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郊外の自宅から一気にオフィスへ!「トリシティ300」は新時代の通勤快速だ

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
YAMAHA TRICITY300 ABS 画像出典:Webikeニュース

XMAXのフロント2輪版として進化

ヤマハから「TRICITY300 ABS」(以下、トリシティ300)が発売された。トリシティ125/155、そしてナイケンに続くLMW第4弾である。

すでにご存じの人も多いと思うが、LMWとはリーニング・マルチ・ホイールの略で通常のバイクのように車体を傾けて旋回する3輪以上の乗り物のことだ。搭載されるエンジンは水冷4ストSOHC単気筒4バルブ292ccの通称「BLUE CORE」エンジンで、走りの楽しさと環境性能を高い次元で両立するのが特徴である。

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「トリシティ300」のベースとなっているのは欧州向けミドルサイズコミューターのXMAX300で、日本国内ではそのスケールダウン版としてXMAX250が人気だ。エンジンは専用セッティングに最適化され、バックボーンタイプのフレームもステアリングパイプとの接合部を箱型にするなど強化されている。

スイッチひとつで自立できるのが凄い

今回の目玉は、ヤマハのLMWで初となるマシンを自立させることができる「スタンディングアシスト」機構を搭載したことだろう。停止状態(10km/h以下でスロットル全閉)で左手元のスイッチを押すだけで車体の傾きが固定される仕組み。

マシンが自分で直立してくれて、その状態でもハンドルはフリーで前後サスも動くので、バイクを降りて取り回すときなども圧倒的に楽。ナイケンを超える大柄な車体に車重も240kg近くあるのだが、ぐらっと傾かないので不安が少ない。とても重宝なシステムだ。

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また、ブレーキについてもABSと前後連動のUBSを併用することで前後効力配分のバランスを最適化。盤石の制動力と安全性を確保している点も心強い。さらにフルフェイス2個が余裕で収まる大容量シート下トランクや、上質感のある洗練されたデザインも魅力になっている。

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グローバルスタンダードとしての通勤快速

トリシティ125に始まるLMWの登場から既に数年が経ち、3輪の安定感の高さや快適性は一般ユーザーの間でも浸透しているし、またトリシティシリーズが2輪特有の不安定さに不安を持つユーザー層の救済に貢献してきたことは言うまでもない。

その後さらに格上げされたトリシティ155も加わったが、ただ、高速道路ではさすがに物足りなさがあったことも事実。その点、今回の300はパワーに加えて安定性や快適性でも大幅にアップグレードされた。

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その背景には欧州の通勤事情がある。ヤマハの調査によれば、欧州では郊外にある自宅から都市にあるオフィスへ毎日50km~100kmの距離を通勤のため移動してくる例も珍しくないという。

しかも、欧州では高速道や幹線道路のアベレージ速度が高いため、特に距離が長くなるほど、疲れにくく安全で速い乗り物が求められるわけだ。その意味でトリシティ300は中距離コミューターであり、グローバルスタンダードとしての“通勤快速”と言えるものだ。

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ナイケンと125/155を足して2で割った感じ

自分もトリシティ300に試乗してみたが、フロントの安定感が抜群なのはもちろんのこと、思ったとおりのラインに乗せられる正確なコーナリングは、まさにオン・ザ・レール感覚。

高速道路でもクルマの流れをリードできるパワフルな走りで、見た目以上にスリムな車体のおかげで混雑した一般道でも機動力は通常の2輪と変らないレベルに感じた。そして、便利なことこの上ないのがスタンディングアシスト。操作に慣れれば信号待ちのストップ&ゴーでも足を着くことなく通せるほどだ。

トリシティ300はひと口に言えば、ナイケンとトリシティ125/155のいいとこ取りのようなモデルであり、ファン領域とコミューターとの中間的な存在と言えるかも。郊外への移住や移動手段の変化など、コロナ禍で新しい生活スタイルが叫ばれている今、トリシティ300はまさにニューノーマルにフィットした乗り物なのかもしれない。

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※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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