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コロナで苦境に陥る音楽番組 今面白いことをやっているのは?

レジー音楽ブロガー・ライター
(写真:アフロ)

Mステが迎えた異常事態

コロナウィルスの影響により、多くのテレビ番組が通常とは異なる進行を強いられています。それは『ミュージックステーション』(Mステ)も例外ではありません。

2月末から無観客での収録が始まっていた『Mステ』ですが、4月3日の放送では出演者が一堂に会する場面はなし。司会のタモリと並木万里菜がかなりの距離をとって並ぶという「ソーシャルディスタンス」に配慮したスタイルでの放送となりました。その後、4月7日に緊急事態宣言が発令され、さらに4月12日には同じ放送局の番組である『報道ステーション』のキャスターがコロナウィルスに感染していたことが発覚。従来のスタジオ生放送での番組作りを断念せざるを得なくなった『Mステ』は、17日と24日については過去の放送を中心に構成した内容を放送。Mステの看板でもあるタモリがいない異例の事態となりました。

音楽番組はどんな工夫をしているか

現時点で『Mステ』に限らず多くのテレビ番組が制作上の問題を抱えており、ある程度のパワーダウンはやむを得ないと思います。一方で、「春うたヒストリー」「胸がキュンとする恋うたランキング」といった企画を放送した17日と24日の回を観た限りでは、「ほんとにそれしかできないんだろうか」という疑問も浮かびました。平時の放送ではアーティストの生パフォーマンスと過去映像を使った何らかの編集コンテンツ(ランキングなど)が二本柱となっており、後者のコーナーが番組の流れを削いているのではという話を各所で再三指摘してきましたが、現状の「その後者の部分のみで1時間埋める」というような状況は観ていてなかなかしんどいものがあります。

参考記事:『ミュージックステーション』初の放送枠移動 リニューアルの方向性は?(2019年8月27日)

この1週間(4/23~4/29)の『Mステ』以外の音楽番組に目を向けると、基本的には「これまでの得意なこと、スタンスを強化している」という印象です。

バカリズムとアーティストのトークが番組の売りでもある『バズリズム02』(4/24放送回)では、「5周年企画」ということで過去のトークの総集編を放送。本来は生のライブパフォーマンスにフォーカスする予定だった『CDTVライブ!ライブ!』は4/27に『CDTVライブ!ライブ!スペシャル特別編』として、「CDTVブランド」を押し出したアーカイブ主体の番組を制作。いずれも、「VTR企画重視」が顕著だったMステがそちらに「全振り」したのと背景は同じように思います。

一方、震災から間もない2011年3月27日に『上を向いて歩こう 〜うたでひとつになろう日本〜』を放送したのと同じように、2020年3月21日に『緊急生放送!FNS音楽特別番組 春は必ず来る』を放送してNUMBER GIRLをライブハウスから出演させるなど、「音楽に寄り添う」姿勢を見せているのがフジテレビ。通常の音楽番組についても『LOVE MUSIC』の4/26放送回では様々なアーティストからオリジナル動画を集める企画を展開。弾き語りやダンスパフォーマンスの動画、さらには直近のライブ映像など、各アーティストの色が見える動画が放送されました。

収録ができなくなった場合、過去の再放送、総集編、などという手段が想定されましたが…それ以外に何かできないのか?ネットでは、多くのアーティストが自宅やレコーディングスタジオ、リハーサルスタジオなどで、動画を配信しています。また過去のアーカイブ映像をこの機会に無料で見られる機会を作ったりもしています。テレビも過去の映像ばかりでなく、新しい映像や、あまり見たことがない映像、そういった映像を何かテレビからも発信できないか?と考えた末、アーティストの皆様から動画を募集することにしました。

出典:『Love music』特別編としてアーティストから届いた動画を放送 銀杏BOYZ、セブチ、ランペ、Nissyら18組(リアルサウンド 2020年4月25日)

番組そのもののスムーズさなどはまだまだ試行錯誤中という感じではありましたが、とても意欲的な取り組みだと思います。

徐々に新しい取り組みも

狭義の音楽番組という枠を外して俯瞰したときに、「この状況だからこそ」の取り組みをしている番組として特に目立っているのが『スッキリ』です。これまでも海外のセレブを出演させるなど「朝の音楽プログラム」的なポジションも獲得していたこの番組は、4月16日にSKY-HI、4月23日に森山直太朗が出演。それぞれ自宅、プライベートスタジオからリモートで登場し、SKY-HIは「Homesession」、森山直太朗は「太陽」を披露しました。

参考記事:SKY-HIの活動に見るスピード感と柔軟性 「#Homesession」の広がりから『スッキリ』リモートライブまで(リアルサウンド 2020年4月21日)

参考記事:水卜アナ、森山直太朗の生歌に再び涙「心にズバッて…」(マイナビニュース 2020年4月23日)

テレビ局のスタジオに豪華なセットを組んで行うステージとは趣の違う「手触り感のあるライブ」は、どうにも心がささくれ立ちそうな昨今の世情ともとてもマッチしていたように思いました。この辺は星野源が「うちで踊ろう」で目指した世界観とも近いものがありそうですが、「家にいなければならない」今だからこその表現をテレビとして素早く導入した『スッキリ』の瞬発力は素晴らしいと思います。

SKY-HI、森山直太朗ともにソロでのパフォーマンスでしたが、おそらくこの先「複数人でのリモートパフォーマンス」も増えていくのではないかと思います。こちらの柴さんの記事に詳しいですが(「「STAY HOME」でつながる「オンライン音楽フェス」の新たな試み」)、ローリングストーンズの4人はそれぞれの自宅からバンド編成での演奏を披露。また、中継ではないですが、lyrical schoolがYouTubeで展開している「リモートフリーライブ」も、現状を逆手に取る形で5人の魅力が最大限に伝わる素晴らしい取り組みとなっています。

コロナ禍が社会全体に変革を強いるのは確実であり、その変化は音楽番組にも否応なく押し寄せます。だからこそ、音楽番組も「これまでのやり方を踏襲する」のではなく、今だからこそできることに向き合ったうえで、次の時代でも活用できる「武器」を増やしていく必要があるはずです。

「コロナでMステが総集編ばっかりになったときはどうなることかと思ったけど、あの時いろいろやったことで音楽番組がまた面白くなったな」と1年後くらいに言えるようになる日が来ることを願っています。

音楽ブロガー・ライター

1981年生まれ。会社員兼音楽ブロガー・ライター。会社勤務と並行して2012年に「レジーのブログ」を開設。作品論のみならず、社会における音楽の位置づけ、音楽ビジネスの変遷、ファンカルチャーのあり方など音楽シーンを俯瞰した分析が話題に。現在は音楽を起点に幅広いジャンルの記事を寄稿。著書に『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』(blueprint)、『日本代表とMr.Children』(宇野維正との共著、ソル・メディア)、『ファスト教養 10分で答えが欲しい人たち』(集英社新書)がある。

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