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元祖1100カタナはやはり凄かった! 現代マシンが忘れてしまったものとは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
SUZUKI GSX1100S カタナ(1994)

最近、旧車に試乗する機会があった。優良中古車を豊富に揃えている「バイク王」の企画で、往年の人気絶版車に一気乗りすることができたのだ。

その当時のモデルの世界観と魅力にあらためて触れることができる貴重な体験で、現行モデルも同時に乗り比べたので、なおさらよく分かった。その中で今回はスズキのGSX1100Sカタナについて話をしたい。

時代を超えた永遠のアイコン

先日のインターモト2018でも一番の注目を集めた新型カタナの登場によって、再び日の目を浴びることになった元祖1100カタナ。その人気は今なお凄まじいものがある。「バリバリ伝説」や「キリン」などの劇画や「西部警察」などのTVドラマや映画にも度々登場するなど伝説化された1100カタナは、80年代に青春時代を謳歌した我々の年代には懐かしく、また若者世代にとっては新鮮に映るに違いない。

初代カタナが発売された当時の80年代初頭、日本ではまだ大型二輪免許は限定解除で合格率3%と言われた狭き門。しかも国内の正規ルートで買える最大排気量は750ccまでだった。いわゆるナナハンである。そこに登場した輸出モデルの1100カタナはバイク少年から見れば夢のまた夢。ハンス・ムートによる日本刀をモチーフにしたデザインの斬新さはきっと今のどんな新型モデルよりもインパクトがあったと思う。そして世界最速レベルの動力性能に世界中が度肝を抜かれたのである。その意味では時代を超えた永遠のアイコンと言ってもいいだろう。そのカタナに約20年ぶりに乗ったのだ。

ライポジからして普通ではない

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まず大柄だ。低く長く伸びやかなフォルムと存在感を主張する巨大な空冷エンジン。これぞ大型バイクというオーラが全身に漲っている。デカくて重いけれど、それがカッコいい。

ライポジも普通ではない。急角度に絞られたセパハンとロングタンク、バックステップという快適とは無縁とも思えるスパルタンな組み合わせが時代を感じさせる。それでいて、シートは低く足着きは抜群に良い。概して昔のバイクはそんな感じで、今のスポーツモデルのように「軽くスリムでライポジは快適だけど、車高が高く足着きに難あり」というのとは対極にある。ちょっと考えさせられる事実だった。

ディーゼル機関車のような重厚な走り

エンジンがまたいい。重いクランクがゴロゴロと回っている感じや、スロットルを開けたときの重厚な吹け上がりと荒々しいサウンド。ちょっと鈍いなと思わせるフリクションの多さがライダーに安堵感を与えてくれるのだ。現代のマシンのようなシュンシュンと回るエンジンやコンピュータ制御のFIによる俊敏なレスポンスとはまた違った、良い意味での“ダルさ”が気持ちいいのだ。

重量クランクによる弾み車のような低速域での安定感もしかりで、アイドリング状態で放置していてもドロドロと進むし、セパハンなのに正立フォークでハンドル切れ角も大きいのでUターンも楽々できてしまう。

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そして、スロットルを全開にしたときの湧き上がるような加速感。その力強さはまるでティーゼル機関車のようだ。ハンドリングも軽快とは言えないが素直でクセがなく、大型バイクらしい手応えと重厚感が味わえる。ブレーキやサスペンション、タイヤの性能は現行マシンとは比べ物にならないが、それでも慣れてくるとそこそこのペースで飛ばせるし、何よりも乗っているだけで高揚感があって楽しいのだ。

以前に乗ったときには、ちょうど世紀末のメガスポーツによるパワー競争の時代だったので、1100カタナがどうにも古びた鈍重なマシンという印象があったが、今あらためて乗ってみると、設計当時の本来の素性の良さがしみじみと伝わってきた。自分が齢をとったからかもしれないが。

カタナには時代の輝きがあった

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バイクとしてのスポーツ性能や快適性を追求していくと、どうしても皆同じような方向にいってしまうのは仕方ないことかもしれないが、同時に何か物足りなさを感じてしまう自分もいる。そして、そうでなかった時代を懐かしく思ってしまったりするのだ。それは人間の野生の本能なのか、あるいは発展途上にあったバイクへの浪漫なのだろうか。

そう言うとまた、オジサンの「昔は良かった」トークだよと言われそうだが、それでもいい。1100カタナにはそういう時代の輝きがあったのは事実なのだから。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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