KTM「790アドベンチャー」処方箋 バイクに学んだ砂漠の走り方とは
初めてのデューンに圧倒されっぱなし
先日アフリカの砂漠をバイクで走ってきました。というのも、オーストリアのバイクメーカー、KTMのニューモデル「790アドベンチャー」シリーズの国際試乗会がモロッコで開催されたからです。そこで得た貴重な体験についてお伝えしたいと思い筆を執っています。
試乗会が行われたのは、カサブランカから飛行機で1時間ほど内陸に飛んで、さらに車で1時間ほど奥に進んだエルフードとういう町。アフリカの屋根、アトラス山脈を越えるとそこはサハラ砂漠です。その北端にあるのが国際ラリーでも有名なメルズゥーガ大砂丘。今回の試乗会の地は、なんとそこだったのです。
深夜にホテルに着いたので周囲は真っ暗で分からなかったのですが、朝目覚めてみると周囲にはデザート(砂漠)が広がっていました。自分は仕事柄いろいろなバイクで林道などを走った経験はありますが、本格的なデザートはほぼ初めて。ましてやデューン(大砂丘)など見たこともありませんでした。その景観に圧倒されながらも、ここまで来たからには挑戦しないことには何も始まりません。同じように緊張の面持ちの海外ジャーナリスト達とともに砂漠へと入っていったのでした。
高速道路並みに飛ばす
ひと口にデザートといっても、アスファルトのように固くしまった赤土から、拳大の石がゴロゴロした荒地に、フカフカの砂地まで実に様々な路面があり、それがときにミックスしながら刻一刻と変化していきます。先導するKTMのテストライダーは「フラットダートだから大丈夫!フォロー・ミー!」とか気軽に言いますが、前を行くバイクが巻き上げる砂埃で先が見えない上にいきなり腰の高さぐらいのコブや小さな岩が地面から飛び出していることもあったり(汗)。そこを80~100km/hのアベレージ速度で突っ走っていきます。
危ないと思ったら開けろ!
アッと思ったときにはブレーキをかけても間に合わないので、そんなときはどうするのか…。思い切ってアクセルを開けていくのです。これはKTMスタッフから最初にアドバイスを受けたのですが、「危ないと思ったら開けろ!」というシンプルな金言でした。段差で思わずブレーキをかけてしまったり、サンド(砂地)でアクセルを戻してしまうと一気にフロントに荷重が移って前のめりになり、最悪は斜面に突き刺さったり砂にフロントをとられて転んでしまいます。また、岩などにまともにタイヤを当ててパンクさせてしまうことも。
ギリギリ越えられそうな小さな岩などはフロントを浮かせ気味にしてヒットの衝撃を和らげることで、タイヤがパンクするリスクを減らすことができるのだとか。KTMのテストライダーを見ていると、上手いライダーほど常にフロントを宙に浮かせるようにして走っているのが分かりました。湖面を跳ねるように進むモーターボートみたいなイメージですね。
パウダーのような砂でもがく
特に難しかったのがデューンで、山のようにそびえる大砂丘ではトラクションコントロールなどの電子制御は役に立たず、低速でジワジワと登ることもできません。砂といっても細かいパウダーのようで、まるでグリップしないのです。
そこで、トラコンを完全にオフにして下りで速度を乗せつつ勢いで登っていくのですが、頂上付近では先が見えずビビッてアクセルを戻すとすぐに失速してスタックするか、砂の抵抗でフロントをとられて転んでしまいます。でも、ただ開けていけばいいというものでもなく、トラクションをかけすぎて後輪が砂に潜らないように、速度と上り下りの傾斜によって前後輪への荷重分布を探りながらアクセルをコントロールする慎重さも求められました。デューンはとても難しいと聞いてはいましたが、想像以上でした。
マシンに助けられ大いに学んだ
まあ、こういう走りができるのもマシンの性能のおかげ。KTMの最新モデル「790アドベンチャー」だからこそと言えるでしよう。ブロックタイヤを標準装着したワイヤースポークの大径21インチホイールと前後240mmのストローク量を持つWP製サスペンションによる走破力、ピーク95psを発揮する並列2気筒の強烈なパワーを“乗り越えるため”の瞬発力に変える「ラリーモード」等々、世界一過酷なラリーと言われるダカールラリーで18連覇したKTMならではのエッセンスが詰まったマシンのお陰なくしては無事完走できなかったと思います。
今までもいろいろなニューモデル試乗会に参加してきましたが、今度ばかりは完全にバイクに助けられた感が大きかったですね(笑)。究極のオフロードとも言われる砂漠の走り方も含め、大いに勉強になりました。
※原文より筆者自身が加筆修正しています。