文部科学省から先週25日、2017年度における「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」の結果が発表され、メディア各社も一斉に記事を配信している。そこではいじめの件数が過去最多であったことをはじめ、不登校、暴力行為いずれも、「国全体」の件数への関心が高い一方、「地域差」への関心は低く、とくに暴力行為においては地域差の実態はほとんど見えていない。実態や対応が地域間で大きく異なるとすれば、日々学校で生活を送る子どもたちにとっては重大な問題である。

■いじめ報道の変化

 今回の報道でもっとも目立っているのは、いじめの件数が過去最多になったという内容である。

 数年ほど前までであれば、件数増を危惧する声も少なくなかった。だが、いまでは「文科省は『積極的な認知が進み、早期の対応につながっている』と肯定的に評価している」(10/25 毎日新聞)と紹介されるように、学校現場がいじめ対策に前向きに取り組むことで、件数が増加したとの考え方が拡がっている。数値は、むしろ大きいほうがよいということだ。

 なお、文部科学省では2006年度調査より、いじめの件数は「発生件数」ではなく「認知件数」とよんでいる。いじめは見えにくいし、そうではない行為との明確な線引きも難しい。本当に起きた事案の件数(発生件数)は、誰にもわからない。あくまで学校側が把握した件数(認知件数)という理解である。

■いじめの都道府県格差

文部科学省ウェブサイト(調査結果のPDFファイルが公開されている)
文部科学省ウェブサイト(調査結果のPDFファイルが公開されている)

 いじめの認知件数が過去最多となったことにくわえて、その都道府県格差が小さくなったことも特筆すべきである。「いじめ認知、都道府県格差が縮小」との見出しにあるとおり、「都道府県別の格差は、(平成)25年度の83.2倍から26年度は30.5倍、27年度は20.4倍と、年々少なくなっている」(10/25 産経新聞、元号は筆者が追記)。

 ところで文部科学省は、今回の2017(平成29)年度の都道府県格差を、次のように説明している。

 小・中・高等学校及び特別支援学校におけるいじめの認知件数は414,378件(前年度323,143件)と前年度より91,235件増加しており、児童生徒1,000人当たりの認知件数は30.9 件(前年度23.8 件)である。

 なお、前年度調査における児童生徒1,000人当たりの認知件数の都道府県の差が、最大で19.4倍となっていたところ、今回の調査結果では12.9倍となっている。

出典:平成29年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について(その1)

 この記述にあるとおり、文部科学省が示す「都道府県の差」というのは、各都道府県における小・中・高等学校及び特別支援学校の児童生徒1000人あたりの認知件数について、その最大値と最小値の差を指している。すなわち、最大値である宮崎県の108.2件を、最小値である佐賀県の8.4件で割った値が「12.9倍」ということである。

■いじめと暴力行為

画像はイメージ:「写真素材 足成」より
画像はイメージ:「写真素材 足成」より

 いじめ認知の都道府県格差は報道こそ少なかったものの、文部科学省がわざわざ調査結果として「12.9倍」と発表したように、この数値のもつ意味は大きい。

 なぜなら単純化すると、2017年度中に宮崎県の学校では1000人中108.2人、おおざっぱにいうと9人中1人がいじめを受けたと把握される一方で、それが佐賀県では120人中1人となる。仮にいじめの起きやすさが全国一律だとすれば、子どもにとってみると、どの都道府県の学校に通うかによって、学校側の対応が大きく異なっているということだからである。

 これと同じことは、暴力行為にも当てはまる。

 今回の調査結果についてとくに教育界では、小学生における暴力行為件数の増加が話題になっている(たとえば、10/25の日本教育新聞「小学校低学年で暴力行為、いじめが大幅増加」)。

 文部科学省の調査における「暴力行為」とは、対教師暴力、生徒間暴力、対人暴力、器物損壊の4類型の総称である。この暴力行為もまた、正確な発生件数を知ることは難しく、認知件数とみなすべきである。すなわちいじめと同様に、学校側の対応の積極性(消極性)が反映される数値である(詳しくは拙稿「財務省に異議あり いじめ認知増で35人学級から40人学級へ?」)。

■暴力行為の都道府県格差

 暴力行為の認知件数増加が話題にのぼっているものの、じつは文部科学省の調査結果では、その都道府県格差への言及がない。それゆえ、マスコミ各社においてもいじめの都道府県格差が報じられることはあっても、暴力行為の都道府県格差が取り上げられることはない。はたして、暴力行為の都道府県格差はどの程度なのか。

 そこでいじめの場合と同じように文部科学省の方法に沿って、調査結果をもとに暴力行為の都道府県格差を算出してみよう。

 小中高における児童生徒1000人あたりの認知件数[注1]は、最大値は島根県の15.6件で、最小値は愛媛県の0.5件である。前者を後者で割ると、両者の間には、31.2倍の開きが確認できる。

 いじめの都道府県格差が12.9倍であったことを考えると、暴力行為の格差はかなり大きいということになる。子どもにとってみれば、都道府県によって学校側の対応がまるで異なるということであり、重大な問題であるといえる。

■都道府県格差をより詳細に分析する

小学校と中学校におけるいじめの認知件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。
小学校と中学校におけるいじめの認知件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。
小学校と中学校における暴力行為の認知件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。
小学校と中学校における暴力行為の認知件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。

 最後に、小学校と中学校におけるいじめと暴力行為それぞれの件数について、都道府県格差の状況をより詳しく分析したい。

 先述のとおり、文部科学省の方法では、小中高の総計について、最大値と最小値という2つの値だけを用いて格差の程度が分析されていた。これでは、最大値と最小値がそれぞれ極端な値をとった場合に、格差の数値が大きくなってしまう。

 そこで、まずは47都道府県のばらつきを視覚的に把握してみよう。1000人あたりのいじめの認知件数と、同じく1000人あたりの暴力行為の認知件数を、小学校と中学校それぞれについて図示した。図を作成するにあたっては、文部科学省の各種統計(学校基本調査と文部科学統計要覧)から各都道府県の小学校・中学校・義務教育学校・中等教育学校の児童生徒数を調べて、小学校と中学校それぞれのいじめならびに暴力行為における1000人あたりの認知件数を算出した。

 いずれのグラフも、小学校と中学校ともに、高低差が大きいことがわかる。つまり都道府県の格差が大きいということだ。

■暴力行為の格差>いじめの格差

 次に変動係数という数値を用いて、47都道府県のばらつきの程度を算出してみよう[注2]。変動係数は、数値が大きいほど格差が大きいということになる。

 すると、いじめの変動係数は、小学校が0.819、中学校が0.471で、暴力行為の変動係数は、小学校が0.919、中学校が0.650と算出された。つまり、小学校または中学校において、暴力行為の都道府県格差はいじめのそれよりも大きいことがわかる。

 なお参考までに、さきほどの4つのグラフのなかでは、中学校のいじめにおいて相対的に高低差が小さいことが確認でき、これは変動係数によっても同じ結果(数値がもっとも小さい)が得られている。また、不登校の件数(これは認知件数よりも発生件数に近い)について変動係数を計算してみると、小学校が0.232、中学校が0.132で、いじめや暴力行為と比べてかなり小さい。もちろん図示した際の高低差も小さい[注3]。

■子どもの立場から考える

画像はイメージ:「写真素材 足成」より
画像はイメージ:「写真素材 足成」より

 以上、暴力行為における都道府県格差の大きさを指摘した。

 今回の報道では、日本全体のいじめの件数に注目が集まっており、その都道府県格差への関心は小さく、さらには暴力行為の都道府県格差についてはまったくといっていいほど議論がない。

 いじめや暴力行為の件数(認知件数)というのは、学校側がいじめや暴力行為にどう向き合っているかを示す数値である。学校の対応は、子どもの学校生活を大きく左右する。都道府県格差の大きさとそれに対する無関心を、けっして放置してはならない。

  • 注1:いじめの場合には、小中高にくわえて特別支援学校の件数も含まれているが、暴力行為の場合には特別支援学校は含まれていない。
  • 注2:いじめや暴力行為の件数について、47都道府県の標準偏差を求め、それを平均値で除した値が、変動係数である。47都道府県それぞれの件数を用いて分析するため、最大値と最小値の開きよりも、実態に即した分析が可能となる。
  • 注3:不登校の件数を図示すると、下記のとおりである。
小学校と中学校における不登校の件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。
小学校と中学校における不登校の件数(1000人あたり) ※文部科学省の調査結果をもとに筆者が独自に算出・作図。