Yahoo!ニュース

空気圧は低め?高め?間違いだらけのタイヤ知識

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト

サーキット走行では低めがセオリー!?

ライディングスクールでよく聞かれるのがタイヤの話。特に空気圧についての質問が多いです。「サーキットでは空気圧は落としたほうがいいですよね!?」とある参加者。聞くと前後とも1.8kgf/cm2(約180kPa。以下、単位は省略)に落としているとのことでした。理由はレース経験者からそう教わったとのこと。車両は1,000ccの大型スポーツバイクで、調べてみると車両メーカーの指定空気圧はフロント2.5、リヤ2.9に設定されていました。

ちなみにメーカー指定空気圧はチェーンケースやスイングアームに表示ステッカーが貼ってあるので、知らない人はチェックしてみてください。

OEタイヤは落としても1割程度

結論から言うと、これは落とし過ぎ。そもそも「サーキットでは空気圧を落とす」というのは間違いです。OEタイヤ(車両出荷時に装着されているタイヤ)にはそのモデルに適した性能が与えられていますが、たとえスポーツモデルであっても一般公道での使用が前提となっています。つまり、街乗りからワインディング、高速道路を使ったタンデムツーリング、雨の日など幅広いシチュエーションを想定しているわけです。

前述の車両メーカーの指定空気圧はこれらの条件で安全・快適に走れるように設定されたものです。では、サーキット走行などはどうかというと、速度レンジが高く発熱量も多くなり内圧が上昇することを考えても、せいぜい1割程度落とすのが無難と思われます。前述の場合であれば、フロント2.3、リヤ2.6程度といった感じでしょう。この程度であれば、自走でそのまま乗って帰っても大丈夫です。

2.0以下にしてもいいのはレース用

さて、では何故その参加者は勘違いしてしまったのでしょう。本格的なサーキット走行やレース経験者ならご存じと思いますが、前後2.0を切るような空気圧は「プロダクションレース用」タイヤのみで有効です。銘柄によって多少異なりますが、およそフロント2.0、リヤ1.8程度が今の主流になっています。場合によってはもっと低いこともありますが、それぞれのタイヤメーカーごとに推奨空気圧をホームページなどで提示しています。もし分からなければ、二輪用タイヤ専門店やメーカーに直接問い合わせてみてください。

同じタイヤでも目的が異なる

画像

しかしながら、なぜ同じタイヤなのにそれほど空気圧が違うかというと、それは目的が異なるからです。これはレースで勝つために設計されたタイヤなので、コンパウンド(ゴム)やプロファイル(形状)や内部構造もOEタイヤとはだいぶ異なります。プロダクションレース用タイヤは熱が入ると強力にグリップする性質のコンパウンドを使い、フルバンク時に接地面積を増やすプロファイルが与えられ、荷重が十分にかかったときにたわませてグリップ力と接地感を高める構造になっています。

反面、冷間時はまったくグリップせず、浅いバンク角では重く感じ、荷重をかけられなければ本来の旋回力も発揮できないなどデメリットも合わせ持っています。参考までに、MotoGPなどで使用されるレーシングスリックは、1.2程度まで下げることもあるそうです。

タイヤに応じた最適な空気圧管理を!

話を戻すと、最初から車両に付いているOEタイヤは、いたずらに空気圧を下げると逆に旋回力やグリップ性能が低下してハンドリングも重くなるなどデメリットが多くなりますし、さらには高速道路でバーストする危険性もないとは言えません。一方のプロダクションレース用タイヤを公道で履くと、それはもうデンジャラス以外の何物でもありません。たまにワインディングなどで見かけると、思わず「走り出しには注意して!」と声をかけてしまいたくなります。つまり結論としては、目的に合わせてタイヤを選び、そのタイヤに応じた最適な空気圧にしっかりと設定することが大事です。

最後に、タイヤの空気圧は何もしなくても1か月に約5~10%(初期値2.0kgf/cm2であれば0.1~0.2kg/cm2)は低下すると言われています。冬の間、バイクにあまり乗らない人も多いと思いますが、走り出す前には空気圧チェックを忘れないようにしましょう!

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

佐川健太郎の最近の記事