m近い積雪に達しています。毎日の除雪は雪国の宿命です。とはいえ、雪国の人々は2年ぶりに、いきなり初雪の山を片付けることになりました。

 除雪作業中に流雪溝や水路に落ちないように気をつけましょう。明るいうちの作業と複数人での作業を心がけ、さらには緊急時の連絡手段を身から離さないようにしましょう。

初雪で自衛隊の災害派遣

 雪国以外にお住まいの方も読まれると思うので、今年の雪国の状況をお話しします。

新潟県は17日午後、「大雪に関する新潟県災害対策本部」を設置しました。その上で、関越道で車1000台以上の立ち往生が起きていることについて、停留車両の解消とドライバーの安全確保のため、自衛隊に災害派遣を要請しました。 (BSN新潟放送 最終更新: 12/17 (木) 16:42)

 今年は初雪でいきなりの自衛隊災害派遣です。筆者は昭和58年からの3年連続の大雪を新潟県長岡市で経験していますが、初雪での災害派遣には覚えがありません。

 12月16日、17日ともに長岡市の職場から県境の町である湯沢町に向かいましたが、関越道はもとより、国道17号も湯沢町の手前である南魚沼市から湯沢方向に渋滞車列が微動だにしない状態でした。両日とも途中で進むのを諦めて職場に戻りました。図1は国道17号南魚沼市内の様子です。たった2日でこのような雪の壁ができました。左に除雪中の人が写っています。スコップで雪の壁に通路を作るための作業です。

図1 12月17日夕方の国道17号長岡方面車線の様子(筆者ドライブレコーダー映像)
図1 12月17日夕方の国道17号長岡方面車線の様子(筆者ドライブレコーダー映像)

 このような降り方ですと、まるで洪水にあったような感じです。違いは、洪水は流れますが積雪は流れないところでしょうか。洪水の中、車は走ることができません。積雪も除雪しなければ車は走れません。立ち往生すると、次第に埋まっていきます。2 mの積雪に埋まると、見た目が寿司とか団子を通り過ぎて雪の塊になります。まるで、徐々に水深を深くしていく洪水に沈んでしまったかという感じです。

雪国の人は毎日が除雪

 雪国の朝は早い。早い人では朝4時ころから家の前の除雪を始めます。道路に除雪車が入るところでは、家の前に「お土産」の雪の壁ができます。その壁とともに、家の玄関から道路までの間に降り積もった雪を除くのです。家によっては朝の除雪に1時間から2時間はかかります。

 新潟県でも山沿いの民家では、集めた雪を捨てるための流雪溝や用水路・排水路が家のすぐ前や横などにあります。流雪溝は、地域で流雪溝組合を結成して、組合が流雪のために設置した溝です。農地に近ければ用水路や排水路を使います。

 カバー写真は流雪溝を使って雪を捨てている様子です。民家の前だと2カ所から3カ所の雪捨て口があります。日頃はグレーチング(鉄の網)でカバーされていますが、雪捨ての時にはこのグレーチングを開きます。

 水路がすぐ近くにあると、図2のように家の敷地から直接雪を捨てることができます。水路にはふたがされていない場合が多く、また夏場には柵がしてあっても、冬の前に雪捨てのために外すところもあります。

図2 水路を使った除雪の例。水路に直接雪を捨てる方式(筆者撮影)
図2 水路を使った除雪の例。水路に直接雪を捨てる方式(筆者撮影)

流雪溝や水路での溺水

 これまで新潟県内だけでも繰り返し流雪溝や水路での溺水事故が発生しています。新潟県では定期的に除雪作業事故防止注意情報を出して、県民に警戒を呼びかけています。

 昨シーズンは記録的な雪なしの年だったので、除雪に伴う溺水事故はありませんでした。そして、流雪溝への転落による溺水は近年新潟県内での報告が見当たらず、新しいところでは2011年に妙高市で男性が50 cmほどの幅の溝で流された事故があります。その一方で、一昨年のシーズンには2月に十日町市で男性が、長岡市で女性がそれぞれ用水路に転落して、溺れて亡くなっています。

 新潟県では、除雪前に流雪溝や水路の位置を確認するように注意を出しています。そして近年事故が減ったのではなく、たまたま大雪の年に巡り合わなかっただけであることを肝に銘じなければなりません。

具体的には何に注意するべきか

流雪溝では、バランスを崩さないように

 最近は事故対策が進み、コンクリートふたをかけて暗渠化し、雪捨て口だけはグレーチングなどを使った開閉式になっています。

 図3は小千谷市でたまたま除雪中の方がおられたので、インタビューしながら撮影した流雪溝です。今年、この方が気をつけていることを2つ教えてくれました。

 ひとつは「今年の流れが遅い」ことです。見ると雪捨て口に雪が流れずに残っています。そのままにしておくと流雪溝が溢れて床下浸水など被害につながります。そのため、スコップを使って雪の塊を壊しますが、その時にバランスを崩すと溝に足を突っ込んだりします

 もうひとつは昨年少雪で使わなかった「スノーダンプがさびて滑りが悪い」ことです。雪はスノーダンプを使って雪捨て口に運びます。滑りが悪いと力を入れすぎ、それが流雪溝付近で体のバランスを崩す原因となります。

図3 流雪溝の雪捨て口を開いて溝にたまった雪をスコップで崩している。男性によると今年のこの溝の流れはあまり良くない(筆者撮影)
図3 流雪溝の雪捨て口を開いて溝にたまった雪をスコップで崩している。男性によると今年のこの溝の流れはあまり良くない(筆者撮影)

 人の肩幅程度の幅があれば、人は簡単に流されてしまいます。それは富山県の用水路で実証済みです。バランスを崩して足を入れた瞬間に足から流されます。一度流されると、流速が速く、すぐに暗渠に潜ってしまいます。水温はほぼ0度で、長時間生きていることができません。救助に時間がかかるので、流雪溝に流されないように最大限の注意を払うことが大事です。

 この土日は、どこでも屋根の雪下ろし、そしてその雪を片付けるために雪捨て口は終日開きっぱなしになります。そのため、休みで家にいる子供が雪捨て口に近づかないように気をつけます。大事なことは、一昨年の子供と今年の子供では同じ子供でも活動範囲や興味が変わっていること。少雪の昨年は1年抜けていることに注意しなければなりません。

水路では、自ら入らないように

 新潟県や富山県での用水路転落事故の聞き取りで気をつけることが明らかになっています。

 ひとつは水路に入って作業をしないこと。雪を捨てすぎて水路の流れが悪くなり、スコップをもって雪を崩しに入った男性が、流れが再開した時の水流の威力に負けて流されてしまいました。冷水のため、すぐに意識を失いました。

 もうひとつは図4に示すような水路脇の雪庇に気をつけること。いつもであれば簡単に上がれる水路だったのに、雪庇に気がつかずに雪庇ごと水路に落ちた女性が、その雪庇のせいで自力にて上がることができませんでした。上がるところを探して歩き回るうちに意識を失い倒れました。携帯電話があったらと思われた事故です。

図4 水路に張り出した雪庇の例。積雪の分だけ水路が深くなっていることにも注意(筆者撮影)
図4 水路に張り出した雪庇の例。積雪の分だけ水路が深くなっていることにも注意(筆者撮影)

頼りは救助してくれる人

 流雪溝や水路の中は冷水です。全身が浸かれば服を着ていても10分も持たないような水温です。一刻を争って救出されなければなりません。そのため、除雪作業は明るくて見通しのよい時間に、複数人数で。万が一の時には作業前から身につけている携帯電話で119番通報してすぐに救助隊を呼んでください。

 冷水に浸かっている人の意識があれば、外の人ははしごを水路に入れて脱出させます。力が残っていれば自力で、だめだったら胴長などをはいて濡れないようにした人が水に入って手助けします。でも、無防備に救助に入ったら、中の人と同じ運命をたどります。

さいごに

 昨シーズンはほとんど除雪を必要としなかった新潟県。体力的には全員2歳、年を取っていると覚悟しましょう。かくいう筆者も2年ぶりの雪かきに腰の筋肉を痛めました。まっすぐに歩くのが少々しんどいです。中高年世代は特に自分の老いを自覚し、細心の注意を払って除雪事故に注意し、今年のシーズンを無事に乗り切りたいものです。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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