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大雪警戒の首都圏 自宅周辺の除雪作業で注意したいこと

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
例年の長岡市の積雪の様子で積雪約1.5 m。雪国の知恵をお届けします(筆者撮影)

 気象庁は29日午前、東京都内の多摩西部、北部、南部のほか、栃木県北部の一部に大雪警報を発令。雪の一日を迎えそうな関東地方です。慣れない積雪で思わぬ事故に遭って、怪我をしないように注意してください。雪国でも突然の大雪では、人は危ない目に遭うものです。特に、外出自粛の中、自宅周辺で起こりえる除雪中の事故について、雪国在住の筆者から情報提供します。

雪かきは適度な運動ですが

 雪国では、積雪の冬場の運動不足を解消するため、朝から晩まで雪かきをする人が多く、早い人では朝4時頃から起床して作業を始めます。図1のように家の前の積雪をスノーダンプで流雪溝に運んだりします。

図1 雪国では雪かきは運動不足の解消になります(筆者撮影)
図1 雪国では雪かきは運動不足の解消になります(筆者撮影)

 この運動、雪の降り始め位の時には慣れないこともあって10分ほどで体がポカポカしてきて、30分ほど続けると汗だくになり、疲れが急にきたりもします。毎日続けることによって、積雪が最も深くなる時期にはてきぱきと疲れを感じることなく作業できるようになります。つまり、雪国の人でも毎日続けることで慣れて、適度な運動として仕上げていくわけです。

除雪中に水路に近づかないように

 30分ほどで疲れるということは、そのあたりの時間から注意力が散漫になると考えてよいです。そうなると事故のリスクが高まることになります。水路に雪を捨てるほどの大雪でなければ、道端の歩行の邪魔にならないような場所に雪を集めましょう。そして、水路に雪を捨てに近づくことがないようにしたいものです。

 近づかないにしても、水路に向かってスコップで雪を投げるとき、この季節の雪は湿っているので、スコップからなかなか外れてくれません。そのため、雪がくっついたままのスコップに逆に体が引っ張られて、バランスを崩します。疲れているとそのまま雪面に倒れこんだりします。スノーダンプも同じです。下り斜面でスノーダンプを使って雪を落とそうとして、スノーダンプに雪がくっつきぱなしだと、勢いでそのままスノーダンプごと下にひっぱられて落ちたりします。

雪庇(せっぴ)に注意

 図2をご覧ください。雪が側溝などに積もると地面と水路との境がわからなくなります。誤って踏み外し側溝に落ちる事故に気をつけて下さい。特に除雪した雪を水路に流すために、地面と水路との境に雪の塊を運んできて、それを勢いよく水路に投げ込む時、ここに注意が必要です。

 雪が水路にはみ出している様子は図2でわかるかと思います。これを雪庇といいます。ここに人がのってしまうと、水路に落ちます。スノーダンプなどでここまで雪を運び、ダンプが雪庇にのると、ダンプが落ちます。ダンプを押している人も勢いで水路に落ちてしまいます。

図2 水路と地面の境はよくわからないものです(筆者撮影)
図2 水路と地面の境はよくわからないものです(筆者撮影)

スリップに注意

 地面が雪で滑りやすくなっています。水路が流れているようなところは斜面になっていることがしばしばです。また図3のように地面から水路に向かって斜面になっているところもあります。平面であれば気を付けていればそうそう滑ることもないのですが、少しでも斜めになっているところでは、雪があるとちょっとしたことで滑って落ちます。従って、水路に向かって斜めに下がっているような箇所では作業をしないようにします。ちなみに、この写真の周辺では冬に1 m以上の積雪があるのですが、今季は雪が全くありません。

図3 水路の法面の斜度と水路の深さに注意。ここで落ちたら自力で上がれない(筆者撮影)
図3 水路の法面の斜度と水路の深さに注意。ここで落ちたら自力で上がれない(筆者撮影)

 また、深めの水路には特に注意しましょう。万が一水路に落ちた時、水深がそれほどないとしても安心できません。水が冷たく、足だけ浸かった状態でも上がれないでいると凍死することがあります。普段は腕力で地面に上がれる水路でも水路と地面との境界に20 cmも積雪があると、腕力で上がれません。

水の流れを止めないように注意

 水路に雪をぎゅうぎゅう押し込めてはいけません。雪の塊で水路の水の流れをさえぎってしまうと、水がせき止められて上流にたまる一方となります。少しでも流れがあれば雪の塊は解けていくので、ちょろちょろでも水の流れを作ってください。

 雪の塊で流れがせき止められている時に、スコップや足を使って雪を砕きたくなりますが、危険です。雪が砕かれて水が流れ始めた時に勢いのついた流れに人が流されてしまう事故がよく発生します。

除雪作業全般の注意

 除雪作業は、複数人で行うこと、万が一の連絡ができるように携帯電話を身に着けておくこと、昼間の明るいうちに行うこと、このあたりが雪国で注意されていることです。

さいごに

 大雪警報が発令されて、関東の一部で今後も降雪が続くようです。自宅周辺の除雪の際には特に水路に近づかないようにしてください。コロナウイルスからも大雪からも自分の体を守るようにして乗り切りましょう。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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