東京モーターサイクルショー思考探索その3 二輪業界にも押し寄せる「ボーダーレス」の波
大盛況だった今年の大阪・東京モーターサイクルショーから、最近のバイク業界のトレンドを読み解くコラムの第3弾。今回のテーマは「ボーダーレス」である。
ボーダーレス化するカテゴリー
「レトロスポーツカフェレーサー」、「トラベルエンデューロ」、「ネイキッドとスーパーモタードの異種混合スタイル」等々、最近のバイクのカテゴリーを表す言葉は年々複雑で分かりづらいものになっている気がする。
昔はレーサーレプリカやネイキッド、アメリカンやオフロードなどもっと単純に分類できたし、その言葉からバイクの形や使い方などを容易にイメージできたものだが、最近はちょっと見聞きしただけではそのモデルの全体像を理解できないし、乗り味なども想像しづらくなっている。
SUVなどが花盛りの4輪の世界では、ずいぶん前からカテゴリーのボーダーレス化、あるいはクロスオーバー化が進んでいるようだが、2輪でもいよいよその傾向が顕著になってきた。
カテゴリーという概念がすでに古い!?
たとえば、冒頭に挙げたコンセプト「レトロスポーツカフェレーサー」、「トラベルエンデューロ」、「ネイキッドとスーパーモタードの異種混合スタイル」から車種がすぐ分かった人は相当なバイク通だろう。
順に明かすと最初がカワサキの「Z900RS CAFE」で、往年の名車であるZ1をオマージュしたネオクラシックモデルのZ900RSにロケット風ビキニカウルや一文字風ハンドルなどをあしらってかつてのカフェレーサー風に仕立てたモデルである。
▲Z900RS CAFE
次がKTMの「1290スーパーアドベンチャーS/R」などのシリーズで、エンデューロモデル並みの走破性能と長距離ツアラーとしてのパワーと快適性を併せ持ったモデルという意味だ。昔ならビッグオフと言いたいところだが、最近ではオフロード寄りのアドベンチャーツアラーの一派として分類される。
▲1290スーパーアドベンチャーS
そして最後がヤマハの「MT-09」で、伝統的なジャパニーズ・スタンダード的なネイキッドとは一線を画するマス集中と脚長デザインを取り入れることで、モタード的な走りの自由度を表現したモデルと言える。
▲MT-09 SP
さらに今回登場したトレーサー900/GTはそのMT-09をベースに大型スクリーンとパニアケースを装備したスポーツツアラーということでさらに複雑。
▲トレーサー900 GT
ホンダのX-ADVに至っては、一見スクーターのように見えて排気量は750ccもあって、オートマではあるが一般的なCVTではなくDCT(有段式自動変速機構)で、外見的にもアドベンチャーテイストを盛り込むなど、従来のカテゴリーに当てはまらないモデルが増えている。
▲X-ADV
否、そう思ってしまう自分が既に旧人類であって、一定の型に押し込めること自体が時代遅れなのかも。最近のバイクはもはやカテゴリーという概念が意味をなさなくなっているのかもしれない。
排気量クラスも多様化している
排気量帯も多様化している。以前は原付と小型の125cc、中型の250ccと400cc、そして大型は750ccなど大体の排気量クラスが決まっていたが、最近では中型でも海外生産の150ccや300ccが国内に入ってくるようになり、世界的に見ればミドルクラスである600cc~800ccクラスの大型モデルが国内でも主流になりつつあり、その上のフラッグシップモデルは1000cc~1300cc超が普通になっている。
そう考えると、日本独自の排気量帯による免許区分なども再考すべき時なのかもしれない。
本当はメイド・イン・どこ?
▲CBR250RR
また、生産国も今やアジアが主流で、インドネシア生産のホンダ・CBR250RRのように「最も売れる国で作る」方式へとシフトしてきている。海外ブランドでも電子制御などをふんだんに組み込んだ上級モデルは本国生産とし、小排気量モデルなどはタイやインド、南米など製造コストが安い国で作るパターンが一般化しているようだ。
そう考えると、ホンダやヤマハだから日本製とか、BMWだからドイツ製などと単純な話ではなくなりそうだし、ブランド価値とは何なのかという話にも発展しそうだ。これもグローバリゼーションの進展によるものだが、世界経済のボーダーレス化とともに最近ではバイクの世界もボーダーレス化してきている気がする。
つまりいろいろな意味で、境界線が曖昧になってきているのだ。良い悪いの話ではない。そういう世界に我々は生きているということだ。