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ホンダから「ジャイロ」の最新モデルが登場 元祖3輪スクーターの魅力とは!?

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
HONDA GYRO X

ホンダから新型「ジャイロX」「ジャイロキャノピー」が9月22日(金)に発売される。

「ジャイロ」シリーズは積載性に優れ、宅配など幅広いビジネス用途で活躍している原付三輪スクーターである。水冷4ストOHC 4バルブ50ccエンジンをフロント1輪、リヤ2輪の車体に搭載することで高い走行安定性を実現しているのが特徴だ。

最新モデルは排ガス規制に対応

現行のジャイロには3つのバリエーションがあり、ウインドシールドと車体前・後にキャリアを装着した「スタンダードタイプ」とウインドシールドとリアキャリアを廃した「ベーシックタイプ」、そして、雨や埃など天候の影響を受けにくい大型フロントスクリーンとルーフを装着し、宅配ビジネスや出張修理サービスなどに対応した「ジャイロキャノピー」がラインナップされている。

▲ジャイロXスタンダード
▲ジャイロXスタンダード
▲ジャイロXベーシック
▲ジャイロXベーシック
▲ジャイロキャノピー
▲ジャイロキャノピー

新型モデルのポイントは、昨今話題の「平成28年排出ガス規制」に対応したことだ。具体的には燃料蒸発ガス抑制装置や、排出ガスの異常を警告する車載故障診断装置を装備。

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新たにリヤフェンダー左側にエンジンオイル点検窓を設け、オイルレベルゲージを延長させるなどメンテナンス性の向上が図られている。

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82年登場の初代モデルは2ストだった

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ジャイロXが登場したのは1982年。スリーホイールの新感覚な乗りもの〈スリーター〉の第2弾として、アウトドアライフイメージの斬新なスタイルと荷物を前後に積める実用性を兼ね備え、不整地や雪道での走りを想定したモデルだった。

ちなみ第一弾は近未来的なデザインが目を惹いた「ストリーム」である。

ジャイロXは当初、空冷2サイクル49ccエンジンを搭載していた。Vマチック機構とコーナリング時にフロントボディが左右にスイングする「ナイトハルト機構」により、3輪の安定性とバイクの持つ軽快な操縦性を兼ね備えた新感覚の乗り物として話題となった。

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ノンスリップデフ機構やワイルドパターンの低圧ワイドタイヤを装備し、不整地や雪道、坂道などでの優れた走破性能を発揮。

スタンドが不要なワンタッチ操作のパーキングロック機構やノンスリップデフ、スイング機構など76件にもおよぶホンダ独自の先進技術が盛り込まれるなど、相当気合が入った当時のハイテクマシンだったわけだ。

多目的で未知数の可能性を表すネーミング

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車名のGYRO(ジャイロ)とは本来は羅針儀の意味だが、ネーミングの由来としてはGがグレート(偉大な)、Yはユアーズ(あなたのもの)、Rはレクレーショナル(娯楽の)、Oはオリジナル(独特の)などの頭文字をとったものだとか。

そして優れた多目的性をもつ独特の乗り物であり、いろいろな使い方の可能性を秘めているという意味でX(未知数)の文字が与えられている。

08モデルから4スト化しホイールも大径化

83年には、フロントにサイズアップした新パターンの10インチタイヤを採用するとともに、フロントにも大型キャリアを装備しグリップヒーターをオプション設定。

99年には二次空気導入装置やマフラー内に酸化触媒などの排出ガス浄化システムを導入。

90年には、雨天走行時に効果的なワイパー付きウインドスクリーン(風防)とルーフを装備したジャイロキャノピーが発売。

大容量(62L)トランク装備の〈ワゴンタイプ〉と、より幅広い用途に対応するフラットな荷台形状の〈デッキタイプ〉の2タイプが設定され、二輪車の機動性や駐車性と三輪車ならではの乗り易さを兼ね備えたビジネスバイクとして好評を博した。

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さらに08年にエンジンを一新し、滑らかな出力特性を両立した現行の水冷4ストOHC 単気筒エンジンを採用。

従来モデルから燃費を約30%向上させるとともに、PGM-FIや触媒装置も搭載されるなど環境性能も大幅に高められている。

また、前後輪に新設計のアルミ製ホイールを採用するとともに、後輪サイズを6インチから8インチに大径化することで走行安定性の向上も図られた。

スイングする独特のコーナリング感覚が楽しい

今でこそ、フロント2輪も含めていろいろなタイプの3輪バイクが出現しているが、車両メーカーのプロダクトとしてはジャイロXがその元祖的な存在と言っていいだろう。しかも車体を傾けながら曲がる、というコンセプトを30年以上も前に実現させている。

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余談だが、自分も若い頃、飲食店のバイトをしていたときにジャイロXを使っていたことがあるが、コーナーに向けて車体がスイングしていくような不思議な操縦感覚に魅せられた記憶がある。

リヤ2輪が傾かずに踏ん張る独特の安定感に加え、リヤ駆動軸にデファレンシャル・クラッチを装備していて内輪と外輪の回転差が自動的に調整されるため、思い切って倒し込むと想像以上にクイックに旋回できて楽しかった。仲間内では雪道でデフロックさせてドリフト走行を楽しんでいる強者もいたぐらいだ。

今でもピザ屋などのデリバリーでは定番アイテムとなっているだけあって、その機動力と実用性は折り紙付きだ。そう考えると、フロントにスイング機構を備えた3輪バイクというコンセプトを発展させたモーターサイクルが、今の時代にもっと登場しても良さそうなものだ。

調べてみると当時の価格は17万9000円で、今回の新型がベーシックでさえ40万円近いことを考えると複雑な気持ちになるが、これも年々厳しくなる排ガス規制に対応するため。

つまり世界的に問題となっている環境対応へのコストと見ればそれも納得せざるを得ないだろう。ともかく、今の時代に生き残ったジャイロXにまずは拍手を送りたい。

出典:Webikeバイクニュース

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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