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MotoGPで2年連続3冠達成!ホンダRC213V 強さの秘密とは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
画像出典元:motogp.com

世界最高峰の2輪モータースポーツ、MotoGPクラスにおいて昨シーズン2年連続で3冠を達成したホンダ。その強さの秘密をHRCのレース責任者の方にインタビューする機会がありました。普段、なかなか聞けない話の中から、いくつか印象に残ったエピソードをご紹介したいと思います。

ライバル勢も強くなっている

世界最大のモーターサイクルメーカーであるホンダはMotoGPでも圧倒的な強さを誇っているように見えますが、その実、他のライバルとの実力差は年々縮まっていると言います。歴史的に見てもヤマハとは常に熾烈なチャンピオンシップ争いを演じてきた感がありますが、最近はドゥカティも脅威になっているとのこと。もちろん、スズキも着実に調子を上げてきていますよね。

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昨シーズンを振り返ってみても、王者マルケスの奮闘により全19戦のうち9勝(うち1勝はクラッチロー)と勝率こそ50%に近いですが、ホンダ勢でポイントランキング10位に入っているのは2台(1位マルケス、7位クラッチロー)のみ。残りはヤマハとドゥカティが3台ずつでスズキが2台と実力が拮抗し、乱戦になっている様子がうかがえます。

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レース中継を見ていても、ロングストレートコースではトップスピードでRC213Vがドゥカティに引き離されるシーンも見られました。ロードレース世界選手権のトップカテゴリーが2スト500ccだった時代から“パワーのホンダ”は他の追従を許さなかったわけですが、意外なことに今はそう言い切れる状況ではないようです。

理由としては、MotoGPにおける技術革新の早さがあるようで、近年特にエンジンとエアロダイナミクス(空力)の進化が大きいようです。もちろん、ホンダが手を抜いているわけではなく、ライバルが強くなってきているらしいのです。

重箱の隅を突きつつ時に英断も

厳しいレギュレーションの縛りの中で行われるMotoGPマシン開発は、まさに「重箱の隅をつつくような作業」と言います。でも、ときには非常識と思えることにあえて挑戦してみることも必要とか。その多くは失敗に終わっても、成功すると大きく伸ばせる可能性があります。ときには開発者のひらめきに任せて、ガラッと変えてみることもあるそうです。

近年の例としては、エンジンに関してV4レイアウトの燃焼サイクルを変えたことが挙げられ、パワーそのものよりも後輪のトラクション向上に効果があったと言います。古くは2スト500ccのWGP時代にもパワー重視の等間隔爆発から、位相同爆のいわゆる“ビッグバン”エンジンに変えたことでホンダは黄金時代を築いた時期がありました。

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また、最近話題になっているウイングレットもしかりでしょう。2015年に不用意なウィリーを抑制する狙いからドゥカティが投入したフロントカウルの「翼」は瞬く間に他のライバルチームにも広がりました。ことさら、2016年から公式タイヤサプライヤーとしてBSに代わってミシュランが供給され、フロントグリップ不足が指摘されるようになると、ウイングレットは旋回中のダウンフォースを稼ぐ方向へと進化。その後、行き過ぎたウイング形状が危険との判断から2017シーズンで禁止になると、各チームとも規定内ギリギリで微妙な「空力デバイス付きカウル」を開発しています。RC213Vもさまざまなタイプをライダーの乗り方やコース特性に合わせて開発。フロント接地感とハンドリングを両立させることでトータルとして戦闘力を高めているそうです。

画像出典元:motogp.com
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つまり、MotoGPにおける速さ(強さ)とは、馬力やトップスピードなど単純なスペックだけではないということ。それをいかに効率的かつ安定してマシンを前に進めるためのエネルギーに変えるかということらしいです。

勝てないときでも表彰台は逃がさない

まさに群雄割拠のMotoGP戦国時代において、2年連続3冠を達成したホンダの強みとは何なのでしょう。

レースとは自分たちの強みと弱みを知った上で、選択と集中を繰り返しながら、改良改善を積み上げていくものだとか。気の遠くなるような地道な作業のようです。そして、レースに勝つには「チーム」と「マシン」と「ライダー」の3つの実力が揃っていることが大事で、どれが欠けていても勝てないもの。HRCではそこをきっちり整える努力をしているそうです。

画像出典元:motogp.com
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ホンダ+マルケスの実力をもってしても、すべてのサーキットで勝てるほどMotoGPは甘いものではないと言います。ではどこで勝つのか。勝てる見込みがあるレースではきっちり勝って、苦手なコースでも表彰台は逃さずポイントを稼ぐという、年間を通じた戦略がキモになってくるのです。ひと口に表現するならば「トータルパフォーマンス」での勝利ということでした。そう聞くと納得。他のスポーツだけでなく受験や仕事など、すべての物事に共通する考え方ですよね。

もうすぐMotoGPも2019シーズンを迎えます。3年連続3冠獲得を目指すホンダとそれを阻止すべく総力を挙げるライバル勢。世界最高峰のバトルが楽しみですね。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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