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今年は海での水難事故が多すぎる。特に11日は同時多発性と言わざるを得ない

斎藤秀俊水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授
単に大波がきたではすまされない、土用波の影響は同時多発性の水難を引き起こす(写真:GYRO PHOTOGRAPHY/アフロイメージマート)

 昨日は関東地方を中心に海での水難事故が多発しました。神奈川県では、釣りをしていた30代の男性が行方不明、海岸で遊んでいた親子が流され、17歳の少年も溺れて亡くなり、そしてサーファーまでも犠牲になっています。事故は千葉県にも飛び火して、海水浴中の40人が沖合に流されました。これは離岸流事故とかの個別の問題を通り越し、同時多発性の水難であることに注目しなければならない問題です。

同時多発性の水難とは

 今回の事故を受けて、筆者が新しく提案しました。具体的な例を見てみましょう。すべて8月11日の事故です。

  • 午前9時10分ごろ、神奈川県三浦市の剣埼灯台の下の岩場で、釣りをしていた30代の男性が行方不明となった。
  • 午前11時20分ごろ、神奈川県小田原市早川の海岸で、男女3人が沖に流された。
  • 午後1時ごろ、神奈川県真鶴町真鶴の海岸で、少年(17)が沖合約20 mの海面に浮いているのを一緒に来た友人が発見した。
  • 午後2時40分ごろ、藤沢市鵠沼海岸で、「溺れている人を岸に上げた」と119番通報があった。救助された男性は死亡した。
  • 正午過ぎ、千葉県勝浦市の守谷海水浴場で海水浴をしていたおよそ40人が、100 mほど沖合に流された。ライフセーバーたちが救助にあたったが男性1人が死亡した。

 特徴として、11日のお昼前後に水難事故の発生時間が集中していることです。これは単なる偶然ではないと考えています。ある共通した現象により、広範囲で水難事故が起こる。筆者はこのことを同時多発性の水難と呼び、注意喚起を行うことにしました。

同時多発性の水難の原因は何か

 今、水難学会で太平洋上における8月11日の詳細な波伝搬の解析を行っています。その結果が出るまで確定的ではありませんが、原因は小笠原諸島近海に停滞していた台風10号から発生した風浪がうねりとなって日本列島の太平洋側を襲ったためと考えています。台風はそのように遠くにあるのに、台風が接近する前に日本沿岸が影響を受けるなど、普通はあまり意識しないと思います。しかしながら、このような同時多発性の水難が発生して初めて意識の上にのってくるのです。

 小笠原諸島近海では、台風の影響で高さ10 mに達する風浪が発生しています。それが太平洋をはるばる渡り、日本列島にはうねりと呼ばれる波として入ってきます。もともと高さ10 mに達する大きな波ですから、日本列島に到達しても威力があります。夏の土用の時期前後に来襲するこのうねりを、わが国の先祖は「土用波」と表現していました。

なぜ同時多発を意識しなければならないか

 一般的に言われる離岸流は、地域ごとにそれぞれ個別に発生します。ある地域で発生したからと言って、隣の地域で必ず発生するものではありません。発生したとしても時刻は異なります。ところが土用波が日本列島の太平洋側に襲来すると、それをきっかけにほぼ同じ時刻に同じような地形をもつ海岸で、離岸流、あるいは類似の現象が起きて、人がさらわれるような事故が発生します。

 少し難しく言うと、土用波はマクロ現象、それによって各地で同時に発生する現象、すなわち離岸流、平岸流、戻り流れなどはミクロ現象と呼ばれます。今回のように、広範囲に影響を及ぼす土用波が発生しているのに、各海岸ごとのミクロ現象による事故に気を取られていると、「本当はマクロ現象が大事」という真実が見えてこないわけです。すなわち、昔から言い伝えられてきたように「土用波には気を付けろ。」

マクロ現象とミクロ現象の関係は

 これまた数値解析を行わないと確定できません。しかしながら、マクロ現象である土用波が水難事故をどういったところでも起こすわけではなく、ある条件の整ったところでミクロ現象を発生させてその結果として水難事故を引き起こすと考えられます。今回事故の多発した相模湾と40人が流された勝浦湾の地図を見比べてみてください。一言でいうと、勝浦湾はミニ相模湾の様相を示しています。つまり、南側に向けて口を開いた湾だということです。ここについては、解析結果が出てから、詳細にお話しする予定です。

他にもある重要な要因

 水難事故は、ある特殊な現象が発生するだけでは起こりません。そこに人がいないと起こらないのです。今回は長い人で8月10日から18日まで連休です。もしこれが13日から15日の連休であれば、海への出足はもう少し鈍かったはずです。たまたま、大きな台風が小笠原諸島近海に停滞しているときに日曜日という日付、しかも連休だからゆっくりと時間を過ごしている。こういった人的な条件も重なった結果の同時多発性の水難だったと考えます。

毎日が要注意

 10号は進みの遅い台風です。今朝は愛知県でも子供が水難事故にあっています。関東ばかりでなく、西日本にも土用波の影響が出ていると思われます。どうか、海でのレジャーは控えてください。そして、台風が日本海側に抜けると日本海側の海岸には強い南よりの風を伴ったフェーン現象に見舞われます。気温があがり良い天気だと海に行きたくなります。しかし、日本海側で南風が強く吹くと、海岸からあっという間に沖に流されます。これも夏の日本海側特有の水難事故です。いずれにしても海岸での水遊びは細心の注意をもってください。

水難学者/工学者 長岡技術科学大学大学院教授

ういてまて。救助技術がどんなに優れていても、要救助者が浮いて呼吸を確保できなければ水難からの生還は難しい。要救助側の命を守る考え方が「ういてまて」です。浮き輪を使おうが救命胴衣を着装してようが単純な背浮きであろうが、浮いて呼吸を確保し救助を待てた人が水難事故から生還できます。水難学者であると同時に工学者(材料工学)です。水難事故・偽装事件の解析実績多数。風呂から海まで水や雪氷にまつわる事故・事件、津波大雨災害、船舶事故、工学的要素があればなおさらのこのような話題を実験・現場第一主義に徹し提供していきます。オーサー大賞2021受賞。講演会・取材承ります。連絡先 jimu@uitemate.jp

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