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記録的高潮発生か? 早めの避難、でも愛車を避難所に使っては絶対にダメ

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
愛車、簡単に流されます。避難所替わりに使ってはダメ(写真:baking/イメージマート)

 高潮で海水が堤防を越えた瞬間に住宅街に突然水が襲います。基本は早めの高い所への避難。暴風雨で外に出ることがそもそも危険であれば、自宅2階以上に垂直避難です。自宅2階も浸水する可能性があることに留意します。

 愛車での避難はもっと早めに。愛車は避難手段として使えますが、避難所の替わりに使っては絶対ダメ。風が吹けばものが直撃するし、車体は水の流れに簡単に流されます。避難は、愛車ともども頑丈な建物の中へ。

記録的高潮発生か?

 気象庁は6日、台風10号の接近に伴い、記録的な高潮が発生する恐れがある地域を公表した。特に警戒が必要な地域は、鹿児島県の屋久島、種子島、薩摩地方▽福岡、山口県境の周防灘周辺▽愛媛県の豊後水道周辺。いずれも6日夜~7日未明、警報基準を超える潮位になるとみられ、気象庁の担当者は6日午前11時からの記者会見で「今からすぐにでも避難を」と強く呼び掛けた。

出典:毎日新聞 9/6(日) 12:15配信

流されるとさらに悪い方向に

 一説によると、昨年の台風19号により水害を受けた車両は、約10万台とも言われています。そのうちの多数は、長時間駐車していた車両だったかもしれません。しかしながら、もしすべての車両にて人が乗車中で、しかも車内に居残ることにこだわったとすれば、10万人規模で犠牲者が出たかもしれません。これはクルマ社会を象徴する、命に直結する潜在的な溺水リスク要因であると言えます。

 ただ、そこまで被害が拡大しなかったのは、次の2点に従って多くの皆さんが行動したからかと思います。

 1.冠水したら車を使わず自宅で垂直避難

 2.冠水前に車で高台へ避難

 高潮の洪水でも、当然流れを伴います。愛車が流され始めたら、いい方向にはいきません。悪い方向への片道切符です。なぜなら、水は低い方に流れ、低い場所にたまるからです。当然愛車の流れ着くところの水深は深くなる一方です。そして愛車はエンジン類の重さで前方が沈み傾きます。要するにバランスを崩すということ。こうなると自分の姿勢が安定せず、狭い車内空間で身動きすら取れなくなります。

車両によって流れやすさは変わるか

 例えば、日産マーチクラスの車両では、秒速1 mの流れの中で車内等の空隙に浸水がない状態で水深30 cm強で流され、空隙のほぼ半分が浸水している状態でも50 cm強で流されます。トヨタランドクルーザークラスの車両では、秒速1 mの流れの中で車内等の空隙に浸水がない状態で水深60 cm強で流され、空隙のほぼ半分が浸水している状態でも90 cm強で流されます。以上の根拠は、「愛車、流されます 洪水時に車内は避難所にならない現実」に科学的に記載してあります。

流れやすい車両は不利か

 では、ランドクルーザークラスの車両は安全かというとそういうわけではありません。冠水してきて車両での避難が難しいと判断したら、車両が流される前に脱出しなければならないのですが、ランドクルーザークラスの車両が流される手前の水深の60 cmでは、すでに人は歩いて避難できないのです。秒速1 mの流れで簡単に流されてしまいます。一方、マーチクラスの車両が流される手前の水深の30 cmでは、まだ何とか歩いて避難できます。できるだけ良い条件で脱出行動に踏み切れる方が、結果的には良い方向に行くかもしれません。

 図1に洪水時の脱出のタイミングをまとめました。(左)冠水が始まったら、水深が膝下のうちに歩いて避難します。女性ならおよそ40 cmです。愛車がまだ動くのであれば、高い方に向かって移動します。流れがある時には、これが脱出の最後のチャンスです。(中)流れがなければ、水深が膝上に達したら、脱出だけを考えます。これも最後のチャンスです。(右)流れがあれば、愛車はバランスを失いながら、流されます。流れたら、ハンマーで窓を破っても、バランスを失っているので、脱出はほぼ無理です。愛車は自分を守ってくれません。たとえ脱出できたとしても、この水深では自分が水の勢いに流されます。流れを伴う洪水(これは普通です)時に、ハンマー窓割を最終手段に考えるのは言語道断です。

図1 愛車からの脱出する最後のチャンスを場面ごとに示した(画像制作:Yahoo!JAPAN)
図1 愛車からの脱出する最後のチャンスを場面ごとに示した(画像制作:Yahoo!JAPAN)

暴風雨には細心の注意を

 外が暴風雨の中、愛車で避難すれば当然外には出たくなくなります。でも愛車を避難所の替わりに使ってはダメです。台風が近づいてきて風が強くなり、車に木が倒れてきたり、ものが風に飛ばされ直撃したりする映像はいろいろとご覧になられたと思います。あなたの愛車も同じような目に遭う可能性があります。立体駐車場がある頑丈な建物は近くにありませんか?愛車ごと避難することができます。参考にしてください。

まとめ

 昨年の台風被害で、自家用車車内は避難所になり得ないことがわかりました。道路冠水が始まる前の早めの避難行動を取ります。そして車で避難しないとならない状況なら、冠水箇所より離れて高台へ避難です。日頃からご自分の愛車が流されやすいか流されにくいか把握をしておいて、いざという時には流されてないからと安心することなく、冠水時には脱出できるうちに脱出することを心掛けてください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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