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今夏の水難事故のまとめ 特徴を示すキーワードは川、高校生、救助死

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
今年は川での水難事故による犠牲者が目立った(筆者撮影)

 高校生以下の方が命を落とした、5月から8月までの水難事故をまとめました。この夏の特徴は、川の事故が多く、高校生の事故が8月に集中し、大人が子供を助けようとして命を落とした救助死が目立ちました。そして新型コロナウイルスの影響は様々な形で出ていると考えられます。

 この記事を執筆中の今、和歌山県で子供を助けようとした女性が溺死したというニュースが飛び込んできました。

まさか、8月最後の日に

 31日午後0時55分ごろ、和歌山県白浜町安居の日置川で遊んでいた小学生女児が約3メートルの深みにはまり、助けようとした引率の40代女性が溺れて死亡した。女児は近くにいた男性に助けられたが重体。白浜署が身元や経緯を調べている。署などによると、女性は友人の子ら小学生4人を連れて川に来ていた。2人が深みにはまり、1人は自力で岸にたどり着いた。岸にいた子が携帯電話で自分の母親に状況を伝え、母親が日置川消防署に通報した。

出典:共同通信 2020/8/31 17:05

 まさに、今夏を象徴するような水難事故です。子供を連れていく川は決して急流ではなく、流れが穏やかで一見するとまるでプールと勘違いしてしまいそうな水です。酷暑も手伝って、飛び込んだら気持ちよさそうに見せつつ、「おいで、おいで」をして人を引き付けます。そして、膝下くらいの水深から急に深くなる深みに人をはめます。これを沈水と言います。

 沈水は、あっという間の出来事です。一瞬で水中に姿を消して、浮き上がってきません。暴れも何もしません。河川での多くの事故はこの沈水を原因とするもので、言われるほど複雑な過程を経るわけではありません。

 突如姿を消した子供を追って、友達や大人が飛び込みます。これを後追い沈水といいます。後追い沈水による致死率は極めて高く、救助をしようとして命を落とすこの様子を救助死と特に呼びます。水難学会で使っている用語ですが、致死率の高さをどう伝えるか、散々考えた挙句の用語です。従って、読者には少々きつい言葉に感じるかもしれません。

川での水難事故が目立った

 高校生以下の人に限り、インターネットニュースに掲載された事故の死者数を図1にまとめました。

 今年は5月22日に長野県千曲市で小学2年男児と4歳男児が川に流されて、小学2年男児が死亡した事故から、平日にしかも川で発生する事故が続きました。6月に入り福岡県では用水路に落ちた小学5年と3年の男児兄弟、埼玉県と東京都では川で深みにはまった小学4年と3年女児、三重県でも川に落ちた小学3年男児が命を落としています。6月にこれだけの水難事故があった年は極めてまれです。

 7月に入っても続き、熊本県の川で小学5年女児、三重県で小学6年男児がそれぞれ川で亡くなっています。8月にもさらに事故は続き、和歌山県、島根県、神奈川県で1人ずつ、宮城県では白石川で2人の中学1年女子が亡くなっています。

図1 今年の5月から8月にかけての水難事故による死者数(筆者作成)
図1 今年の5月から8月にかけての水難事故による死者数(筆者作成)

 川の事故では、大人の犠牲者も多かったのです。いつもの年であれば亡くなる人の数は、全年齢の集計で海1.0に対して河川0.5の割合です。ところが今年は、特に水難事故が多いお盆の期間中(8月12日~16日)にて全年齢の集計で川で亡くなった人の数が多くなりました。異常な夏だったと言えます。

高校生の事故が目立った

 図1によれば、8月の1か月だけで水難事故で命を落とした高校生の数は9人に達しました。内訳は、川が5人、海が4人でした。これは昨年、一昨年に比較しても人数ベースで3倍の数です。ちなみにこれまでの年の高校生の溺死者数は、2019年は3人で、川が1人、海が2人、2018年も3人で、川が2人、海が1人でした。

 今年の大きな特徴は、家族で遊びに来ていた高校生の多くが溺れたこと。一方、昨年、一昨年は友達同士で川や海に遊びに来ていた時に発生した事故がほとんどでした。つまり、家族で遊びに来た高校生の犠牲者数が数を持ち上げた感じがあります。

救助死

 水に流されたり、沈んでしまったお子さんを救助しようとして、水に飛び込んで犠牲になる救助死。5月から8月までに発生した事故をまとめてみました。

5月30日  静岡県伊東市の松川湖、溺れた子どもを助けに行った父親(年齢不詳)が沈んで浮いてこず、捜索の結果発見され、病院で死亡が確認された。

6月8日  岐阜県美濃市前野の長良川で、溺れた9歳の長男を救出しようとした45歳の父が川に流され、溺死した。

7月23日  大阪府摂津市の淀川で、誤って川に転落した9歳の長男を助けようとして母(年齢不詳)が流されて、その後遺体で見つかった。

8月2日  福岡市東区の志賀島の海岸で、佐賀県内に住む47歳の会社員の男性が溺れた長男ら子供3人を助ける際に溺れて死亡した。

8月9日  鳥取県岩美町の海岸で海水浴に来ていた女の子2人が沖に流され、これを助けに海に入った48歳の父親が亡くなった。

8月29日  長野県南箕輪村のダム湖で、溺れた子どもを助けようとして行方不明になっていた引率の32歳の男性が遺体で発見された。

8月31日  和歌山県白浜町安居の日置川で、川遊びに来ていた小学生の女児が流され、助けようとした49歳の女性が溺死した。

 亡くなったの方がお子さんの親だった事故が多かったため、40歳代の犠牲者が目立ちました。

【参考】落水した子供からのお願い 飛び込まないでねパパ/ママ ライフジャケット編

新型コロナウイルスの影響はあったか

 川の水難事故が多かったことは、子供の行動範囲内の事故が多かったことを意味します。新型コロナウイルスの影響で学校の休校や分散登校となった5月や6月の平日に、例年より大幅増の子供が犠牲となりました。そして、それは夏休みにかけても続きました。8月に突如多くなった中学生や高校生の溺死、夏休み中にいつものプールが開いていたら、プールに向かった子供たちだったかもしれません。

 高校生の水難事故の件数は、家族で遊びに来て水難事故に遭遇した件数が押し上げたように見えます。家族で行き場所をいろいろと考えたら川になってしまったかもしれません。新型コロナウイルスの影響で、海水浴場は多くが閉鎖され、レジャープールも閉鎖する施設があったことが原因の一つだと考えられます。

まとめ

 何かしら、いつもの年とは傾向が異なる、今年の夏の水難事故となりました。これから秋の行楽シーズンに入ります。川べりでのバーベキューの機会が増えるかもしれません。川には入らないようにして、水難事故を未然に防止して楽しい思い出を作りましょう。

溺死した高校生以下の方と水難事故発生の場所一覧

5月

長野県 小学2年男児  川

熊本県 中学3年男子  川

6月

福岡県 小学3年男児

   と小学5年男児  用水路

東京都 小学3年女児  川

三重県 小学3年男児  川

埼玉県 小学4年女児  川

茨城県 高校1年男子  海

7月

福井県 2歳男児    池

熊本県 小学5年女児  川

三重県 小学6年男児  川

福岡県 小学4年女児  海

8月

鹿児島県 4歳男児   海

和歌山県 小学男児  川

島根県  小学男児  川

神奈川県 中学2年男子 川

茨城県 中学3年男子  ため池

宮城県 中学1年女子

   と中学1年女子  川

福岡県 中学1年男子  海

岐阜県 高校男子  川

富山県 高校男子  川

宮城県 高校男子  川

千葉県 高校男子

   と高校男子  海

佐賀県 高校男子  川

新潟県 高校女子  海

徳島県 高校男子  海

島根県 高校男子  川

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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