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「PTAの理想と現実の狭間で葛藤する人」の背中を押したい 高崎市P連の腰を抜かす本気度

大塚玲子ライター
事前に実施した大規模アンケートの調査結果をもとに議論した(写真:高崎市P連提供)

 先月12月14日、高崎市PTA連合会(以下「市P連」)は、これからのPTAをテーマに研究大会を開催しました(*1)。その本気度は、登壇させてもらった筆者も腰を抜かすレベルでした。

 市P連は大会に先立ち、市内全小中学校の全ての保護者・PTA会長・学校長を対象にアンケートを実施。なんと4000件を超える回答を集め、結果を冊子にまとめました(*2)。

 大会当日の動員・人数割り当ても一切ナシ。PTAの本部役員や校長だけでなく一般の保護者や地域の人など誰でも参加できるようにし、託児サービスも開設しました。

 後半のパネルディスカッションでは、くじ引きでPTA会長を引き受けることになった母親や、中学校で教員をしながらPTA会長を務める父親らが登壇し、新たな視点でPTAのあり方を見直すべく、さまざまな意見が交わされました。大会の様子は後日、NHKニュース(ほっとぐんま)でも報じられています。

 なぜ、こういった研究大会を企画・開催したのか? 今大会の実行委員長を務めた泉純平さん(市P連副会長・自校PTA副会長)に聞かせてもらいました。

左端が泉氏、隣が筆者(写真:高崎市P連提供)
左端が泉氏、隣が筆者(写真:高崎市P連提供)

――今回の研究大会の構想は、どのように思いついたんですか?

 「いまのPTAの組織や活動は、時代に合っていない部分があるんじゃないか」ということは、以前から薄々感じていました。ちょうど元号が変わるタイミングが重なったこともあり、ここで一度PTAそのものを、みんなで考えてみるのはどうかなと。そこで市P連会長の大澤博史さんに相談し、まずは高崎市のPTAの現状を知るためにアンケートをとってみたいと伝えました。

――PTA会長向けと校長先生向けのアンケートはそれぞれ約80件、保護者向けのアンケートは3989件も回収されたとのこと (*2)。質問文の作成から回収まで、ものすごい労力がかかったと思います。なぜアンケートをとろうと?

 毎年「研究大会」という名がつきながら、何かをちゃんと「研究」して成果発表する、ということが行われていなかったので、そこをちゃんとやりたいなと思いました。そのためには、マスコミの論調に乗り想像でPTAを語るのでなく、「現実の、目の前のPTA」という生の素材を、きちんと調べたいなと。

 また私も自校のPTAにかかわるなかで、「他校のPTAは、こういうときどうしているんだろう?」と思うことが多かったので、アンケートでデータが取れたら、他校の人たちにとっても非常に参考になるものになるだろうな、と思ったのもあります。

――実際にアンケートをとってみて、いかがでしたか?

 当初、私は会長向けのアンケートをメインで考えていましたが、保護者向けのアンケート結果に衝撃を受けました。私は、高崎のような地方都市では、PTA問題はまだ顕在化していないだろうと思っていたんですが、まったくそんなことはなかったので。

――保護者アンケートの自由記述には「強制をやめてほしい」、あるいは「PTAはいらない」といった声が少なからずありました。そういう声は、あまりないと思っていたんですか?

 そう思っていました。少なくとも「うちの学校のPTAはうまくまわっている」と思っていた。でも以前大塚さんと打ち合わせしたとき、私がそう話したら、「役員さんはみんな『うちはうまくいってる』とおっしゃるんですよ(でも一般会員はそう思っていない)」と言われて。アンケート結果を見て、「なるほど」と思いました(苦笑)。

――わたしも今回のアンケート結果を拝見して、PTA会長と一般保護者の現状認識のギャップについて、改めて考えさせられました。このアンケート結果は全国のPTAの参考になると思いますが、Web等で公開される予定はないでしょうか?

 1月の市P連本部役員会議に諮ってみて、異論がなければ市P連のホームページ上に公開したいと思っています。

保護者・PTA会長・学校長に実施したアンケート結果をまとめた冊子。とても貴重な資料です(写真:筆者撮影)
保護者・PTA会長・学校長に実施したアンケート結果をまとめた冊子。とても貴重な資料です(写真:筆者撮影)

*くじ引き強制が起きる現実も直視

――パネルディスカッションに登壇した二階堂麻美子さんが、「くじ引きでPTA会長になったことをアンケートに書いたら、ここでお話しする機会をもらった。現実に目を背けないでくれて、ありがとう」と話すのを聞いて共感しました。多くのP連はPTAの良い面のみに目を向け、くじ引きによる強制など母親たちの苦しみからは目を背けがちです。なぜ、彼女に声をかけたんですか?

 私が感動したのは、二階堂さんがくじ引きで会長になったあと、それを逆手に取って「自分が会長になったからには、PTAをいい方向に変えていこう」と前向きに考えていたところでした。それがすごいなと思ったので。

パネリストとしてPTA会長と元校長の計4名が登壇(写真:高崎市P連提供)
パネリストとしてPTA会長と元校長の計4名が登壇(写真:高崎市P連提供)

――小学校のPTA会長で、本業が中学校の先生である茂野勇さんのお話も、印象深かったです。

 茂野さんは以前、P連担当の私の目の前で「俺はもう、市P連は脱退してもいいと思ってるんだよ」と言ったことがあり、面白い方だなと思っていました(笑)。聞くと学校の先生だったり、PTA改革に非常に熱意をもっていたりして、ますます面白いなと。

 登壇者は最終的に、実行委員会のみんなで相談して決めました。

――今回、研究大会への動員(人数割り当て)をやめ、誰でも参加OKにしてほしいとお願いしたのはわたしですが、実行ありがとうございます。

 私自身は、別に動員をかけられても嫌なら行かなければいいだけと思っているんですが、今回実施したアンケートでも、「動員をやめてほしい」という声はたくさんありました。やっぱり反発もあるようですね。だからむしろ今回は「動員ナシ・誰でも参加OK」を宣伝材料に使おうと思いました。「市P連は変わろうとしている」ということの象徴として、いろんな会合で、毎回言ってきたんです。

会場の入り具合はこんな感じでした(来場者は350人強、運営スタッフが約40名)(写真:高崎市P連提供)
会場の入り具合はこんな感じでした(来場者は350人強、運営スタッフが約40名)(写真:高崎市P連提供)

――人数割り当てがないと、事前に参加者数が読めなくて困りませんでしたか?

 いえ、特に。会場は先に決まっていたので、じゃあ人を集めればいいんでしょう、と思って動きました。ただ、市P連の事務局は「駐車場の必要キャパを早めに知りたい」とだいぶ気にしていましたけれど(笑)。

――なるほどそうでしたか。託児サービスを開設されたのも、すごいですね。

 そもそも「PTA活動に子連れを認めるか認めないか」という議論があることを保護者アンケートの自由記述で知って、私はかなり驚いたんですね。なかには「子連れ会議を禁止する」と宣言しているPTAもあって、「この時代にそんなことを言っていたら、PTAが社会から相手にされなくなるのは当たり前だろう」と腹の底から思いました。だからこの研究大会については「子ども連れOK」を明確に打ち出して、各PTAへのメッセージにしようと考えました。託児の利用は3名でしたけれど、やった意味は大きいと思っています。

――今回の研究大会への反響はいかがでしたか?

 「よくぞここまでやってくれた」「考えさせられる事業だった」など評価していただく声が多かった一方で、「任意性そのものにクローズアップすることの意義が不明確」といったような反応もわずかですがありました。また、市P連のOBのなかには、「これはどうなんだ」と思われた方もいたかもしれません。

市P連会長の大澤氏(写真:高崎市P連提供)
市P連会長の大澤氏(写真:高崎市P連提供)

――NHKニュースでは、参加者の女性が「今までPTAのなかでもタブーとされてたようなことを取り上げてくださって、すごくためになりました」と話していましたね。この発言にも共感しました。終わってみて、泉さんご自身の感想は?

 大会の最後の挨拶でお話ししたことが私にとっての全てです。こんな内容です。

 「今回の事業ですが、企画当初は周りの皆さんから、よくこう尋ねられました。『泉さん、この研究大会の落としどころって何ですか?』と。たぶんそのときは、私なりにもっともらしい言葉を返していたと思います。でも心の中では『落としどころなんて、そんなのあるわけない』、常にそう思っていました。(中略)

 この研究大会で私が目指したのは、決して『PTAをぶっ壊す!』とかそんなことではなく、PTAの理想と現実の狭間で、今まさに悩み、葛藤し、あるいは何かを変えたいと踏み出そうとしている人がいるならば、少しでもそれを支えてあげたい。その背中を、すっと押してあげたい。ただ、それだけでした。今回、それができたかどうかの判断は、皆さんのこれからの活動や取り組みの成果に委ねたいと思います」

――ありがとうございました、本当におつかれさまでした。

ここに写っていないたくさんの方々を含め、おつかれさまでした(写真:高崎市P連提供)
ここに写っていないたくさんの方々を含め、おつかれさまでした(写真:高崎市P連提供)
  • *1 今回の研究大会のタイトルは「時代は令和へ~ ◯◯から考えるこれからのPTA」。令和=「0の和」ということで◯を2つ並べ、読みは「まるまる」とし、それぞれ読む人に好きな言葉を入れてもらおうと考えたそう。また「◯◯」は無限大(∞)にも見えるので、「これまでPTAはネガティブに見られがちだったけれど、時代が変わった今、PTAをゼロベースから考え直すことで、プラスの方向にも転じられるし、その可能性は無限大になるのではないか」という思いも込めたとのこと
  • *2 保護者向けのアンケートはWebで行い、有効回答数は3989件(4010件中、対象外が21件)。PTA会長向けアンケートはデータ(Word)で行い、84校中79校回収。校長向けアンケートは紙で行い、同81校回収
ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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