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自民党総裁選に挑む石破茂氏に、いま聞きたい3つのこと

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授
(写真:Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

 自民党の石破茂氏はいち早く自民党総裁選への出馬を表明した。事実上、安倍総理と一騎打ちの構図になる。政策通として知られる石破氏は公開討論を希望しているが、現状、安倍氏サイドは否定的との報道も流れている。

総裁選 石破氏が安倍首相に公開討論求める NEWS24

http://www.news24.jp/articles/2018/08/16/04401591.html

 自民党総裁選といえば、事実上、次の総理を決める戦いでもある。参加できるのは自民党員だけだが、その帰結は広く我々の社会に影響する。それだけに、本来活発な政策論争が行われることが好ましいはずだ。ところが、今回の総裁選は事前の段階から非常に低調な状況といわざるをえない。そもそも立候補者数が少なく、衆人環視状況で議論がなされないとしたら、自民党のみならず社会にとって不利益といわざるをえない。自民党が開かれた議論の機会を多く設けることを期待したい。

 ところで、筆者は来週8月21日に石破茂氏とともに登壇する機会がある。

第247回J.I.フォーラム 「考えることの多い総裁選」 2018/08/21(火)開催

J.I.フォーラム|構想日本

http://www.kosonippon.org/forum/index.php

 それに際して、現時点では総裁選のマニフェストは公開されていないが、氏に聞いてみたい論点をさしあたり3点まとめてみた。

1. 将来社会のビッグ・ピクチャー

 石破氏は総裁選のキーワードとして、既に「正直、公正」な政治姿勢を掲げている。

石破茂氏が自民党総裁選に出馬表明 「謙虚で正直で国民の思いに近い政治」を訴える

https://www.huffingtonpost.jp/2018/08/10/ishiba-sousaisen_a_23500274/

 森友・加計に始まり、PKO日報改竄等、多くの不祥事や疑惑を抱えた現行政治との対立軸を引くという意味では有効かもしれない。その一方で、これからの日本社会像に対して理念や人々が希望を寄せることができる「大きな絵」とは言い難く思える。石破氏はどんな絵を描くのだろうか。防衛や地方創生など各論について目を引く一方で、多くの人が合意できる石破氏の将来社会像を拝聴してみたい。

2. 政策の整合性

 石破氏の過去の主張を概観すると、とくにこれまで大臣職を担当した分野を中心に政策のディーテールにまで踏み込んだ発言をしている。ただし、それぞれの主張間の整合性ということになるとやや疑問符が付く。たとえば、石破氏は地方とその活性化の重要性を説くが、同時におそらく消費税増税を念頭においた財政再建についてもかねてから言及している。しかし消費税増税は累進性が乏しく、都市と地方の所得差を踏まえれば地方の負担感のほうが重たくなるはずにも思える。その意味ではアクセルとブレーキを同時に踏んでいるように見えなくもない。このようにミクロとマクロの主張が必ずしも整合しないように見える点があるだけに、石破氏の見解を聞いてみたい。

3. 教育研究について

 少し奇妙にも思えるが、管見の限り過去に石破氏は教育についての言及をほとんど残していない。この間、たとえば日本の高等教育はグローバル化や人材育成の担い手として言及されながら、10年以上のあいだ国立大学の基本的な経費である運営費交付金の削減を実施し、歪んだ選択と集中政策を取り入れてきたこともあって、世界的にも東アジアのなかでも地位低下を続けている。

 地方において、その影響はより色濃い。18歳人口の減少もあり、大学の統廃合や実用的な学部への改組が続けられる一方で、学生の地元志向は強まっている。その結果、もともと大学数が少ないこともあって、地方の学生ほど進学先学部の選択が制限されている。また現在でも、都市と地方での大学進学率の格差は歴然として残っている。このような教育研究等を巡る問題について石破氏はどのように考えているのだろうか。職業的にもぜひ聞いてみたい。

なぜ日本の大学政策は国内外からの指摘にもかかわらず運営費交付金削減と競争的資金政策に拘り続けるのか(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20161101-00063990/

日本の大学に統廃合は本当に必要か?(西田亮介)- Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/ryosukenishida/20180725-00090688/

 これらの論点は来週火曜日に石破氏に直接尋ねてみるにしても、いずれにせよ先にも述べたように開かれた議論が活発化することを期待したい。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

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