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バイクが売れて事故も増加 「不慣れ」で片づけられない理由とは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
画像出典:Webikeニュース

販売も免許も前年同期の3割増し

コロナ禍におけるパーソナルな移動手段としてバイクが売れている。全国軽自動車協会連合会(全軽自協)が発表した二輪車(原動機付き自転車を除く126cc以上)の2020年度新車販売台数は前年度比14.9%増の14万4931台となり、14万台を超えたのは12年ぶりとのこと。

また、自工会の調べによると、原付(50cc以下)を除くバイクの21年1~6月の国内出荷台数は13年ぶりの10万台超えとなる12万4590台で、前年同期比3割増という好調ぶりだ。

教習所も盛況で、「密」を避けて通勤・通学にバイクを使いたいというニーズの他、リモートワークの普及による自由時間の増加によりレジャー目的で二輪免許を取りたいという人も増えているという。報道によると「今年上半期(1~6月)の全国の二輪免許の新規取得数は約13万7000件と前年同期比36%増。特に東京都内では40%増と、都市部の伸びが顕著」(出典:日経新聞)だそうだ。

増えるバイク事故、特に都市部で目立つ

一方でバイクによる都市部での死亡事故も増えているので注意が必要だ。

近年、交通事故件数、および交通事故による死者数ともに全国レベルでは減少傾向にある。警察庁発表の交通事故統計でも2020年の全国における交通事故死者数は2839人と過去最少で統計開始以来、初めて3000人を下回った。ただ、気になるデータがある。

2020年中に発生した二輪車乗車中死者数(原付含む)が前年より16人増えて526人となり、ここ数年ほぼ毎年減少してきたが再び増加に転じた。特に目立つのが東京都で、2020年の交通事故死者数は155人と前年比22人増となり53年ぶりのワーストワンを記録。そのうち二輪車(原付含む)乗車中の死者数は40人と前年比12人増と目立っている。

また、警視庁のデータによると、都内の二輪車乗車中の交通事故死者は全体の約25.8%(前年比+約4.8%)を占め、全国平均(約18.5%)よりも高い。最新データでも21年上半期での同事故死は18人と昨年、一昨年を上回っている。

全国的に交通事故の全体件数は減少傾向にある中、バイクによる死亡事故は逆に増加しつつあり、その傾向は特に都市部において顕著に出ているのだ。

原因としては、まずコロナ禍による移動手段の変化が考えられる。前述の新聞報道によると「都内のバイク事故死の半数近くは単独事故で、カーブを曲がりきれずに電柱やガードレールにぶつかるケースなどが多く、運転に不慣れなライダーが増えたからではないか(警視庁)」とのコメントがあった。

コロナ禍が心に及ぼす影響も少なくない

もちろん初心者ライダーが増えれば、事故も当然増えるだろう。ただ、原因はそれだけではないかもしれない。コロナ禍が人の心に及ぼす悪影響もあるのではないだろうか。

先日読んだあるデータによれば、長引くコロナ禍で外出自粛や在宅勤務を強いられることで約7割の人がストレスを感じているという。収入減少や感染リスクへの不安や、癒しとなるはずの知人・友人との交流が著しく制限される中で、知らず知らずにストレスを抱えイライラを募らせる人が増えていることは容易に想像できる。

運転免許を取得したばかりのビギナーであっても、普通に運転していてカーブを曲がり切れずに壁に激突する人はまずいない。バイクに乗るためのスキル不足(運転に不慣れ)で死亡事故にまで至るケースはむしろ稀ではないだろうか。

むしろ、精神的なストレスから解放されたい衝動でついアクセルを開けてしまったり、自粛疲れから注意散漫になり事故につながるケースもあるのでは。そして、それはビギナーに限ったことではない。

事故は起こるべくして起きている

また、最近気になるのが攻撃的な運転をするクルマが増えたことだ。仕事柄、バイクで都内近郊を移動することが多いが、自分の肩に触れるぐらいの近くを物凄い勢いで抜いていくクルマにちょくちょく出くわす。

厳罰化により、あからさまな“煽り運転”は減ったが、ウインカーを出さずに急な車線変更をするクルマも増えた気がする。緊急事態宣言で一時期減った交通量も今やコロナ禍以前を上回ると思えるほどだ。そんな混雑した幹線道路や裏道で先を争うようにしてトラックや高級車やスクーターや自転車がひしめいている。

起こるべくして起き、増えるべくして増えた交通事故死者数なのではなかろうか。

自分も最近、見通しの悪い狭いカーブで、センターラインを割ってきた対向車に危うく突っ込まれるところだった。目を見開いて「うわっ!」と叫んでいる運転者は若い女性でスマホを片手に持っているのがチラッと見えた。運よく路肩に避けられたが、もしタイミングが少しずれていたら正面衝突だったかもしれない。

たまたま自分が体験したことであり、そこに何の偏見もないが、普段バイクに乗っていて正直これで事故が起こらないほうが不思議なくらいだと思うことも多い。もしかしたら、バイク事故でよく言われる「死人に口なし」の状況の中で、ライダーの不注意による単独事故として片づけられた例もあったのではないか。

その意味ではやはりバイクにもドライブレコーダーは付けるべきだろう。

イライラしても何も変わらない

二輪業界で生きる者としてバイクが売れるのは嬉しいし、新しくバイクの楽しさや魅力に触れる人が増えるのも歓迎すべきことだ。とはいえ、好きなバイクで死ぬことがあっては絶対にならない。先行き不透明なコロナ禍で、言いようのない不安や不満は今の時代に生きる我々すべてに平等に降りかかる。

イライラしても何も変わらない。日頃の安全運転はもちろんのこと、お互い相手を尊重しつつ明るく辛抱強く毎日を過ごそうではないか。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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