ドイツブンデスリーガ1部のアイントラハト・フランクフルトは8日、長谷部誠と22年6月30日までの契約延長を発表した。長谷部はクラブ広報を通じ、動画で次のようなコメントを発表した。クラブ公式ツイッターで同じものを確認することができる。

「今回チームと一年間契約延長することができて、もちろん去年のちょうど今頃は今シーズンで終わりかなというような感情はあったんですけど、そこから今シーズン、ここまでいい形でプレーができて、そして、リベロだけじゃなくてボランチというかミッドフィルダーでもプレーができて、まあ自分の中で少しリミットを決めてしまっていた部分はあるんですけど、ある意味で、いい意味でそれを壊すことができて、こうしてね、もう1シーズンプレーできるというのは、非常に嬉しいですし、まあ本当にアイントラハト・フランクフルトというクラブに、で、プレーすることは喜びもあるし、そして、チームもねすごい成長している中で、その中にいられるというのはね非常に、嬉しいので、まあとにかく今シーズンはねまあまだチャンピオンズリーグヨーロッパリーグ、インターナショナルの場所で戦える、ところをね、狙える順位にいるので、まあとにかく今シーズン、1試合1試合謙虚に戦って、大きな目標というか大きなものを背負ってまた来シーズンにつなげたいと思います」

 ここでは、通常であれば整える“てにをは”を、あえて話したままで文字化してみた。本人の話しぶりがテキストからも伝われば幸いである。

 この本人の話で気になったのは、昨季の今頃は、今季つまり20-21シーズンいっぱいでの退団を現実的に視野に入れていたという箇所だ。確かに昨季を振り返ってみると、後半戦に入り新型コロナウイルス流行によるリーグ戦中断までの間、出場機会がぐっと減っているのだ。昨季は開幕から9試合連続でフル出場し、その後第10、11、15節でベンチ入りしながら出場せず。20年に入り後半戦開幕の第18節でベンチを外れると、第19、20、22節で同じくベンチ入りも出場なし。ドイツ杯やヨーロッパリーグを含め、20年1月から3月までの間にフランクフルトは12試合を戦っているのだが、長谷部はフル出場4試合途中出場2試合ベンチ入り出場なしが5試合ベンチ外1試合。およそ2ヶ月の間にフル出場4試合は決して多い数字ではない。

 以前に、昨季に関してインタビューを行った際、長谷部は

「自分の中で沈んでしまった時期があった」

 と話していたことがある。それは、この時期を指すのだろう。メンバーの入れ替えなどにより連携がうまくいかない時期があったと説明していたが、過密日程の中で、勝負のかかったドイツ杯準々決勝ブレーメン戦や準決勝バイエルン戦などであからさまに出場機会が与えられなかったのもこの時期だ。

 とはいえ、ここで下を向かないのが長谷部である。ビッグクラブとの試合で出場がないのは以前から変わらないとしつつもこんな風に語った。

「監督がどういうことを求めているのか、こういう年齢になって自分の中で、理解している部分もあるので。でも、逆にそこを理解していながらもそれで“良し”としてしまう自分も嫌なので、そこは自分の中で葛藤しながら、次は自分がそのバイエルン戦に出してもらえるように、普段から、見せていかなきゃいけないなといつも感じてます」

 ベンチから試合を見るままで“良し”としてしまう自分は嫌だ、とはっきり口にしている。このいつまでたっても薄れない、気持ちの強さこそここまでトップレベルでのプレーを続けられている理由なのだろう。

 今回の契約更新は、ドイツメディアは事前から報じていたことだった。昨年11月にヒュッター監督が、若手を起用し長谷部を起用しないことについて問われた際に「長谷部は来年やめちゃうかもしれないから若手を育てないと」と発言した際にも、直後に長谷部の単独インタビューがビルト紙に掲載された。長谷部は指揮官と既に話し合いを行っているということ、若手起用に関する発言については理解を示しつつ「でも70歳でも80歳でもサッカーを続けているかもしれない。先のことは誰にもわからない」と軽く反論している。ここで重要なのは、下衆な話題も多い大衆紙ではあるが最も多くに読まれているビルト紙によるインタビューで反論のチャンスが与えられたということだ。この手のインタビューはクラブの許可のもとに行われるのだが、クラブがこの時はビルトにインタビューの許可を与えたということ。つまり、長谷部の発言機会が必要だと判断したということで、ヒュッター監督の軽率な発言よりも長谷部の言葉を聞けというクラブからのメッセージでもある。

 また、メディアでこうした機会を与えられるだけのことはあって、長谷部は地元メディアに愛され、可愛がられている選手でもある。毎週行われる定例記者会見に長谷部が登壇したことがあったが、長谷部は全てドイツ語で対応した。ほとんどは流暢なドイツ語を話したが、時折単語の選択につまずくと、地元メディアの記者たちが、一言一句に対し首を縦に振ったり横に振ったり、時には手助けをしたりと、固唾を飲んで見守っていた。会見の最後には、その週末の試合の対戦相手がブレーメンで、率いるコーフェルト監督が82年生まれで長谷部と2歳しか違わない若手監督と呼ばれていることを問われると「ということは、僕も若い選手でしょ?(当時長谷部はリーグ最年長選手だった)」と冗談を言って締めくくった。記者陣のハートをぐっとつかんだ瞬間が目に見えるようだった。今回の契約延長に関して、ドイツメディアでは懐疑的な姿勢を示したメディアは皆無だったが、それはこのような日頃からの関係性あってのことだろう。

 契約延長は1年だ。キッカー誌など地元メディアは、コロナ禍が終わり観客の戻ったスタジアムで、長谷部にふさわしい形で引退させてあげたいものだとしている。もちろんそれも、今季のような無観客の中で去るよりはいいだろう。でも、長谷部にはできる限り長く、欧州のトップレベルで、プレーを見せてほしいものだと願ってしまう。