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アルマーニの制服問題から考える 「保護者のなかで対立する意見」をどう扱う? PTAは役に立つのか

大塚玲子ライター
(写真:アフロ)

 先週、東京・銀座にある公立小学校で、校長がアルマーニのデザインの制服(標準服)を採用したことが明らかになり、「公立校なのに、こんなに高額な制服はふさわしくない」といった批判が相次ぎました。

 もう一点問題となったのは、「校長が独断で決めた」という点です。これまでの報道によると、校長は事前にPTA、あるいは保護者と話し合う場を設けることなく、単独の判断でこの制服を採用したようです。

 在籍&入学する全児童・全家庭に影響を及ぼす、しかも経済的な負担を大きく増すこのような判断を、校長がひとりで行える点に、驚いた人も多いでしょう。

 ここで我々が考えなければいけないのが、「では、どのように決めるべきだったのか?」ということではないでしょうか。こういった全児童・全家庭に大きくかかわる学校判断において、保護者の意見を反映させるには、どうすればよかったのか?

 難しいのは、保護者の意見も決してひとつではない、というところです。今回のアルマーニの制服についても、全保護者が反対だったわけではなく、歓迎した保護者もある程度いたのでしょう。この小学校は学区外から入学できる枠もあるので(特認校)、差別化をはかるため、特色ある制服を求める声もあったようです。

 一般的に、日本の学校では、こういった保護者の意見が分かれる事柄に関しては、もし何かしら問題が見られたとしても、できる限り「現状維持(放置)」するか、または「声の大きな人に従う」(声が大きいのは保護者が多いですが、今回の場合は珍しく校長本人でした)という、どちらかの対応が選ばれがちです。苦情を避けようとするので、そうならざるを得ないのです。

 制服の話に限らず、部活の練習時間の長さ(日数)、宿題の量、運動会の競技(組体操、鼓笛隊など)、校則等々、保護者の意見が割れる問題においては、みな同様の面があると感じます。

 しかし、これはやはり、健全な状況とはいえないでしょう。「大きな声を出した者勝ち」または「スルー」というのは、民主的な形とはいえません。

*PTAにできること・できないこと

 ここで「あったらいいな」と感じるのが、保護者の意見を集約して学校に伝える仕組み、あるいは場です。そういったものがあれば、学校側も保護者からの苦情をおそれて消極的な方法をとらなくて済みそうです。

 ではしかし、そういった仕組み、あるいは場を、誰が提供するべきなのか? この点について、筆者は以前から考えているのですが、まだ答えが出ていません。

 考えられるひとつは、やはりPTAでしょう。しかし、PTAがその役割を担ったとして、果たしてうまく機能するのか? 正直なところ、疑問があります。

 というのは、PTAは現状「学校が決めた方針を追認する(保護者も同意した、という体を与える)」役割を担っており(この機能も、ときによっては必要で大切だと思うのですが)、そのため逆に、学校あるいは校長と対立するような意見を「PTAの意見」として出すことは、事実上困難であるケースが多いと思うからです。

 これはちょうど、虐待をした親を子どもと分離する機能を担う児童相談所が、親子再統合の役割も担うのと似ているように思います。ひとつの機関に逆ベクトルの役割を担わせても、機能しづらいところがあるのではないでしょうか。

 実際、いじめによる児童生徒の自殺や、教師による体罰などといった問題が発覚した際に、PTAが学校や先生をかばい、事実の隠蔽を手助けするなど、被害を受けた児童生徒や保護者をより追い詰めてしまうケースは、これまでにも起きてきました。

 また「PTAの本部役員の人たちは、保護者の代表意見を学校に伝えているつもりでも、実際は役員さん個人の意見であり、一般会員の声は届いていない(少なくとも一般会員はそう感じている)」という傾向もあります。これも「声の大きな保護者の声が採用される」状況と、あまり変わらないところがあります。

 今回のアルマーニの制服について、「一部のPTAが反対した」という報道を見かけましたが、これはつまりPTAが反対意見を出したのではなく、「一部の保護者」が反対意見を出した、ということでしょう。

…一部のPTAと卒業生が導入に反対し、和田利次校長宛に文書を送ったという。

出典:スポーツ報知(livedoor NEWS)

 おそらくやはり、PTAは保護者のなかに多様な意見があるのを1つに集約することはできなかったでしょうし、またPTAという組織では、校長の意に反する意見を出せなかったからではないかと推測します。

*保護者の多様な考えを可視化する仕組み

 やはり、PTAが保護者の意見をひとつに集約して学校に伝えるということは、現実には難しいように思うのですが、ただし「保護者のなかにあるいろんな意見を可視化し、保護者同士と学校が共有する仕組み」を提供するくらいなら、PTAにも可能ではないでしょうか。

 「自分と異なる考えの保護者がいる」ということを、保護者同士が認識できるだけでも、状況はそれなりにだいぶ、改善されると思うのです。

 実際、役員以外の一般の保護者同士も、学校とともに意見交換できる場を設けている、というPTAの話も、少数ながら聞いています。

 ただし一点、もしPTAがそういった役割を担う際には、「非会員である保護者の声も排除しない」ことに注意が必要でしょう。PTAは任意加入の団体ですから、「加入しない保護者もいる」という前提で、仕組みを考える必要があります。

 非会員の保護者の声もPTAを通して、あるいはPTA以外から、学校に届けられるルートが確保される必要があります。

 PTAでなくても、いいでしょう。学校運営協議会や、おやじの会などがその機能を担うのもいいと思いますし、もし学校自身がそういった場を設けられるなら、それもいいと思います。

 そもそも学校は、保護者の苦情をおそれすぎて、保護者の意見を聞くまいとする、あるいは隠蔽しようとする傾向がありますが、だから余計にこじれやすい気がします。

 保護者間の対立する意見は、学校が間に入って覆い隠そうとするのではなく、保護者同士に解決させる方向を用意したほうがいいのではないでしょうか。

 PTAでも学校でも他団体でもなんでもいいのですが、どこかしら・誰かしらが、そういった場を提供できるといいのでは、ということは強く感じるところです。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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