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KTMがダカールラリー18連覇!ホンダの挑戦を退け続ける強さとは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
2輪総合優勝のプライス(左)と2位ウォークナー(右) 写真:Marcin Kin

終わってみれば1-2-3位表彰台を独占

第41回ダカールラリー2019が南米ペルーで開催され、10日間の激闘を経て1/17に閉幕した。18連覇を目指す王者KTMと30年ぶりの優勝に向けて盤石の体制で挑むホンダによる総力戦の様相を呈したが、終わってみればKTMによる1位~3位表彰台独占という結果に。そしてKTM傘下となったハスクバーナが4位、5位に入るという大躍進ぶりを見せた。

一方、CRF450ラリー5台を投入してファクトリーチーム体制で挑んだホンダ勢はコルネホの7位が最高位。エースのバレダが序盤トップを快走しつつもアクシデントによりリタイヤを余儀なくされるなど不運も重なったが、今回もKTMの牙城を崩すことはできなかった。

そこで、今回は1-2-3フィニッシュで表彰台を飾ったKTM(Red Bull KTM Factory Racing)の強さの秘訣を解き明かしてみたい。

市販モデルに近く信頼性が高い

ペルー1国開催で行われた今年のダカールラリー2019は、例年より短い全行程5,000km強で、そのうち砂漠が7割という難しいコースとなった。距離としては短いが、その分競技はハイスピード化する上に砂漠ではエンジンパワーを食われるため、どうしても回転数を上げて走ることが多くなる。そして、連なる巨大な砂丘を越えながら、ときにはビルの3階から落下するような衝撃も受けるという。

Photographer : Marcin Kin
Photographer : Marcin Kin

さらに、極端な気温変化に加えパウダーのように細かい砂粒がメンテナンス中でも容赦なく入り込んでくる。つまり、エンジンにも車体にも電子パーツにも究極のタフネスが求められるのがダカールラリーなのだ。

Photographer : Marcin Kin
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また、KTMのファクトリーマシンは市販モデルのKTM450ラリーと基本的に同じ構造という。その意味でスペシャルパーツが少ないため市販モデルとの部品共有もしやすく、それが信頼性向上にもつながっているのだとか。

オフロード界に燦然と輝く実績

KTMは最近でこそ、MotoGP参戦や、市販モデルでもDUKEシリーズなどのオンロードスポーツモデルを大挙投入するなどアスファルト色を強めているが、その真骨頂はオフロードにある。

ダカールラリー18連覇という、他のモータースポーツでも類がない圧倒的な強さもさることながら、1990年から欧州を中心に開催されている「エンデューロ世界選手権」や、2003年からワールドチャンピオンシップに格上げされた「クロスカントリーラリー世界選手権」などの耐久系オフロードレースにおいても断トツのタイトル獲得数を誇るなど、KTMはまさにオフロード界の帝王とも言える存在だ。

Photographer : Marcin Kin
Photographer : Marcin Kin

ライバルだったハスクバーナの強みを吸収

2013年にKTMグループの傘下に入ったハスクバーナの存在も大きい。何故ならスウェーデンの古豪2輪ブランドであるハスクは、前述の耐久系オフロードレースにおいてKTMに次ぐ勝率を誇ってきたメーカーだからだ。KTMとしては当時最大のライバルだったハスクを買収することでそのノウハウと経験値も同時に得たわけだ。ダカールラリー2019でKTMに次ぐ4位、5位を獲得したハスク勢にも当然チャンピオンマシンのKTM450ラリーのエッセンスがフルに注入されていることは想像に難くない。事実、ハスクのパブロ・クインタニラは最終ステージま

===でKTMトップのプライスに1分差で2位に付けるなど、その実力はKTMと拮抗している。

超一流ライダーを擁するドリームチーム===

もちろん、KTMはライダーも超一流揃いだ。2輪部門総合優勝のトビー・プライスは2016年にオーストラリア人初のダカール優勝をもたらし、2018年にはクロスカントリーラリー世界選手権タイトルも獲得している猛者。トレーニング中の左手首の負傷により一時は出場さえ危ぶまれていた中での好走であり、痛みに耐えながらエースとしての責任を果たした。

Photographer : Marcin Kin
Photographer : Marcin Kin

また、2位に入ったマティアス・ウォークナーは昨年のダカールを制したディフェンディング王者であり、3位のサム・サンダーランドは同2017年度チャンピオンという豪華すぎる役者を揃えている。全員がトップを走れるという分厚い選手層もKTMの強みである。

KTMはダカールの戦い方を知っている

これは関係者に聞いた話だが、KTMは他のファクトリーチームに比べても割と小規模体制で、チームディレクターと選手、エンジニアやメカニックとの距離感が近いという。緊密なコミュニケーションがとれていて皆友人のように仲が良いのだとか。こうした柔軟さはきっと、チームの意思決定やライダーのメンタル面でも有利に働くはずだ。

Photographer : Marcin Kin
Photographer : Marcin Kin

総じて言うならば、KTMはレースの戦い方を知っている、ということになるだろうか。来年のダカールラリーではどんなドラマを見せてくれるのか、今から楽しみだ。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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