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傾斜路面でも真っすぐに進める。「電動アシスト車いす」試乗で分かったこと

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」

ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」の試乗会に参加してきました。

JWスウィングは、通常の車いすと同じように左右の車輪に付いているハンドリムを手で漕いで進むのですが、そこに電動モーターによるアシスト機能が搭載されているものです。

イメージとしては電動アシスト自転車の車いす版と言っていいでしょう。障害者や高齢者が、より快適に室内や屋外を移動したり、介助者の負担を軽減したりするための道具です。

健常者や若者にとっては縁遠い存在かもしれませんが、人々の生活をより便利に、人生に彩を与えてくれる楽しいパーソナルモビリティと考えれば、モーターサイクルとの共通点も多いかもしれません。

▲ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」に試乗する筆者
▲ヤマハの電動アシスト車いす「JWスウィング」に試乗する筆者

電動タイプの認知はまだまだ低い

ヤマハでは、95年に車いす用電動ユニットを発売して以来、独自の制御技術や駆動技術を応用した電動車いす製品を開発しています。

現在、日本国内で車いすは約42万台が普及していますが、その中で電動タイプは2万台。欧米諸国と比べるとその割合はだいぶ少ないそうです。

使用環境の違いもあると思いますが、電動タイプがあること自体を知らないユーザーもまだ少なくないそうで、正しい認知を広げることが求められています。

「電動アシストタイプ」を求める人が増えている

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電動車いすと呼ばれるものにはいくつかの種類があります。

大型のものとしては「ハンドル型」と呼ばれる、いわゆるシニアカータイプや海外に利用者の多い「ジョイスティック型」があります。

ヤマハが得意としているのはより軽量コンパクトな「簡易型」で、通常の車いすをベースに電動ユニットを取り付けているのが特徴。簡易型の中にもジョイスティックなどで操作できる「フル電動タイプ」と、今回試乗した「電動アシストタイプ」があります。

ここ数年は国内外ともに徐々に出荷台数も増えていますが、とりわけ「電動アシストタイプ」が増えているとのこと。最近はユーザーからも、少しでも自分の力で移動している実感を得たい、リハビリにも役立てたいという声が目立っているそうです。

自分らしく日々の生活を楽しむために

当日は実際に電動アシスト車いすを活用している女性ユーザーモデルの方も登壇し、その魅力について語ってくれました。

手動ではちょっとの移動も大変でしたが、電動だと行動範囲が広がり、途中で戻れなくなる不安やストレスがなくなった

介助者なしで電車やバスで移動できるし、コンパクトに折り畳んで車にも積めるので、お出かけも楽しめるようになった

など、アクティブに自分らしく日々の生活を楽しんでいらっしゃる様子が伝わってきました。

傾斜していても真っすぐ進む「片流れ制御」

JWスウィングの最新型ではさまざまな機能が新たに追加され、モビリティとしても進化しています。

ひとつは「片流れ制御」。従来、横に傾斜している路面では傾斜方向に曲がって進んでしまうところを、自動的に直進できる機能です。

実際に筆者も体験してみましたが、軽い傾斜に見えても、アシストがないと数メートルで谷側に下っていってしまい、とてもまともに走れませんでした。

ところがこの機能をオンにすると、一度漕ぎ出してしまえば、両手放しでもほぼ真っすぐに進んでくれます。左右の車輪に速度センサーが搭載されていて、主にその速度差を計算し、左右のアシスト力を調整しているようです。

通常、路面は水捌けを良くするためにカマボコ型の断面になっているので、普段何気なく路肩を進む際にも有効でしょう。

また今回、「アシスト距離制御」の調整幅が拡大されました。

ボタンひとつで少しずつ進めるように設定したり、逆にひと漕ぎでの移動距離を最大2倍にすることで、高齢者でも楽に、快適にロングライドを楽しめる機能が付加されました。もちろん、アシスト速度の調整や、下り坂でスピードを抑えるなどの安全機能も搭載されています。

【JWX-2機能紹介動画】片流れ制御

【JWX-2機能紹介動画】アシスト距離制御

【JWX-2機能紹介動画】下り坂制御

将来的にはバイクにも応用されるかも

将来的には、モーターサイクルにもこの技術が応用されるかもしれません。これは筆者の想像ですが、たとえばEV化が進んだ未来、フロント2輪の「トリシティ」などは前輪駆動になることも考えられます。

その場合、左右のホイールの駆動力を個別に制御してコーナーでの旋回性を高めたり、傾斜のついた路面での直進安定性を高めたりする機能が出てきても不思議ではありません。

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▲トリシティ155

もしかしたら、電動アシスト車いすで培われたテクノロジーが、モーターサイクルに応用される日がくるかもしれないのです。

体験して初めてリアルに感じられる大変さ

今回、いろいろなシチュエーションで実際にJWスウィングに試乗してみましたが、ハンドリムを手で回し始めた瞬間の感覚は「電動アシスト自転車」を漕ぎ出す感じとよく似ています。

それもそのはずで、ヤマハの電動アシスト自転車「PAS」のパワー・アシスト・システムが応用されているとのこと。特に上り坂での軽快でパワフルな推進力は、電動アシストならではです。

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▲PASナチュラ

自分が車イスの操作に慣れていないこともありますが、通常の手動タイプでは病院のスロープ程度でも容易には登れませんし、加速していく下り坂は恐怖でしかありません。ちょっとした路面の傾斜でもヨロヨロと蛇行し大汗をかいてしまいます。

こうした事実は、自分で体験してみて初めてリアルに感じられるものだと思いました。そして、テクノロジーの恩恵も。

豊かな超高齢社会に向けて

2024年には、日本の人口の3割が65歳以上の高齢者になると予測されています。

電動アシスト自転車が、多くの主婦層や子育て世代に支持されて急速にユーザーを広げていったように、電動アシスト車いすも、身体に障害を持つ方や体力の衰えたお年寄りの普段の生活を支える足として、人生をより豊かに楽しむモビリティとして、今後さらに用途を広げつつ、普及していく未来が想像できた気がしました。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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