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ハーレーが名車「エレクトラ・グライド」を復刻 これぞ本当のネオクラシックだ!

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
Electra Glide Revival 画像出典:Webikeニュース

ハーレーの名車復刻シリーズがスタート

ハーレーダビッドソンから限定生産のプレミアム復刻シリーズ “アイコンコレクション”が登場した。このシリーズはハーレーの伝統的なフォルムとアメリカらしさを強く表現した限定生産モデルである。

その第1弾となる「エレクトラ・グライド・リバイバル(Electra Glide Revival)」が世界限定1,500台で発売、日本では4月27より337万5900円(税込)で抽選販売が開始された。今後も毎年1~2種類のモデルを発表するそうだが、生産は完全な1回限りとのことで申込が殺到しそうだ。

今回はハーレーの名車復刻版シリーズという新たな取り組みと、エレクトラ・グライドにまつわる小ネタについて語りたい。

現代に蘇った1969年製エレクトラ・グライド

「エレクトラ・グライド・リバイバル」はハーレーとして初めて「バットウィング」(通称:ヤッコカウル)と呼ばれるフェアリングを搭載した1969年製Electra Glideにインスパイアされ、最新テクノロジーによって復刻されたものだ。

カラーリングやフォルムなど当時の雰囲気を忠実に再現しつつ、現代のテクノロジーを盛り込まれているのが特長である。

1960年代のハーレーFL系に採用されていたコイルスプリング式のソロサドルシートには白×黒のカバーにクローム製レールが付くなど当時の面影を再現しつつ、調整式ショックアブソーバーを備えるなど快適性も向上。ブルーを基調とした車体色をベースに、ツートンの燃料タンクにはバーチホワイトのストライプを配置。

クロームメッキパーツやワイヤースポークホイール、ホワイトウォールのワイドタイヤなど古くからのハーレーファンには堪らない豪華かつレトロクラシックな雰囲気を醸し出している。

最新の114Vツインに最新安全支援システム搭載

エンジンは最新のミルウォーキーエイト114 Vツインエンジン(1,868cc)を搭載、シャーシも現代的な高剛性バックボーンフレームや最新の極太φ49mmフロントフォークと油圧プリロード調整付きリアショックを採用するなどコントローラブルで快適な走りを実現。

象徴的なバットウィングには、ハイシールドとストリームベントを装備しライダーの負担を軽減。さらにコーナリング中の姿勢制御にも対応した前後連動ABSやトラクションコントロールを含む最新安全支援技術「RDRS セーフティ エンハンスメント」も標準装備するなど先進の電子デバイスが盛り込まれた。

また、インフォテインメントシステムとカラータッチスクリーン、2つのフェアリングマウントスピーカーも備え、アンドロイドとアップル・カープレイにも対応するなど、中身は現代のFLシリーズ同様にアップグレードされている。

ハーレーと言えば「エレクトラ・グライド」だ

さて、アラフィフ以上の世代ではハーレーと言えばFL系、中でもエレクトラ・グライドをイメージする人は多いのでは。かくいう私もそのひとりだ。ちなみにFL系とは前後16インチのファットタイヤやディープフェンダーを装備した伝統的なツーリングファミリーのこと。

その時々で最大級のビッグツインエンジンを積んだ、ハーレーの最上級モデルである。そして、エレクトラとは「電動セルモーター」付きという意味。今では当たり前だが、当時はそれがウリになるほど画期的だったということ。

グライドは前後サスを装備したモデルに付けられ、まるで「滑るように走る」という乗り心地の良さをアピールしていた。まさにハーレーの歴史に残る金字塔的モデルだ。

映画に描かれたハーレーの中のハーレー

自分がエレクトラ・グライドを初めて意識したのは「グライド・イン・ブルー(原題: Electra Glide In Blue)」というアメリカ映画だった。70年当時に流行したアメリカン・ニューシネマの隠れた名作(と自分は思っている)で、ハイウェイ・パトロールの白バイ警官の物語だ。

主人公が颯爽と乗りこなす白バイこそがエレクトラ・グライドで、映画の中でも当時のバイカーたちの憧れの的だった様子が描写されている。日本ではハーレーの特にFL系はゆったりと旅を楽しむための豪華ツアラーのイメージだが、米国では伝統的に白バイとして過酷な使われ方をしてきた。

映画の中でも犯人との追っかけっこで階段を駆け上がったりダートを突っ走ってジャンプしたりの大活躍ぶり。やっぱ、ハーレーって凄いんだ、と子供心に残っている。

ちなみにかつての人気ドラマ「白バイ野郎ジョン&パンチ」が乗っていたのはカワサキのKZ1000Pで、「ダーティハリー2」でクリント・イーストウッドが戦う悪徳白バイ警官グループはモトグッツィのV7だったように、ハーレー以外のブランドも多く採用されているのが米国の白バイ事情である。

で、映画の結末はアメリカン・ニューシネマらしく、主人公の白バイ警官は善意で止めたクルマから撃たれてあっけなく死んでしまう。なんとも救いのないストーリーなのだが、モニュメントバレーの荒涼とした景色の中にどこまでも伸びるハイウェイを走る白バイ警官の孤独や、それと対照的な西海岸の青い空が印象的だった。

本物のネオクラシックと呼べる名車復刻に期待

自分の中での究極のハーレー像は、今でもやはりエレクトラ・グライドだ。でも、半世紀も前のFLHを所有して走らせることは想像するだけでも困難極まりないし……。という、古き良き時代を懐かしむオジサン心理を見事に突いたのが、今回の”アイコンコレクション”シリーズであり、その初っ端に「エレクトラ・グライド・リバイバル」を持ってきたハーレーの気合の入れ様が分かる。

電動スポーツバイクを世界に先駆けて発売したかと思ったら一転、ノスタルジー満載の入魂の一打をかっ飛ばしてきた。これぞハーレーの真骨頂であり、本物の“ネオクラシック”と呼べるのではないか。見方を変えれば、これは2輪業界全体にとっても刺激になる試みである。

もしかしたら、国産絶版車を含めた名車復刻ブームへの火付け役になるかも、と密かな期待も広がるのだ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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