『スペースマーケット』の儲け方と、今後の展望について考えてみた

パーティースペースやレンタル会議室を展開する(株)スペースマーケットが2019年12月20日に東京証券取引所に上場します。同社は遊休資産の有効活用「シェアリングエコノミー」の代表企業として有名です。目論見書が公開され、主要KPIなどが明らかになってきましたので、そのビジネスについて解説をしたいと思います。

(株)スペースマーケット 上場目論見書

「貸したい人」「借りたい人」のマッチングサイト

使っていない土地・建物や店舗を持っているオーナーがその物件を活用するためには「賃貸契約をする」か「売却する」しかありませんでした。実際には、「あまり使っていないのだけど、たまに使う。空き時間だけ貸したい」といったニーズもあるのですが、そういった小刻みなニーズに対応できるサービスはありませんでした。

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一般社団法人シェアリングエコノミー協会によると、スペース貸しの市場規模は2030年度には3兆5千億円にもなる可能性があるそうです(※1)。

インターネットを用いて、そういったニッチなニーズをマッチングさせ、「貸したい人」と「借りたい人」を結ぶサービスとして、スペースマーケットは作られました。

貸し会議室との違い

有休不動産の活用といえば、「貸会議室」にサブリースする、という方法もあります。貸会議室運営大手のTKPなどが有名です。

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TKPなどの貸会議室では、まず、TKPがオーナーから一括で借り上げます。そして、会議室を借りたい人にそれを貸します。オーナーには安定した収益が入ってきます。TKPは安定収入を保証する代わりに、安い賃料で不動産を仕入れています(※2)。

一方、スペースマーケットでは、部屋を借り上げることをしません。あくまで借り手を見つけてきてマッチングさせるにとどまり、オーナーに「収益機会」を与えている点が貸会議室ビジネスとの大きな違いです。

スペースマーケットの提供価値

スペースマーケットがオーナーに提供している価値は下記の3つです。

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・集客

スペースを借りたいお客様をスペースマーケットが発見してきて紹介します。集客はインターネット上で様々なマーケティングを行っているほか、自社でテレビCMなども実施しています。

管理システム

部屋の空き時間、予約状況、お客様とのやり取りといった、運営に必要な予約管理システムを提供しています。

集金

実際にユーザからお金を集め、オーナーに支払うトランザクション機能を担っています。オーナーが「スペース貸し」ビジネスを始めるにあたって必要な基本機能をすべて提供しています。こういったビジネスに必要な要素をまとめて提供する事業者のことを「プラットフォーム」「プラットフォーマー」と呼びます。

スペースマーケットは手数料をいくら取るのか?

スペースマーケットでは、部屋の掲載はすべて無料です。固定費もかかりません。スペースマーケットはどうやっていくら儲けているのでしょうか?

プラットフォーマーの収益方法は様々ですが、売上に応じて一定の割合が入るような仕組みになっていることが多いです。スペースマーケットも同様に、部屋の利用料から一定割合がスペースマーケットのものになります。それをまとめたのが下記の図です。

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プラットフォーマーの取り分のことを「テイクレート(Take Rate)」ともいいます。エンドユーザが支払った金額のうち、何%を取るか?という割合のことです。

スペースマーケットはスペース貸しの際には「33%」も手数料を取ります。宿泊の場合は14%です。これは、Airbnbのテイクレートとほぼ同じです。同じというか、宿泊についてはAirbnbのほうが先なので、スペースマーケットはそこに倣ったのでしょう。(※3)

スペースマーケットの売上・利益の状況

実は、プラットフォームのテイクレートが33%というのはかなり大きな数字です。ネット系のサービスで、物流など物理的なサービスが伴わないものでこれほど高いテイクレートはあまりありません。App Store、Google Playが30%なので比較的近い数字ですが、両方ともかなり過大な印象が否めません。

それでは、スペースマーケットはどれぐらい儲かっているのでしょうか?今回のIPOに記載のあった売上・利益の状況は下記です。

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2018年12月は赤字。2019年は9月までの9ヶ月間で黒字にすることができたようです。2019年12月期は初の通期黒字が実現できるかもしれません。しかし、これだけのテイクレートを取っておいて、ようやくトントンか?という感じもあります。(※4)

なお、上場目論見書には、1スペースあたりの売上単価も記載がされています。「部屋を貸し出したらどのぐらい儲かるのか」気になっている方は、ぜひ目論見書も見ていただければと思います。

成功するためのポジティブ・フィードバック

では、スペースマーケットが今後成功していくにはどうしたらいいのでしょうか?

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話としては非常に簡単で、探す人にとってはなるべくたくさんの物件が集まっているところで探したい傾向があります。また、物件を掲載する側にとっても、なるべくたくさんの人が来てくれるところがよいです。

その点、スペースマーケットはここまで非常に巧妙にマーケティングを仕掛け、「スペース貸しといえばスペースマーケット」というところまで持ってくることができているのではないでしょうか?

あとは、貸し出すスペースがあればいいということになります。

ニワトリが先か、卵が先か、みたいな話になってしまうのですが、スペースマーケットの場合は「部屋」を優先するのが良さそうです。

ユーザは、部屋を探しにきてもニーズに合う部屋がないと、結局離脱してしまいます。ユーザ獲得にかけたコストは離脱すると消えてしまいますが、部屋の獲得については、一旦獲得できればなかなか離れません。オーナーにとっては掲載しているだけなら無料なので「そのうちくるか」とほっておけるのです。また、「ニワトリ、卵」では、それを使うことで儲かる人のほうがインセンティブが強く働きますので、その意味でも、この場合は「部屋」を先に集めるのが良さそうです。

部屋の獲得のためのインセンティブ制度

ところで、スペースマーケットは2019年10月から「インセンティブ制度」を開始しています。

これは、一定以上の売上を上げた部屋にインセンティブを払う、というものです。

すでに部屋を提供しているオーナーにとっては嬉しい制度ではありますが、これの本当の狙いは、掲載部屋数を増やすことにあります。

実は、多くのスペースでは、運営の代行が使われています。

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お客さんから予約の申込みが入ったらすぐに承認しなければならなかったり、問い合わせの対応や部屋の管理など、スペース貸しは多少手間がかかります。その手間を引き受けているのが運営代行会社です。通常、スペース利用料の10%程度の手数料で引き受けていることが多いです。

実は、上記のインセンティブは「管理アカウント」に対して支払われます。運営代行は複数のオーナーの物件を一つのアカウントにまとめて管理しています。そのため、インセンティブもオーナーではなく、運営代行会社に支払われます。

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ユーザが支払った「スペース利用料」のうち、30%がスペースマーケットの取り分ですが、そこから最大19%がインセンティブとしてアカウントの運用者に支払われます。インセンティブは月間スペース料に応じて料率が決まっていますが、これは一つの部屋ごとではなく、一つのアカウントごとに集計されます。したがって「なるべく多くの部屋を一つのアカウントにまとめて、売上を大きくする」ことが運営者にとっては有利な選択となります。

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このインセンティブですが、頑張って330部屋ほど登録したとします。都内の定員10名程度の部屋の期待収益は21万円との記載がスペースマーケットにありますので、それで単純計算すると、月間のインセンティブは約800万円にもなります(※5)。一度登録すれば、あとは運営が順調であれば、この収入が権利収入のように毎月入ってきます。月額800万なら年額約1億円。街の不動産屋さんの中には、紹介したときに一度仲介手数料が入るだけの賃貸仲介よりも、継続的に入ってくるインセンティブを求めて、オーナーにスペースマーケットに出すように交渉するようにビジネスを切り替えるところが出てくるかもしれません。空室のある大家さんに「募集してる間だけでもやりませんか?」と提案すればいいだけです。

このように「他人が儲けようとすればするほど、自分が儲かる」というタイプのビジネスは強いです。このインセンティブ制度は、当面はスペースマーケットの収益にとってはマイナスですが、規模の拡大にはかなり貢献するのではないかと考えています。

なお、この「インセンティブ」については「ホスト規約」には記載がありません。スペースマーケット側の都合で突然終わる可能性があることを考慮する必要があります。

民泊との併用

スペースマーケットとAirbnbはその仕組みもシステムもよく似ています。画面のデザインなどもそっくりです。つかいやすい形を追求するとこうなるのかもしれません。

民泊の場合、法令によって上限が180泊と定められています(※6)。そこで遊休資産を持つオーナーにとっては「住宅宿泊事業」と「スペース貸し」を併用するプランが考えられます。

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例えば4月〜11月までは民泊として使用します。稼働率が74%なら、180日に収まります。別の機会に紹介したいと思いますが、74%なら収益を確保して回せるラインです。そして、残りの12月〜3月はスペース貸しで運用することで、民泊新法による上限を回避できます。来年はオリンピックがあり、東京では夏季のホテルが取りにくくなると思われますので有効な手段です。

一方で、併用するにあたって、注意する点があります。「寝具」です。

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現在、「ナイトプラン」と称して、夜間の一定時間をパックにして提供している部屋があります。ナイトパックで8時間1万円なら、4人で泊まると一人あたり2,500円なので、かなりお得で、漫画喫茶などより快適に過ごせる可能性があります。

一方で、「寝具」を提供するとヤミ民泊となります。いまでも、スペースマーケットに掲載されている多くのマンションタイプのレンタルスペースではマットレスやブランケットの類は置いていますが、布団、シーツ、枕、枕カバーなどを置くには、旅館業の許可や住宅宿泊事業の届け出が必要です。

スペースマーケットによって生み出される新たなエコシステム

スペースマーケットは、「遊休不動産」を時間によって細切れにして貸し出すことで新たなビジネス価値を生み出しました。さらに、運営代行業など周辺ビジネスも生み出してきています。今後ますます問題になっていく空き家問題や、自治体の税金以外の収入源など、社会的な課題に対してもひとつの回答を出せる可能性があるプラットフォームになると思っています。

現在、同じようなコンセプトで運用されているサービスに「インスタベース https://www.instabase.jp/」があります。他にも、「撮影スタジオ」に特化したサービスなども出てきています。今後、こういったサービスが続々出てくることで市場が活性化し、さらなる拡大に拍車がかかることを期待したいと思います。

[注釈]

※1 https://sharing-economy.jp/ja/wp-content/uploads/sites/2/2019/04/6f09e05b2e4c6c99cab7b360d7480134.pdf

※2 TKPでは貸し会議室以外にもケータリングなども展開しています。また、借り上げだけではなく自社物件など様々なオペレーションの手段を組み合わせています。図中の表現ではそれらのビジネスモデルについては省略しています。

※3 スペースマーケットでは、「スペース利用料」のうち、30%を手数料としています。また、ユーザからスペース利用料に加え、5%のサービス料を取っています。これは、スペース利用料を100とすると、ユーザが支払う金額は105、オーナー返却分は70となります。したがって、70/105=67%がオーナーの取り分となります。同様に、Airbnbでは、宿泊費用(清掃費等含む)の3%を手数料として、ユーザには宿泊費用の最大12%を手数料として上乗せして請求します。このことから、オーナーの取り分は97/112=87%となります。

※4 目論見書においては他に重要なKPIについての記述があります。例えばGMV(Gross Merchandise Value 流通総額)を主要KPIとしており、数値が公開されています。これまでの最高GMVは月間2億円とのこと。

※5 インセンティブは「50万円を超え、100万円までの部分につき2%」「100万円を超え、500万円までの部分につき5%」、といった輪切り形態になっています。330部屋×21万円=6,930万円をこのテーブルに当てはめると、7,727,000円となり、約800万円と記載しています。税金等は一切考慮していません。また、21万円はスペースマーケットが公表している想定予想収益であって約束された収益ではありません。インセンティブは2019年8月3日に公表された情報に基づいて計算しています。

※6 「住宅宿泊事業法」による上限です。自治体によってはさらなる上乗せ条例があることがあります。

※本稿執筆時点において、筆者は当該企業の株式を所有しておりません。