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【GB350試乗】誰もが思い描く“単気筒バイク”の心地よさ

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
Honda GB350 画像出典:Webikeニュース

ホンダが日本で開発した空冷単気筒バイク

ホンダの新型モデル「GB350」のメディア試乗会に参加してきたのでレポートしたい。

GB350はライダーの経験やスキルを問わず、バイク本来の「自由」を楽しむためのモーターサイクルとして開発された。スタイリングは「マッシブ&シェイプド」をコンセプトに、伝統的なシンプルさの中にボリューム感と“絞り”が与えられているのが特徴で、フューエルタンクや前後フェンダー、サイドカバーに至るまで質感の高いスチールで作られている。

要となるのは新開発の空冷単気筒SOHC排気量348ccエンジンだ。1発ごとのパルス感と心地良い振動を伴った排気音にもこだわり、あえてボア70mm×ストローク90.5mmのロングストローク設定とし、ワイドレシオのトランスミッションと重量のあるフライホイールを組み合わせて粘り強い低速トルクを出している。

車体もエンジンに合わせて新設計され、伝統的な見た目としなやかな剛性バランスを持つスチール製セミダブルクレードルフレームを採用。現代のバイクらしくABSやトラコン、スリッパ―クラッチなども組み込まれ、安全で快適なライディングをサポートしている。

GB350はインドを主ターゲットとしたグローバルモデルとして計画され、開発は朝霞研究所が担当し、部品製造はインド、そして完成車としての組み立てはホンダ随一のクオリティを誇る熊本工場で行われたという。

一方、7月に発売される「GB350 S」はGB350をベースにワイドタイヤとバンク角を深めたマフラー、軽量な樹脂製フェンダーやフォークブーツを装備。低めのハンドルとバックステップを採用するなど、よりスポーティな仕様となっている。

19インチに直立シリンダー、鉄が奏でる音

今回試乗したのはスタンダードモデルである「GB350」だ。

第一印象はけっこう大柄。前後19/18インチの大径ホイールや横に張り出したタンクが存在感を放っている。そして、膨らみのあるサイドカバーや厚手の鉄板で作られた前後フェンダーのすべてが、爪で弾くと「キンキン」と奏でる鉄でできている気持ち良さ。

切削面がキラキラ光る空冷ならではのフィンを持つ直立シリンダーや、クラシカルな「HONDA」ロゴが誇らしいポイントカバーなど、実物は写真で見る以上にグレード感があってカッコいい。

ここまで単気筒らしいエンジンは他にない

エンジンはセル一発で目覚めるホンダらしい始動の良さ。ブリッピングすると炸裂音をともなった迫力あるシングルサウンドと粗粒な鼓動感が弾ける。アクセルを開けなくても丁寧にクラッチミートするだけでスルスルと走り始める粘り強いエンジンに加えオフ車並みのハンドル切れ角のおかげで、細い路地から曲がりながらの発進も容易にこなせる。

GB350の真骨頂はやはりエンジンだ。小気味よいパルス、腹に響く鼓動感など、およそ単気筒エンジンを称える言葉がそのまま当てはまる、まさにザ・シングルである。そのパルスを味わいたくて、街中を流していても、ワインディングを駆け登っているときでさえも、高めのギヤで回転数を落として走りたくなる。

ここまで単気筒らしいエンジンは現行モデルの中では他に見当たらないほど。この時代にあって極端なロングストローカーであること自体、意図的に作り込まれたものであるにしても、だ。

どこまでも自然体で乗れて味わい深い

ライポジは手前に引かれたアップハンにさっくりと腕を伸ばし、座り心地の良いフラットシートにどっしり腰掛けるクラシックスタイル。シリンダーと同じくライダーの上体も直立した“殿様乗り”がしっくりくる感じ。自然体で乗る、と言ってもいいだろう。

もちろん、腕を畳んで軽く前傾しつつ積極的に上体を入れてペタッと寝かせたら、スロットルを当てて後輪のトラクションで曲げていく、昔ながらのスポーティな走り方も可能だ。

そもそも前輪は19インチホイールなので直進安定性が高く、程よく寝たキャスター角と大きめのステアリングオフセットにより、安心できるしっとりとした操舵感を出している。路面のギャップに対しても車体全体の揺らぎの中で穏やかに吸収してくれる感じで心地よい。

ビギナーからベテランまで“この感じ”を嫌いな人はいないはず。毎日食べても胃もたれしない和定食のような親しみやすさであり、そこが味わい深さにもなっている。

もうひとつ、スリッパ―クラッチのおかけでクラッチ操作も軽く、ビッグシングルにありがちな強力なエンブレによる後輪ロックを緩和してくれるのが有難い。特に下り坂などでは気を遣わずに連続シフトダウンも可能なので重宝する。

前後ディスクブレーキもコントールしやすく万が一の場合でもABSが自然なフィールで入ってくれるので安心だ。

スペックは控えめだし電子制御も最小限でメーターには回転計すらないが、それがいい。通信簿で人を判断することをしない、そんな時代の空気も含んだ新しいオートバイだ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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