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「PTA問題の構造はセクハラやDVと一緒」 “あるある漫画”を経験者が描き続ける理由

大塚玲子ライター
一見「ならずもの」に見えるかもしれませんが、じつは…?(2コマ目に続く)

 PTA経験者が「あるある!」と共感して、つい笑ってしまう2コマ漫画。フリー素材でおなじみ「いらすとや」さんのイラストを使ったPTA漫画を、ツイッターで見かけたことがある人も多いのでは。

 漫画を制作しているのは「2コマでPTAを叫ぶ母」(ツイッター名)、通称「2コマ」さん。小学生の子どもをもつ40代の女性です。漫画ではPTAの問題点を取り上げることが多いため、“反(アンチ)PTA”の人物と思われがちですが、作品はPTAの本質を捉えたものが多く、じつはPTAに深くかかわってきた人と察せられます。

 2コマさんがツイッターでPTA漫画を発表し始めたのは、約2年前(2017年)。以来、ほぼ毎日のように新しい作品をつくり続ける2コマさんに、なぜこのような漫画をつくり始めたのか、漫画を通して何を伝えたいのか、聞かせてもらいました。

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*昔のセクハラ同様「PTAはそういうもの」と思われている

――なぜPTAのことを漫画にするようになったんですか?

 目的は2つありました。ひとつは、保護者に「PTAが社会問題だ」ということに気付いてほしかったから。PTA問題って、みんなこれだけしんどい思いをしているのに、「やらなければいけないもの」「義務」だと思って我慢している人がほとんどですが、これってセクハラやDVと同じ構造だと思うんです。

 たとえばセクハラも、辛い思いをする人がたくさんいたにもかかわらず、みんな「そういうものだから」と思って受け入れてしまっていた。でも誰かが声をあげたのをきっかけに、メディアが社会問題として取り上げるようになり、法整備にまで至りました。今ではもう、紛れもない違法行為と認識されています。

 PTA問題も、保護者に加入意思すら確認しないまま勝手に会費を引き落としたり、「役員が決まるまで帰れません」と保護者を教室に閉じ込めたりしていますが、それは「詐欺」や「監禁」という違法行為であることに、そろそろ気付いてもらえたらなと。正しい運営をしてほしいんです。

 でもブログなどで問題を発信しても、あまり多くの人に読んでもらえないので、ぱっと見ただけで伝わる形を考えた結果、漫画しかないと思いました。

――#MeTooのように、「PTAも我慢しなくていいんだ」とようやく保護者たちが気付き始めたのかもしれませんね。漫画の制作を始めた、もう一つの目的は?

 PTA問題を政治家に届けたい、という気持ちもありました。以前「保育園落ちた日本死ね」というブログが国会議員の目に留まり、議会を動かしましたよね。あれと同じパタンを狙いました。

――PTAの内部事情もよく描かれていますが、運営側にいたことがあるんですか?

 はい、昨年度までPTAの本部役員をやっていました。

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――PTAの任意性を訴える“任意活動家”が、PTAのなかで厄介者扱いされる、といった作品も多いですね。私も似た経験があるので共感しますが、ご自身の経験ですか?

 ええ、やはり「面倒な存在」みたいな扱いを受けることはありました(苦笑)。うちの学校のPTAはいわゆる自動加入の状態ですが、本来PTAの加入は任意ですから、「入会届くらいは取ったらどうですか?」など提案したのですが、面倒な人扱いされてしまって。

――わかります。そんな扱いを受けるとPTAが嫌いになりそうですが、2コマさんはそうでもなさそうですね?

 そうですね、私はずっと「PTAはあったほうがいい」というスタンスです。任意の団体である以上「絶対になくてはならない」とは言えませんし、言いたくもありませんが、「あってほしい」という気持ちはかなり強い方だと思います。PTAをやるメリットとして、「友達ができる」「学校や子どもの様子がわかる」ということがよく言われており、私もこの2つは全くその通りだと思います。でも一番のメリットは実は別で、人々が共に助け合う「共助」という概念に触れられることだと思っています。

 ふつうに暮らしていると、家族や職場の人くらいしかかかわりませんが、PTAでは、そのどちらでもない人たちと共同して作業する、助け合う経験をできます。保護者世代は仕事や育児で忙しく、共助なんて言っている余裕はあまりないのですけれど。でも、公助(行政サービス)と自助(家族単位での助け合い)の間にある共助(市民同士の助け合い)は私たちの暮らしを豊かにしてくれるものと思うので、それを実現するため、たとえばPTA のような「箱」が必要だと考えています。

――わたしも、なんらかの保護者・近所の人のつながりは、ないよりあったほうがいいと思います。でもいまのPTAのやり方だと、辛い思いをする人が出やすく、強制をやめようと提案すると反対されたりして、難しいところがありますよね。

 変えることに反対する人たちも、別に意地悪なわけではないんですよね。漫画ではPTAの役員さんたちや学校、行政を“悪人”として描くことが多いですが、実はこの人たちも、本当は善意の人ばかり。そこが、PTA問題の厄介なところなんですが。

 PTAで一番問題なのは、実際には何百人という保護者がいるのに、発言権をもっている保護者が会長・副会長など数人の本部役員だけで、この上位数名の意見が「保護者の総意」にされてしまうことだと思うんです。要は、末端の一般会員の意見が、運営に届かないところ。

 たとえば、役員さんのなかには「PTAは学校のお手伝いをするものだ」と思っている人が多いですが、わたしはPTAは社会教育関係団体であり、保護者と教師が協力して、情報交換などをする場だと思っています。でも採用されるのは役員さんたちの声だけだから、PTA会員は皆、学校のお手伝いをすることになります。

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――「みんなが嫌がる役員を引き受けているのだから、PTAのことは自分たちの好きなように決めていいはずだ」と思いやすいのかもしれませんね。

 そうなると、一般の保護者の意見と、どんどんかけ離れてしまいます。それでわたしは、役員をやっていたとき、会員全体にアンケートをとって末端の保護者の声を拾おうとしたのですが、ほかの役員さんたちの反対もあり実現できませんでした。「アンケートをとること」=「今までのPTAを批判されること」と思われてしまうのですね。

 それで今は2コマ漫画で、末端の保護者の声を表現しています。

――初期の作品ですが、この2コマもいいですね。

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 はい。PTA問題は、役員ではない末端の保護者たち一人ひとりが「PTAに入会するか・しないか」「委員を引き受けるか・引き受けないか」といったことを考え、意見を表明するようになれば、おのずと解決していくと思うんです。今後は同調圧力に負けず非加入を選択する保護者も増えてくると思いますが、そのときにはできるだけ多くの保護者が「入会」「活動する」を選びたくなるよう改革が進んでほしいと切に願っています。

 いまの2 コマ漫画は「PTA でこんなに困っている」という問題提起がメインですが、問題意識が広く共有されたあとは「こんな風にPTA を変えた」という事例紹介にシフトできればと考えています。そんな願いを込めて、今後も2コマでPTA を叫び続けます。

――みんなが「PTAをやる・やらない」を本当に自分の意思で選べるようになる日が早く来るといいですね。私も願っています。

2コマさんのPTA漫画は、こちらから見られます→ツイッター名「2コマでPTAを叫ぶ母」@PTA_no_black

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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