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【KTM 790DUKE 海外試乗動画レポート】並列2気筒が広げた新たな走りの魅力

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
KTM 790DUKE

大阪・東京モーターサイクルショーでも注目を集めたKTM「790DUKE」の国際試乗会がスペイン・カナリア諸島で開催された。KTM初の並列2気筒エンジンを搭載した期待のミドルネイキッドの実力をWebikeニュース編集長のケニー佐川がレポートする。

KTM初の並列2気筒

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昨年のEICMAで発表された790DUKEプロトタイプがついに市販モデルとなって登場した。KTMはこれまでミドルクラスのロードスポーツセグメントに単気筒エンジンの690DUKEを投入していたが、これにより異なるエンジンを搭載した2系統のマシンが揃うことになった。名前からは排気量が100cc増えただけのような気もするが、その実は完全新設計の水冷並列2気筒DOHC4バルブエンジンが与えられた新世代のロードスターである。

何故このクラスなのか!?

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今世界では600cc~800cc程度のアッパーミドルクラスの需要が高まっているという。理由としては、リッター以上のクラスに比べて扱いやすいパワーと軽量な車体により、ビギナーには敷居が低くベテランにとっても操れる実感を得やすいからだ。

また、プライス的にも手を出しやすい等々、こうした価値観へのシフトは万国共通のようだ。最近、各メーカーが力を注いでいるこのセグメントをリードする主力モデルとして投入されたのが790DUKEなのだ。

必然から生まれた並列2気筒

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そこで何故並列2気筒なのか、という疑問がある。従来の690 DUKEには通称LC4が搭載されていたが、この伝統的な水冷単気筒エンジンは熟成の極みにあり、シングルという機構的にも排気量的にもこれ以上のパフォーマンスアップは難しいとの判断もあったらしい。

片や1290スーパーデュークRなどに搭載される水冷V型2気筒のLC8は強力だが、前後にシリンダーが開いたVツインは構造的にどうしても大きく重くなるため、中間排気量では不利になる。また、マスの集中化や前輪分布荷重を増やすという意味においても、コンパクトに作れる並列2気筒のほうがレイアウト的にも自由度が高かったということだ。

結果として、790DUKE用に新たに並列2気筒に2軸バランサーを搭載した「LC8c」が開発された。コンパクトを表す小文字のCが象徴するように非常に小さく軽く作られたエンジンである。

スタイルとライポジも新世代に

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790DUKEをひと目見て思ったのはスマートに洗練された感じ。モタード的な雰囲気を残した従来の690と比べると、シルエットもより低く長くなった。昨年フルチェンジしたスモールDUKEシリーズなどと同様のLEDヘッドライトやシートレールに沿うように配置されたアップマフラー、長いスイングアームが新しい世代であることをアピールしている。

そして、単気筒並みに収められたコンパクトなエンジンが印象的だ。

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ライポジに関しては、シートが825mmと低めかつ車体がスリムなため、見た目以上に足着きは良い。ハンドルとステップの位置関係も自然で、基本的には上体が起きた楽なポジションがとれる。

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今回、気に入ったのがシート。座面がフラットで前後にも動きやすく、街乗りなどの低速域では前寄りに乗るとコントロールしやすく、スポーツ走行では腰を引いてやや後ろに座るとハングオフも決まるなどライディングの自由度が高い。従来のDUKEシリーズはやや着座位置が固定されていたのに比べて、そこが大きく異なると感じた。

75度クランク独特の鼓動感が楽しい

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エンジンの回転フィールは非常にスムーズで、それでいてメリハリの効いた鼓動感もある。75度位相クランクと435度(360度に75度の位相を加えた値)のファイアリングオーダー(爆発間隔)が編み出す独特のリズムはVツインに近い感じで、新設計の2軸バランサーのおかげで振動もほとんどない。

出力特性は総じて扱いやすく、日常的に使う低中速域はほどよくパンチがあってトルクフルで、その気になればレッドゾーンを刻む1万回転過ぎまで吹ける伸びやかさもある。まろやか仕立ての中にピリ辛が効いている感じか。

最大トルクが86Nm/8000rpm、最高出力が105ps/9500rpmというスペックからも分かるとおり、普通の人間が扱える丁度いいレベルのパフォーマンスで、乾燥重量169kgとクラス最軽量級の車体と相まって軽快なフットワークが魅力だ。

ビギナーにも優しい穏やかな乗り味

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ハンドリングも軽快だが鋭すぎず、想像していたよりも安定感がある。「SCALPEL(外科用メス)」の異名をとるだけに、どんなに過激なマシンかと身構えていたが、実際に乗ってみると意外なほど穏やかだった。

1475mmという長めのホイールベースと、エンジンを剛性メンバーの一部とした新設計の鋼管フレームによるところも大きいと思う。オフロード由来のトレリスフレームを採用していた690DUKEに比べると、エンジンは当然よりパワフルではあるが乗り味としてはしなやかな感じなのだ。よってビギナーにとってもとっつき易いマシンになっていると思う。

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豊富なストローク量が与えられたWP製前後サスは乗り心地も快適で、グラン・カナリア島の荒れた路面にもよく追従してくれたし、今回初めて採用されたJ1製(刻印はKTM)のブレーキも扱いやすく、マキシス製のOEタイヤも不安ははなかった。ちなみにJ1はKTMのMoto2、Moto3マシンにも採用されているブランドで、タイヤも790DUKEのためにマキシスと共同開発されたものだという。

こうした新たなサプライヤーとの協業も今回の注目点と言っていいだろう。

電子制御がもたらす安心の走り

そして、790DUKEのもうひとつの注目点が電子制御の充実ぶりだ。

4段階(スポーツ、ストリート、レイン、トラック)のライディングモードに「スーパーモトモード搭載のコーナリングABS、トラクションコントロール、エンブレの効きをコントロールするMSR、アップ&ダウンシフター、そしてこれらの電制システムをライダーが一元管理するためのTFTフルカラーディスプレイなど上級モデル並みの最新装備が与えられている。

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公道テストでは実際にいろいろなモードを試してみたが、山間のワインディングに吹き溜まった路面の土砂などに対してもトラコンやコーナリングABSのおかげで安心して対処できたし、アップ&ダウン両方に機能するクイックシフターのためギヤチェンジも飛躍的に楽になった。

これはビギナーだけでなく手練れたベテランにとっても有難い装備と言える。

間口が広がった新世代のロードスポーツ

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サーキットでも試乗してみたが、等身大の扱いやすいパワーと軽快なフットワークにより思いっきりスポーツライディングを楽しむことができた。

さらにペースを上げて「トラックモード」で攻め込んでいくと、S字の切り返しなどでサスペンションにもう少し落ち着きが欲しく、タイヤにもさらなるグリップを求めたくなる場面もあった。ただ、そこは要求するレベルに応じて自分でカスタムすべきだろう。

790DUKEのメインステージはやはりストリートであり、軽快なハンドリングで気持ち良くスポーティな走りを楽しむのが本来の姿だと思う。790DUKEは並列2気筒と新しいシャーシを得て、ぐんと間口が広がった新世代のロードスポーツモデルだ。

街乗りからツーリングまで普通に使えて、望めばエキサイティングな走りにも応えてくれる懐の広さが魅力だ。

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【Webikeモトレポート】KTM 790DUKE 試乗インプレッション

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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