Yahoo!ニュース

戸別訪問の解禁はネット選挙を促進するのか?

西田亮介社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

昨日、とあるBSの報道番組のネット選挙を振り返るという企画に出演した。そのなかで「ネット選挙よりも戸別訪問が重要である」という見解があった。だが、私見ではおそらく現在の政治習慣のなかでは、ネット選挙も、戸別訪問解禁も、有権者と候補者、政党の双方向の議論を促進しない。政党と候補者の力関係において、前者が優位だからだ。

最近の、党の方針に反して無所属候補を支援した菅直人氏の進退問題をめぐる民主党の議論を見ていてもよく分かる。政党の意向と異なった各政治家の発言や態度を容認しないのであれば、各政治家にとっては有権者と双方向の議論や、それによって態度や意見を変容する強いインセンティブを持ち得ない。党議拘束などはその象徴ともいえるだろう。懲罰対象になるのであれば、政治家や候補者が意見を形式的に「聞く」「頷く」ことはあったとしても、意見の変容や見解を大きく変えるということは起こりにくいと考えられる。したがって、現状ではインターネットやソーシャルメディアの顕著な技術特性のひとつである双方向性は活用される事態は想定しにくい。このような状況はオンライン/オフラインを問わないため、戸別訪問が解禁されたとしても、現状では政党や政治家、候補者が、有権者に対して発信する。あるいは、形式的に「聞く」「頷く」に終始することが予想される。

したがって、ネット選挙解禁は現状「政治の透明化」に一定程度寄与するツールであり、政党から見ると、新たな情報発信のチャネルにとどまるしかないことが運命づけられている。もしネット選挙とあわせて考えなおさなければならないとすると、戸別訪問もそうだが、それよりも新聞や雑誌、テレビ、ラジオといった他のメディアの利活用や文書図画の掲示、頒布についてだろう。

社会学者/日本大学危機管理学部教授、東京工業大学特任教授

博士(政策・メディア)。専門は社会学。慶應義塾大学総合政策学部卒業。同大学院政策・メディア研究科修士課程修了。同後期博士課程単位取得退学。慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科助教(有期・研究奨励Ⅱ)、独立行政法人中小企業基盤整備機構経営支援情報センターリサーチャー、立命館大学大学院特別招聘准教授、東京工業大学准教授等を経て2024年日本大学に着任。『メディアと自民党』『情報武装する政治』『コロナ危機の社会学』『ネット選挙』『無業社会』(工藤啓氏と共著)など著書多数。省庁、地方自治体、業界団体等で広報関係の有識者会議等を構成。偽情報対策や放送政策も詳しい。10年以上各種コメンテーターを務める。

西田亮介の最近の記事