【増える高齢者の横断事故】右から現れる歩行者が危ない!
対向車線からいきなり現れた人影
先週、バイクで移動中にハッとすることがあった。
朝の通勤で道路が混み始めてきた時間帯。7時過ぎぐらいだったろうか、街中の片側1車線の道路を走行中、渋滞している対向車線のクルマの切れ目から人影が突然現れた。
それは寝間着姿のようなお年寄りで、真っすぐ前だけを見て道路を横断している。もちろん、信号もなく本来は横断してはならない場所だ。お年寄りの歩みが遅かったこと、自分も速度を控えていたことから事故は免れたが、タイミングが少しずれていたら危なかったかもしれないと思った。
ちなみに、そのお年寄りは、急ブレーキをかけて止まった私とバイクの存在にすら気づかずに、そのまま目の前を通り過ぎていった。こちらはバイクで相手は歩行者なので、もし事故になればたとえ相手が交通ルールを守っていなかったとしても、ほぼ自分の過失になってしまうはず。そう考えると、後で恐怖がこみ上げてきた。
7割が左から来る車にはねられている
先日、これを裏付ける新聞記事が載っていた。福井新聞によると、夜間に道路を歩いて横断中の高齢者が車にはねられる事故が県内で相次いでいるという。
道路中央付近から渡り終えるまでにはねられるケースが多く、左から来る車への注意が不十分な可能性があるらしい。2012~16年の5年間でも、夜間に道路を横断中にはねられ死亡した42人のうち7割の30人が、左から来た車にはねられている。
「道路を横断する歩行者にとって、右からの車は渡り始めに来るが、左からの車は横断途中に来る。渡り始めに右からの車を特に注意して確認している間に、左から車が近づいている場合もある」と指摘。「道路を渡り始めてからも再度左右の確認を徹底してほしい」と県警交通部でも注意喚起している。
高齢者の事故死は歩行中が半数
福井県の例に留まらず、高齢者の事故は増えている。
交通安全意識の浸透や自動車の安全性能の向上などにより、交通事故による死者数は年々減少傾向にある一方で、65歳以上の高齢者が占める割合は年々高くなっているようだ。
少し前のデータになるが、警察庁によると「平成24年の1年間に交通事故で亡くなった方は約4,400人。そのうち、65歳以上が約半数となっており過去最悪の割合(当時)」となっている。
ちなみに高齢者の交通事故死者の内訳をみると、最も多いのが歩行中の事故死でほぼ半数、次いで自動車乗車中、自転車乗用中の順になっていて、時間帯では夜間の歩行中での事故が昼間の2倍近くに上っている。
左から来ている車を忘れる典型的なパターン
また、高齢者の交通事故には特徴があるという。歩行中の事故に関しては「横断歩道以外の場所の横断や走行車両の直前・直後の横断、横断歩道での信号無視など、事故原因のほとんどが高齢者自身による交通ルール違反」なのだとか。
事故例としては、後から現れた車に気を取られる高齢者の典型的なケースがあるらしい。
それは「1)左から来る車に気づいて一度立ち止まるが、2)その後右から来た別の車に気を取られ、3)その車が通過したのに安心して左から来ているクルマを忘れ、4)そのまま道路を渡ってしまい左から来ている車にひかれる」というパターンが目立つそうだ。
その背景には、老化による体力や判断力の低下などが考えられ、個人差はあるものの、交通事故において高齢者は加害者にも被害者にもなりやすい傾向があるのは事実だろう。
高齢者の事故というと、最近はアクセルとブレーキの踏み間違えなど高齢者ドライバーに関するものが注目されているが、一方で歩行者が犠牲になる事故も増えているのだ。
ライダーは歩行者を軽視していないか!?
翻ってライダーの立場で見た場合はどうだろう。我々ライダーは普段、クルマに対して警戒していることが多い。生身で乗る二輪車の特性上、クルマの存在は常に脅威として認識しているはずだ。これは人間の自己防衛本能だから仕方ないが、一方で歩行者に対する注意を怠ってはいないだろうか。
自分を考えても、やはり交差点で右折してくるクルマや、左側に駐車しているクルマの動きに気をとられがちだ。歩行者に対しても、左側通行の日本では自分に近い左側の歩道からの飛び出しには注意しているが、右側から横断してくる歩行者への警戒はやや薄い気がする。
また、夜間ではヘッドライトの配光パターンも左前方が重視されているため、センターライン付近は意外と気づきにくかったりする。加えて、夜間は自分と対向車のヘッドライトが交錯して突然歩行者などが見えなくなる「蒸発現象」(グレア現象)なども起こりやすく、さらに危険が増す。
右側から現れる歩行者、特に高齢者は最も注意しなくてはならない対象として認識を新たにすべきだろう。
これまでは、二輪車と歩行者との事故についてあまりクローズアップされることはなかったが、今後はライダー側の高齢化も含めて事故防止のための対策を考えていく必要があるだろう。
ドライバーもライダーも歩行者もいつか高齢者になっていく。立場が異なる者が行き交う混合交通の中で、お互いを守るためのアイデアが求められる。