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「あおり運転」でバイク2名が重傷 自己防衛のための極意とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年は「あおり運転」が注目を集めた年になった。発端は東名高速で今年6月に起きた、追い越し車線に停止させられたワゴン車がトラックに追突されて夫婦が死亡した事故だが、それも氷山の一角。

次々に「あおり」に関連する事故や事件が報告される中、最近ではバイクが関わる事例を目にすることも増え、私自身大いに危機感を抱いている。

あおった挙句、バイクをはねる

京都市で8月、バイクに乗った男女が乗用車にひき逃げされる事件があり、自動車運転処罰法違反(過失傷害)の容疑で逮捕された男が、さらに「あおり運転」や「進路妨害」をした疑いがあるとして、より罰則の重い同法違反(危険運転致傷)などの罪で起訴されている、という記事を最近目にした。

警察の調べによると、8月4日午前1時頃、大学生の男女2人(20才と19才)が乗ったバイクに普通乗用車がぶつかり、2人は転倒して重傷。車を運転していた男(56才)が現場から逃走した。

事件後、付近を走行していたタクシーのドライブレコーダーから、男が150mにわたってバイクに対しクラクションを鳴らしながら車間距離を詰めた上、回り込んで進路を妨害し接触、バイクを転倒させる様子が録画されていたそうだ。

男は公判で「バイクのスピードが遅くていらいらした」と述べる一方で「衝突は故意ではなかった」と発言。対するバイクの大学生は、夜間で安全運転を心掛け、速度も落としていたという。

ボタンのかけ違いはなかったか

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この事件、「あおり運転」をした挙句、大学生2人に重傷を負わせた車のドライバーに非があるのは明らかであり、断固として許されざる行為だが、さらに深読みすると双方の意図にボタンのかけ違いがあった可能性も考えられる。

事件があったのは平日深夜。車のドライバーは仕事を終えて早く家路に着きたかったのかもしれない。

一方のバイクの大学生はタンデムの彼女に気を遣い、いつもより慎重にゆっくり走っていたのかもしれない。そのタイミングで運悪く両者が遭遇してしまった。

ドライバーは「ノロノロ、ちゃらちゃらしやがって、早く行けよ!」と苛立ち、ライダーは「ルールを守って安全運転しているのに何がどうしたの?」と不安と恐怖におののいたことだろう。

もちろんこれは憶測であり詳細は当人しか知る由もないが、車やバイクを運転する者にとっては想像に難くない、よくあるシーンではないだろうか。

道路では意思の疎通が難しい

道路空間は交通参加者同士の社会的な相互作用で成り立っているが、直接言葉でコミュニケーションがとれないために得てして勘違いが起こりやすい場所でもある。

そこで、運転者はライトをパッシングさせたり、クラクションを鳴らして、あるいはハザードランプを点滅させるなどして自分の意図を相手に伝えようとするのだが、それがうまく伝わらないことも多い。

例えば、合図のためのパッシングやクラクションを「自分への攻撃」ととって頭に血が上ったり、後続車への注意喚起のためのポンピングブレーキも度が過ぎると「嫌がらせ」に思われたり、といったことも一例だ。

そこから生じた些細なすれ違いがやがてエスカレートして、大きな事故や事件につながっていく。

「あおり」には「いなし」で対応

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では、実際に「あおり」に遭遇したらどう対処したらよいのだろう。

この事例の場合、もし自分がバイクに乗っていてあおられたら、ウインカーを出しながら路肩に寄せるなど、さっさと道を譲って「お先へどうぞ」とジェスチャーで伝えるだろう。まずは相手に同調して熱くならない、相手の土俵に上らないことだ。

急ブレーキをかければ追突される可能性もあるし、急加速で振り切ろうとすればさらに火に油を注ぐことになりかねない。ぶつけられればバイクに勝ち目はなく、最悪は一巻の終わりとなる。冷静に考えれば、誰もそんなことで意地を張って命を落としたくはないだろう。

そんなときは、相手をうまくいなすことが一番だ。「いなす」という言葉を辞書で引くと『 相撲で、相手が突進してくるのを片手で 相手の肩口を横に突きながら急にかわして、相手の態勢を崩す』とある。また、『真剣に受け止めずかわすこと』とある。

類語には、はぐらかす、あしらう 、のらりくらりする、核心をつかませない、などとある。たとえ理不尽に思えても、「あおり」には「いなし」で対応する。これぞ極意だ。

賢いやり方で自己防衛を

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また、特に深夜の人目の少ない時間帯などは危険と認識し、そこで絡んでくる不審な車両は極力避ける。悪質な場合は、やり過ごしてからナンバーを確認して警察に通報するなど、賢いやり方で自己防衛することを考えたい。

さらに言うと、知らず知らず自分が逆に「あおり」をしていないか、セルフチェックすることも必要だろう。とりわけ機動力のあるバイクは車間距離を詰めて運転しがちだ。それが相手によっては「あおり」ととられることもあるし、自分自身も危険だ。

年末まであと僅か。今年も笑って正月を迎えられるよう、互いに気を付けたいものだ。

※原文より筆者自身が加筆修正しています。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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