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仏有名デザイナー、アニエスBも叔父による近親姦を証言

プラド夏樹パリ在住ライター

16歳まで叔父から近親姦の被害に

国民の10%、約670万人が近親姦(近親者及びそのパートナーによるレイプあるいは性的虐待)の被害にあっているという統計が昨年出たフランスで、有名デザイナー、アニエス・ベー(agnès b. 本名アニエス・トゥルブレ氏79歳)がテレビ局LC Iの番組「En Toute Franchise」で、14日夜、16歳まで叔父から近親姦の被害にあっていたことを明かした。(マリー・クレール誌上では「12歳から16歳まで」と語っている)

フランスでは近親姦の定義は

次の人々によるレイプ(暴行・強制・脅迫・不意打ちを伴う挿入)と性的虐待

1.先祖 

2.兄弟・姉妹・叔父・叔母・甥・姪、

3. 上記1と2のパートナーのうち子どもに対して監護権がある人々

「16歳の時、こんなことありえない!と思った。母に打ち明けたが、彼女はほとんど反応してくれず、今度はそのことに私は苦しんだ。私が17歳で早婚したのは、こうした家庭から逃れるためだったと思う、いや、確かにそうだった」。

インタビューアーが「警察に訴えましたか?」という質問をすると、「いいえ、私は若い時とても引っ込み思案でしたから訴えませんでした。30歳頃、最初のブティックを開店した頃からやっと人前で話すことができるようになり、その頃から再婚した夫と共に幸せに仕事をし、生活できるようになった」

そして、辛い体験から立ち直ることができたもう一つのきっかけとして次のように語った。「2013年にシナリオを書き監督した映画『私の名前はHmmm……』(Je m’appelle Hmmm……)を制作しました。生き辛さを抱えている思春期の女の子についてのフィクション映画ですが、私のこの辛い体験と呼応するところがあり、そこから生まれた作品です」。また「事件は私に一生消えない刻印を押した。でも、私はこの体験をバネにして強くなったとも思う」と締め括った。

#MeToo以前の時代、近親姦は自分が墓まで持っていく「最後のタブー」だったのだろう。ところで、彼女はマリー・クレール誌上で、「母に守ってもらえなかったということを理解するのに、時間がかかった。........(中略)...『お母さん、わかる?12歳の時からあの叔父は私のお尻の後を追っかけ回しているのに、あなたたちはそれを知っていて何もしなかったじゃない!』と怒鳴ったけど、母は『あーそう、それはひどいね、なんて恐ろしいことなんだろうねー』と適当な返事をしながら、何もなかったかのように料理を続けた。そして、その後も、彼女はこの事件について何も言わなかった」と、語っている。

これまでにメディア上で出ている証言の中で一番、驚かされるのは、「母親が見て見ぬ振りをした」というケース、つまり事実上の共犯者であることがとても多いことだ。「大したことないじゃない」、「死ぬまで表沙汰にしないで」、「あなたが誘っているのでしょう?」と言う母親の責任は重大だ。

フランスでは、子どもに対する性的虐待を知っていて警察に届けないことは、軽罪にあたる。その時効は現在は、子どもが成年に達してから6年だが、新法では10年(レイプの場合は20年)に延長される予定だ。子どもに対する性的犯罪は、加害者個人の問題だけではなく、その周りの人々、社会全体の問題であることを明らかにする姿勢だ。

成人との性交における未成年者の性的同意年齢は15歳未満に引き上げか?

今、連日のように近親姦が告発されているフランスでは、上下院で未成年者に対する性犯罪刑法の新法案審議が進んでいる。1月21日には、「成人と13歳未満との性的関係は、子どもの同意の有無にかかわらず重罪」という法案が上院で全会一致で可決されたばかり。その第一項は「成人が13歳未満に対して行う挿入は、同意の有無にかかわらず20年の禁固刑」というものだった。

そして2月9日、エリック・デュポン-モレッティ法務大臣は、さらに年齢を引き上げ、「成人が15歳未満に対して行う挿入を伴う性交は、子ども側の同意の有無に関かかわらず重罪化」という政府の意向を明らかにした。未成年者に対する性犯罪者が「子どもも同意していた」と釈明することは多々あるが、新法案が可決されれば、「15歳未満の子どもの性的同意はありえない」とされ、たとえ暴行・強制・脅迫・不意打ちがなくてもレイプ罪とみなされるようになる。

同法務大臣は新法案に関して、次の2点も、政府側の意向として発表した。

・15歳未満の未成年者も同年代の恋人(5歳年上まで)とは性的関係を持つことができるように考慮する。

・近親姦の場合は、被害者の性的同意年齢は18歳。

・一人の加害者が数人の未成年被害者に対して数年にわたって性的犯罪を行った場合は、時効(現在は被害者が成年に達してから30年、つまり48歳まで)を更に延長することを可能にする。

上院下院で現在審議されている新法案は、成立した場合、今年4月から発効される予定だ。

※2月18日フランス時間14時40分、加筆しました。

パリ在住ライター

慶応大学文学部卒業後、渡仏。在仏30年。共同通信デジタルEYE、駐日欧州連合代表部公式マガジンEUMAGなどに寄稿。単著に「フランス人の性 なぜ#MeTooへの反対が起きたのか」(光文社新書)、共著に「コロナ対策 各国リーダーたちの通信簿」(光文社新書)、「夫婦別姓 家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)など。仕事依頼はnatsuki.prado@gmail.comへお願いします。

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