「MotoE」マシン全車消失の悪夢 赤信号が灯ったEVレースの今後は…
デビュー直前の大火災により全車失う
2019年シーズンよりMotoGPのサポートレースとして開催される予定だった電動バイクによる世界選手権「MotoE」シリーズだが、スペイン・ヘレスサーキットで開幕前の公式テスト中の3月14日深夜にパドック内で火災に見舞われ、18台全てのマシンと充電システムの大部分が消失してしまうという一大事が発生した。
これにより5月のスペインGPで併催される予定だった開幕戦が延期されるという事態に。幸いにしてケガ人などはなく、その後代替レースを追加して当初の全6レースを開催することでスケジュール調整に入っているようだが、なんとも幸先の悪いスタートとなってしまった。
電動バイク初の世界選手権として注目
「MotoE」は正式名称『FIM Enel MotoE World Cup』からも分かるとおり、電動バイクによる初の世界選手権である。運営しているのはMotoGPと同じドルナスポーツで、使用するバイクはイタリアのEnergica Motor Company(エネルジカ・モーター・カンパニー)製のストリートモデル「Ego」をレーサーに改造したワンメイクマシンによるスプリントレースである。最高速度は270km/hに達すると言われ、Moto2にも迫るスペックを持っている。
100%再生可能なエネルギーを原動力とする技術革新から生まれた新たなレースとして注目を集めているが、まさにデビュー直前での見過ごせないトラブルということで、いろいろな意味でそのダメージは少なくないだろう。その後、4輪F1の電動版であるフォーミュラEのCEOが「MotoE」への支援を表明したことがニュースになっていた。フォーミュラEではそうしたトラブルは過去に起こっていないようだが、今回の一件で“電動”にケチがついたことは残念である。
高密度バッテリーのショートが原因か
気になるのは火災の原因である。パドックで保管されていた激しい炎とともに燃え上がるピットの様子は、ネット上の画像や映像でも公開されているが、そこまでの火災を引き起こしたものは何だったのか……。MotoGPを運営するドルナスポーツによると、充電中のバイクからの出火ではなさそうである。その後の調査では、火災の原因は充電ステーションでの高密度バッテリーのショートに起因しているとも伝えられている。
高密度バッテリーとは従来の鉛バッテリーなどに比べて単位体積当たりのエネルギー密度が高い2次電池のことで現在の主流はリチウムイオン。小型で高性能なためスマホや電気自動車に使われているが、弱点としては一般的なリチウムイオン電池の電解液には引火性がある物質が使われていることだ。PCから発火して火事になったり電気自動車が燃えたり、といったニュースを頻繁ではないにしろ耳にすることがある。
「MotoE」マシンの動力システムの詳細については分からないが、高電圧・大容量のバッテリーを搭載しているだけに何かあれば火災につながるリスクも高いと言えるだろう。EVにおけるこうしたリスクについては、車両メーカーももちろん重々承知しているはず。「MotoE」の名誉挽回のためにも速やかな対策がなされると思うが、現状では情報は掴んでいない。ちなみにリチウムイオンに代わる、より安全な次世代バッテリーとして「全固体電池」なども研究開発段階に入っているが、実用化にはまだ時間がかかりそうだ。
21世紀はEVの時代であることに疑いはないが、今回の事故はEVがまだ発展途上であることを図らずも露呈してしまった感がある。「MotoE」は電動バイクのひとつの究極であり、最先端をゆく走る実験室と言っていい。その意味でも今後の動向に注目していきたい。