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「休憩できない」 教員の一日

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
横浜市「教職員の業務実態に関する調査」(2013年実施)より。作図は筆者。

■放置されてきた問題

教員の負担軽減を目指す改革が、国や自治体で進んでいる。文部科学省は14日に、学校教育法施行規則を改正し、部活動の外部指導者を学校職員に位置づけ、単独での大会への引率業務を可能にした。

部活動は超過勤務の主たる要因であり、部活動の負担軽減が、教員の勤務状況の改善へとつながることが期待されている。

しかしその一方で、以前から指摘されていながらも、いまだ放置され続けている事態がある。一日の間に「休憩できない」問題である。

■トイレに行く時間もない

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厳密に言うと、休憩時間は制度的には設定されている。

一般に公立学校の教員における一日あたりの勤務時間は7時間45分で、その途中で45分間の休憩(労働基準法第34条)をとることになっている。途中とは言うものの、昼食時は、給食指導をはじめとする立派な勤務の時間帯である。そこで多くの学校では、授業後の15~16時台の時間帯に、45分の休憩時間が設定されている。(あるいは、お昼に15分、授業後に30分といった例もある。)

さてここで問題なのは、制度上のことではなく、実質的な休憩時間のことである。私がこれまでに出会ってきた小中学校の教員は、口々に「休憩時間なんてないよ」という。「給食は急いで食べる」「トイレに行く時間もない」と嘆く教員もいる。

■休憩なし+超過勤務

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実際にインターネット上で紹介されている「教員の一日」の例(具体的には本記事下部の注1を参照)を見ても、授業の空き時間は、授業の準備、生活ノートのチェック、小テストの採点、校務分掌の遂行などに費やされている。(子どもの)休み時間も、給食や掃除の時間も、指導のために子どもに向き合っている。

中学校の場合には、授業後に部活動が待っている。会議や生徒指導が入ることもある。部活動が終わるのは、夏場の場合には18時を過ぎる。部活動が終わってようやく一人になって、諸々の業務をこなし始める。20時頃にようやく、学校を出る。

それらの例をみても、教員はまるで休憩(45分間)をとっていない。むしろ、休む間もなく子どもに向き合い続けることが期待されている。超過勤務は当たり前で、かつ休憩時間もないというのが、教員の働き方の実態である。

■休憩時間は10分 「まったくとれていない」が多数派

文科省「教員勤務実態調査」(2006)では小中の教員の休憩時間は約10分であった
文科省「教員勤務実態調査」(2006)では小中の教員の休憩時間は約10分であった

じつは、教員の休憩時間の短さは、すでにいくつかの調査で明らかになっている。

2006年度、文部科学省が40年ぶりに実施した全国の教員勤務実態調査において、正規の勤務時間帯と残業時間帯で教員がとった休憩時間は、小学校・中学校ともに10分程度しかないことが示された。

2012年度に関東圏で実施された調査においても、教員の休憩時間は、正規の勤務時間帯と残業時間帯で、小学校・中学校ともに4分である。

横浜市と札幌市の調査では、大多数が休憩を十分にとっていない(作図は筆者)
横浜市と札幌市の調査では、大多数が休憩を十分にとっていない(作図は筆者)

また、横浜市の調査(2013年実施)では、「勤務時間内に休憩時間(10時から16時までの間に45分間)がとれていますか」という質問に対して、「まったくとれていない」だけでも小学校で約5割、中学校で約7割の教員がそう回答している。「ほぼとれていない」「どちらかというととれていない」をくわえると、小学校と中学校いずれも約95%に達する。

札幌市の調査(2015年実施)においても同様に、勤務時間内の業務において「休憩時間を自由に利用することができましたか」という質問に対して、「まったく自由にできなかった」が小学校も中学校も約半数を占め、「あまり自由にできなかった」をくわえると否定的回答は約9割に達する。

■献身性の落とし穴 休憩時間数 教員の半数「知らない」

問:「1日の休憩時間数」を知っているか(連合総合生活開発研究所による教員調査)
問:「1日の休憩時間数」を知っているか(連合総合生活開発研究所による教員調査)

制度上の休憩時間がどれくらいあるのかさえ把握していない教員も多い。

連合総合生活開発研究所が昨年12月に発表した調査報告[注2]によると、制度上における「1日の休憩時間数」について、約半数が「知らない」と回答している。

報告書の指摘は、鋭くかつ厳しい。

教員の側からすれば、「知らない」のではなく「知る必要がない」のである。学校は「教職調整額」によって超過勤務という意識が育たないこと、また献身的な教師像や労働観を是とするこれまでの学校文化が教員によるタイムマネジメントを疎んだことも背景にある。

出典:連合総合生活開発研究所『とりもどせ!教職員の「生活時間」』

「教職調整額」(俸給の月額4%分の手当て。代わりに残業代が支払われない)によって超過勤務の自覚がなくなり、さらにはそれが献身的な教師像によって正当化されてしまうというのだ。「教員は教育者である以前に労働者である」というところから、意識を改めていかなければならない。

子どもが学校にいる以上、教員が誰にも邪魔されない休憩をとることは容易ではない。だからといって、教員の善意にまかせていては、教員は疲弊するばかりである。

教員には、休憩時間がない上に、超過勤務が待っている。教員の善意にまかせるのではなく、教員の過重負担を「見える化」して、勤務全体にわたっての負担軽減策を模索していかなければならない。

  • 注1:インターネット上には、教職を目指している大学生に向けて、「教員の一日」を記したページがいくつも見つかる。たとえば、教採合格ネットの「教師の1日(小学校編)」「教師の1日(中学校編)」、Career Gardenの「小学校教師の1日」「中学校教師の1日」などがある。これらのページは、けっして教職の過酷さを誇張するためのものではなく、単純に「教員の一日」を具体化したものである。
  • 注2:調査は2015年12月に、全国の公立小・中学校、高等学校(全日制と全日制・定時制併置)、特別支援学校の計5001名の教諭を対象に実施された。内訳は小学校が2835名、中学校が1700名、高等学校が326名、特別支援学校が140名、回収数は小学校が1903名(67.1%)、中学校が1094名(64.4%)、高等学校が196名(60.1%)、特別支援学校が91名(65.0%)である。その他、調査対象者の概要は、報告書の21-29頁を参照してほしい。
  • イメージ写真の提供元は、「写真素材 足成」
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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