教員は残業代なし 保護者の6割が「知らない」

(写真:アフロ)

 厚生労働省が先月末に発表した「過労死等防止対策白書」。その調査に際して重点業種の一つにあげられたのが、学校の教員であった。また、今月16日に連合総合生活開発研究所(連合総研)が発表した「第36回 勤労者短観」においても、学校の教員の働き方に関する質問項目が特別に設けられている。教員の長時間労働はいま、教育界内部の問題ではなく、労働者全体が考えるべき課題として、注目を集めている。

■保護者・地域住民は教員の働き方をどう見ているのか

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 学校の働き方改革が進むなか、「『先生も少しは休んで下さい』と保護者から声をかけられるようになった」という話を、よく耳にする。

 仕事で疲れ切っていては、教員も子どもに向き合う余裕がなくなる。保護者にとって、教員の長時間労働は、ひとごとではない。そもそも教育は、社会の根幹を支える営みであるからには、教員の働き方は保護者や地域住民を含む社会全体の課題である。

 連合総研が2001年以降、年2回のペースで発表してきた「勤労者短観」(勤労者の仕事と暮らしについてのアンケート調査)では、第36回目の今回、教員の働き方に関する質問が設けられた。今月16日には、調査報告書が公開されたばかりで、そこからは、保護者を含む労働者が教員の働き方をどのように受け止めているのかが、見えてくる。

■長時間労働は知っている、けど「残業代なし」は知らない

公立校教員は「他職種より長時間労働」「残業代なし」であることについて知っているか ※連合総研の報告書をもとに筆者が作図
公立校教員は「他職種より長時間労働」「残業代なし」であることについて知っているか ※連合総研の報告書をもとに筆者が作図

 私は連合総研に個票データ(分析される前のデータ)の提供を依頼し、連合総研の厚意により個票データを入手することができた。以下、連合総研が公開した結果と、私自身の再分析の結果より、労働者全般が教員の働き方の現実をどの程度認識しているのかについて明らかにしたい[注1]。

 すでに調査報告書において示されているように、「教員の平均的な労働時間が、他の労働者に比べて長時間となっていること」を「知っている」と答えた民間の労働者は59.7%にのぼる[注2]。このところの世論の高まりによって、教員がとりわけ長い時間働いていることは、多くの人の知るところとなっているようである。

 だがさらに踏み込んで、「公立学校の教員が時間外に行っている部活動指導・授業準備・テストの採点などは残業代が『支払われない』こと」については、「知っている」は38.7%にとどまり、「知らない」が61.3%である。

 公立校の教員は、「公立の義務教育諸学校等の教育職員の給与等に関する特別措置法」(いわゆる「給特法」)により、法的には残業をしていないことになっている(詳しくは、拙稿「残業代ゼロ 教員の長時間労働を生む法制度」)。教員の長時間労働のことは見聞きしているけれども、その際の時間外労働がじつは「不払い」によって担われていることについては、多くの労働者がまだ「知らない」状況である。

■教育・学習支援業とその他の職業との相異

【教育・学習支援業/その他すべての労働者】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研による調査の個票データをもとに筆者が再分析・作図
【教育・学習支援業/その他すべての労働者】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研による調査の個票データをもとに筆者が再分析・作図

 残業代の不払いについては、別の調査から、教員本人は9割が「残業代がほしい」と回答している(詳しくは、拙稿「教員の9割『残業代ほしい』」)。

 この残業代が支払われない点について、さらに分析を進めていこう。

 個票データには、回答者の職業が記載されているため、職業と「残業代なし」の認知との関係性を分析にかけることができる。教育・学習支援業に携わる民間労働者と、その他すべての職業の民間労働者との間で、「残業代なし」の認知を比較してみると、「知っている」と答えたのは前者が52.8%、後者が38.3%である。

 教育・学習支援業の労働者は、広くは自分と同じ職種として、公立校教員の就労状況について高い関心をもっているといえる。

■保護者も知らない「残業代なし」

【小中高の保護者である/保護者ではない】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研の報告書をもとに筆者が作図
【小中高の保護者である/保護者ではない】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研の報告書をもとに筆者が作図

 次に、回答者が小中高の子どもをもつ保護者であるか否かと、「残業代なし」の認知との関係性を調べてみよう。

 すると、小中高のいずれかに通う子どもがいる保護者のなかで、公立校教員の「残業代なし」を「知っている」のは39.8%、他方で小中高の子どもがない労働者において「残業代なし」を「知っている」のは38.4%と、両者の間にほとんど差がない。なおこれは、保護者を小中高別にわけて分析をしても、同様の結果(保護者と保護者ではない者との間にほとんど差がない)が得られる。

 小中高に通う子どもがいるとしても、残念ながらその事実だけで、教員の労働状況をよく知るようになるというわけではないようだ。

 朝早くから、先生が校門の前に立っている。夕方以降に学校に電話をすると、先生が対応をしてくれる。毎晩遅くまで、職員室に明かりがついている。

 基本的にそれらの風景は、残業代なしの不払い労働を示すものである。そして子どもや保護者は、その不払い労働の受益者でもある。今日の教育がそうした危うい状況のもとで成り立っていることを保護者が知ることで、教員の働き方改革の輪がいっそう拡がっていくことを期待したい。

■長時間労働を知らない回答者 「残業代なし」の認知は1割未満

【教員が他職種より長時間労働であることを知っている/知らない】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研による調査の個票データをもとに筆者が再分析・作図
【教員が他職種より長時間労働であることを知っている/知らない】公立校教員の「残業代なし」について知っているか ※連合総研による調査の個票データをもとに筆者が再分析・作図

 最後に、改革の推進を構想するうえで、重要な指針を与えてくれるデータを紹介したい。

 教員の労働問題は、まずはその長時間労働が世間の関心を集め、次に今年に入ってからとくにその時間外労働の取り扱いが話題にあがるようになってきた。先に見たとおり、教員が他の労働者に比べて長時間労働の傾向にあることはよく知られているけれども、残業代が支払われないことは、まだ十分には知られていない。

 では、教員の長時間労働に関する認知と、「残業代なし」の認知との関係性はどうあるのか。

 その結果は、とても明瞭である。

 教員が他職種と比べてより長時間労働の状況にあることを知っている回答者のうち、公立校教員が「残業代なし」であることを知っているのは58.7%である。その一方で、教員が他職種より長時間労働であることを知らない回答者においては、「残業代なし」を知っているのはわずか9.1%にとどまっている。教員の長時間労働に対する関心の有無が、「残業代なし」の認知において、じつに49.6ポイントの差を生み出している。

■はじめの一歩が次の一歩を呼ぶ

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 教員の長時間労働に関心がある者は、「残業代なし」というこの一年の新しい話題にもしっかりと付いてきている。

 これは第一に、長時間労働への関心が、「残業代なし」という次の新たな課題への関心へとつながっていった可能性が指摘できる。あるいは第二に、単純に学校教育に関心の高い者は、教員の長時間労働にも「残業代なし」にも関心を示してくれるという可能性もある。

 第一と第二の可能性をデータ上で峻別することはできないものの、私がとくに教員の働き方改革に関わって強く感じているのは、第一の可能性である。

 ネット上の動きでいえば、部活動改革に始まり、それが働き方全体の改革につながってきた。そして働き方改革のなかでは、過労死ラインを超える長時間労働が問題視され、さらにいまはその長時間労働が「残業代なし」のまま担われているとして、新たに注目を集めつつある。

 私個人もこの数年、同じような流れで自分の関心が少しずつ拡がりまた深まってきたように感じている。ある一つの課題の見える化が、次の新たな課題の見える化への端緒になる。

 そこに期待をかけるとするならば、結局のところは、たとえば長時間労働の実態といったごく基本的な事項を知ってもらうことが、改革の重要な第一歩といえる。その一歩が、また次の一歩へとつながっていく。

【謝辞】

 本文中でも言及したとおり、本記事の執筆にあたっては連合総研から、「第36回 勤労者短観」の個票データの提供を受けた。この場を借りて、深くお礼申し上げたい。

  • 注1:調査期間は、2018年10月1日~5日。WEB画面上での個別記入方式によるインターネット調査。調査対象は、首都圏と関西圏に住む20代から60代前半までの、民間企業に雇用されている者で、計2000名が回答。第35回調査からは、首都圏と関西圏以外のすべての地域に調査対象が拡大されたものの、連合総研の報告書では、首都圏と関西圏が焦点化されている。一方で全国のデータは「参考」扱いとされているため、本記事もそれにならい、首都圏と関西圏の計2000名について分析をおこなった。
  • 注2:たとえば、連合総研「とりもどせ!教職員の『生活時間』」(2016年12月)の36頁には、医師、建設業、製造業などの各種職業のなかで教員がもっとも長時間働いていることが明らかにされている。