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【新型GSX-R1000R動画+試乗レポート】誰が乗っても安全で速い、凄さを感じさせない凄さとは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
SUZUKI GSX‐R1000R ABS

先日、袖ヶ浦フォレストレースウェイで開催された新型「GSX‐R1000R ABS」国内仕様のメディア向け試乗会から、Webikeバイクニュース編集長・ケニー佐川の試乗レポートを動画付きでお届けしたい。

【動画】スズキ 新型「GSX-R1000R」試乗インプレッション

リミッターは付くが実質的にはフルパワー仕様

今回試乗したのはGSX-Rシリーズとしては33年ぶりの国内仕様となるGSX-R1000Rである。

180km/h速度リミッターとETC車載器が装備されていること以外は輸出モデルとほぼ共通の仕様であることは前回の速報でもお伝えしたとおり。最高出力の表示は計測方法の違いにより197馬力であるが、実質的にはフルパワーと言っていい。

親しみやすい見た目とライディングポジション

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見た目はイルカを思わせる滑らかな有機的ラインが印象的。それもあってか、迫力よりもむしろ親しみが沸くデザインに思える。

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車体は従来モデルよりスリムかつコンパクト。ハンドル位置はやや低くなっているだろうか。

825mmというスーパースポーツとしては低めのシート高と、跨るだけでスッと沈み込むしなやかな前後サスペンションのおかげで足着きも良好。ライダーに無理を強いることがなく、自然に体になじむライディングポジションだ。

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日常使いのデバイスがストレス低減に一役

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最初に目に飛び込んでくるメーターはフル液晶で、最新スーパースポーツに乗っている感にワクワクする。

「イージースタートシステム」のおかげで、ワンプッシュで目覚めるエンジン。低く唸るややウェットな排気音は気持ちが落ち着く。クラッチをつなごうとすると「ローRPMアシスト」が自動的に回転数を少し上げてくれるので発進にも気を遣わなくて済む。

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今回はサーキット試乗会ではあるが、何回となくピットへの出入りなどはあるわけで、こうした日常での使い勝手を高めるシステムが集中力を高め、無用なストレスを低減してくれるのは良いことだ。

分厚い低中速トルクと伸びやかなパワー

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エンジンは低中速トルクに厚みがあって、そんなに回転数を上げなくても十分速い。2001年にデビューした初期型GSX-R1000のロングストロークエンジンはまさにその典型だったが、その伝統を最新型にも感じる。

本気でタイムを出そうと思ったら当然エンジンを回していくが、ピークに至る回転上昇がフラットで、良い意味で2次曲線的な盛り上がりがないので安心。可変バルブ機構「SR-VVT」の効果なのか、低中から高回転域への過渡特性がスムーズなため、高速コーナーでも臆せずにスロットルを開けていける。

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新たに採用された「ライド・バイ・ワイヤー」により、スロットルの反応も穏やか。特にコーナリング中など全閉状態からジワッと開けたいときなど、ドンツキが出ないので安心して開けていける。

軽快な中に手応えも感じるハンドリング

軽量コンパクトにスリム化されたおかげで、ハンドリングにも軽快さが増している。ただ、それは剃刀のような鋭さではなくある種の落ち着きを感じるものだ。バイクが勝手に曲がっていってしまうような自動的な感じではなく、ライダーがしっかり意思を持って倒し込んでいくイメージだ。

その意味では、リッタークラスを操っているというしっかりとした手応えを感じるハンドリングに仕上げられている。

ショーワ製の最新型レーシングサスペンションの「BFF」は初期作動がしなやか。ストローク感も豊富で乗り心地はソフトと思えるほど。フルバンク中でも余裕をもって荷重を受け止めてくれる感じが伝わってくるので、安心して身を委ねることができる。

電制の力を借りてテールスライドも

特筆すべきはやはり電子制御だろう。新型GSX-Rには車体の姿勢変化を3軸6方向でセンシングして1,000分の4秒単位で制御する「モーショントラックシステム」が投入されている。

まず3つの走行モードが選べる「S-DMS」でサーキット走行用のAモードを選択。Bはツーリング用、Cはウェット用といった設定だ。モーショントラックの要となるトラクションコントロールは10段階で、今回はスズキが推奨するレベル5で走行してみた。

最初に装着されていたOEタイヤのBS製「RS10」では、ヘアピンの立ち上がりなどで強めにアクセルを開けると、強大なトルクにたまらずスライドが始まってしまうが、自分がハッと気づく前にトラクションコントロールが介入して滑りを収めてくれる。

トラクションコントロールの使い方に慣れてくると、これを逆手にとってリヤを一定に滑らせながらも安全に立ち上がっていくことも可能だ。

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トラクションコントロールが無い時代のマシンに比べれば、コーナー出口のだいぶ手前からスロットルを積極的に開けていくことができるので、結果的にコーナー脱出速度も高まり、ストレートスピードも伸びるという進化の図式が理解できる。

思い知った最新ハイグリップタイヤの威力

ちなみにプロダクションレース用タイヤの「R10」でも走行してみたが、同じようにトラクションコントロール介入を知らせるインジケーターは点滅するが、まったく滑らせることができない。

自分のセンサーを超える領域でサポートしてくれているのだと思うが、タイヤのグリップ性能が優ってしまいそれを感じることができないのだ。けっこう攻めたつもりだが、タイヤとマシンは余裕しゃくしゃくといったところ。

やや悔しさも残るが、同時に最新スポーツタイヤの凄さも実感できた。サーキット専用で走るなら、R10のほうが安心してスポーツライディングを楽しめると思う。

モーショントラックが安全を飛躍させる

モーショントラックのもう一つの武器はブレーキシステムだ。

ハード面でも、Tドライブマウントなどブレンボの最新技術を投入しているが、これと連動して最大限のパフォーマンスを発揮するのがコーナリングABSである。

理論上ではフルバンク時でもフルブレーキングを行えるという凄さ。自分の技量と根性ではとても試すことはできないが、それでも覚悟を決めてちょっとだけトライしてみた。

袖ヶ浦の裏ストレートからアプローチする3コーナーなどは、ほぼノーブレーキで飛び込んでから車体を傾けつつブレーキをかけていく。通常であればフロントのグリップを探りながらになるが、意図的にグイッと入力を強めてみたところ、一瞬フロントまわりから僅かな振動が伝わってきた。

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そこで初めてABSが作動しているのが分かるが、あからさまなキックバックがあるわけではないし、唐突に効いたり抜けたり、車体が起き上がったりすることもない。あまりに自然なフィーリングなので注意していないとABSにサポートされていることを忘れてしまいそうだ。

また、強くブレーキをかけすぎて後輪が浮き上がってしまいそうな場合でも、ちゃんと電子制御が入ってマシンの姿勢を落ち着かせてくれる。

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トラクションコントロールやABSなどのデバイスはあくまでも安全マージンとして温存しておきたいが、いざという時の保険という意味でも安心感は絶大なものがあるだろう。

車体を寝かせながらシフトダウンも

もうひとつ感心したのはクイックシフター。通常のシフトアップ側だけでなくダウン側も搭載されていて、軽いタッチ感で操作できる。

走り出してしまえば、クラッチを握ることもなく左足だけで2、3段でもまとめて一気にギヤを落としていける。なんと自動的にブリッピングして回転数までシンクロしてくれるのだ。これはライダーの労力を大幅に低減してくれる本当に素晴らしいシステムだと思う。

たとえばコーナーに突っ込み過ぎた場合など、車体を寝かせながらシフトダウンすることはまずできない。ところが、このシフターなら迷わずシフトダウンできる。つまり、シフトミスによるパニックも防いでくれるわけだ。

速く走るためだけでなく、ストリートでの安全と疲労低減にも大きく貢献するはずだ。

凄いと感じさせないところが凄い

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これまで国内外の最新モデルには一通り試乗してきたが、スーパースポーツには大きく分けて2つの種類があると思う。スタイリングから乗り味まで全身で高性能ぶりをアピールしてくるタイプと、見た目は地味だが扱いやすくてフレンドリーなタイプ。

GSX-Rは明らかに後者だ。前者の場合、エンジン特性も尖っていて、乗り味もスパルタンであるが故にライダーを選ぶ傾向があるが、GSX-Rは凄いポテンシャルを持ちながらも、それを乗り手に感じさせないところが凄い。

誤解を恐れずに言えば、誰でもイージーに操れてしまうところが素晴らしい。

誰でも安心してスポーツライディングを楽しめる

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新型GSX-R1000Rの良さをひと言で表現するならば「安心感」と「扱いやすさ」。これはどんなレベルのライダーが乗っても同じように感じると思う。

サーキットビギナーにも優しく、腕に覚えがある人が乗ればさらに性能を引き出して楽しめるだろうし、ストリートで乗っても親しみやすいキャラクターは変わらないはず。

スーパースポーツだが万人向け。ビギナーからベテランまで誰でもスポーツライディングを楽しめる非常に完成度の高いモデルだと思う。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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