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家族や子どもに関する“事情”を、学校や先生にどう伝えるといい?

大塚玲子ライター
子どもが学校生活で嫌な思いをしないか、大人たちは気にかかるものです(写真:アフロ)

 来年、子どもが小学校に入るにあたって、家庭や子どもに事情があることを学校にどう伝えるといいのか? すでに子どもが学校に通っている場合でも、学校とのコミュニケーションに悩む保護者は、少なくないでしょう。

 離婚・再婚して子どもの生活環境が変わった、子どもが里子や養子、継子で親と血縁関係がない、同性カップルで子育てをしている、施設で生活している、子どもに特徴や障害がある――等々、いわゆる「ふつう」とは違う環境や状況にある子どもたちは、じつはたくさんいます。

 何も伝えずにいると、子どもが学校生活で嫌な思いをしてしまうかもしれない。伝えるにしても、間違った形でウワサが広がったりしてしまうのも心配です。

 学校には、どんなとき、どんなルートで、事情を話せばよいのか? 入学後でもOK?

 16年間小学校の先生を続けてきて、さまざまな保護者から相談を受けてきた「しげ先生」こと鈴木茂義先生に、お話を聞かせてもらいました。

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  • 鈴木茂義(すずき・しげよし) 公立小学校非常勤講師。専門は小学校全科、特別支援教育、教育相談、教育カウンセリングなど。1978年茨城県取手市生まれ。文教大学教育学部卒業。14年間の正規小学校教諭として勤務を経て現職。教育研究会や教育センターでの講師経験も多い。児童生徒へ性と生の多様性を伝えるため、2016年に教員でゲイであることをカミングアウトした。学校に勤務しながら、LGBTや教育に関する講演活動を行っている。これまでの活動は<こちら>をご覧ください。hokutosei_charlie@hotmail.com

――そもそも、入学前に心配事があるとき、学校に相談していいんでしょうか?

 もちろんです。入学前から、どんどん学校に行くといいです。先生たちも、いろんな事情があるおうちがあることを知る機会がないので、伝えてもらったほうがいい。先生と保護者がいっしょに考えればいいんです。

 いわゆる「ふつう」の家族だって、何か心配事があるときは同様です。

――どのタイミングで伝えるのがいいんでしょう?

 就学時健診が行われる今の時期(入学前年の10~11月前後)もいいですし、クラス編成や担任決めが行われる前の1~2月でもいい。4月に家庭調査票を提出するときでもいいと思います。

 何でもそうですが、早めに情報を伝えたほうが対応はしてもらいやすいと思います。問題が起きてからだと、どうしても時間がかかってしまうことがあります。

――どういうルートで伝えるのがいいですか?

 直接話しても構いませんし、もし保育園や幼稚園の先生に事情を伝えてあるのであれば、そこから申し送りしてもらうのもいいと思います。学校は公的な機関なので、公的に渡された情報は受け止めやすいところがあります。

 いま、学校はいろんな外部機関と連携しているので、そういった外部機関からアプローチするのもいいかもしれません。教育相談センターとか、子育てセンターとか、地域のソーシャルワーカーとか、いろんなルートがあると思います。

――先生にもどうしても言いたくない、というときはどうすればいい?

 内容にもよりますが、「隠す」と決めて隠し通す、というのもアリだと思います。

 でも、子どもは悪気なく、ぽろっと言ってしまうことがありますよね。だから、そういった話はあらかじめ、「なんとなく匂わせておく」というのもいいかもしれません。

 具体的なことを言わず、「いろいろあるんです、察してください」とだけ言っておくとか。僕はこれを「ふんわりカミングアウト」と呼んでいます(笑)。

――子どもがいじめられないか、心配です。

 家庭の事情にかかわらず、いじめを不安に思っていない保護者はいないでしょう。先生たちも、いじめが起きないか心配じゃないときはありません。

 心配していても、意外と大丈夫ということも、たくさんあります。

 たとえば、僕はゲイなんですが、それを黙っていたときはなんとなく働きづらかった。公表したら攻撃されるかもしれないと思って、正規の職員を辞め、非常勤職員になってからカムアウトしたんですが、誰も攻撃してきたりはしませんでした。

――あまり公にしたくない話を、「担任の先生にだけ知ってもらう」って可能ですか?

 結論からいうと、それは難しいと思います。

 いま学校現場には、いろんな対応すべき問題があるので、「チーム学校」ということで、複数のメンバーで対応するようにしています。これには、個々の先生の判断で間違った対応をすることを防げる、というメリットもあります。

 僕もよく「しげ先生には言えるけれど、ほかの先生には言わないで」と保護者の方から相談されることがありますが、そういう話は大体、僕一人ではとても対応できないような、大きな問題が多いんですね。

 だから、そういうときは率直に「僕だけでは抱えきれないので、チームで対応したいです。ほかに、何先生なら言っていいですか?」と聞いて、仲間を増やします。「誰もいません」と言われたときは、「もう一晩、考えてもらえますか」とお願いすることも。

 保護者の方の不安もよくわかるので、そこは丁寧にお話しています。

――もし入学後、子どものことでトラブルがあったときは、すぐ先生に相談していいんですか? モンペ(モンスターペアレント)って思われない?

 「先生は忙しそうだから」「モンペと思われそう」と、相談するのを遠慮してしまう保護者の方は、意外と多いんですね。でも、早めに相談したほうがいいと思います。あとから聞いて、「それは、早く言ってよ」と思うことも少なくありません。

 学校に電話してもいいです。僕は担任をしていたとき、「子どもの忘れ物を取りに来た」という保護者の方から相談を受け、帰り際に「忘れ物は、じつはウソでした(本当は相談が目的だった)」と言われたこともあります。

 でも、そんなに気を遣わなくていいんですよ。

――先生にあらかじめ伝えておいたのに、ちゃんと対応してもらえなかった、という声を聞くこともあります。そういうときは、どうすればいいでしょう?

 先生も、ときには間違った対応をしてしまうことがあります。でもどうか、そこであきらめないで、先生にまたそのことを伝えてもらえたらと思います。

 子どもが傷ついて、親も傷ついて、「もう話したくない」と思ってしまうかもしれない。でも、一回のコミュニケーションで止まってしまうのが、一番もったいないです。伝えてもらえれば、先生も「あー、失敗した」と気付くことができます。

 先生たちももちろん、ちゃんと対応したいとは思っているので、言ってもらえたほうがいいです。僕自身も、保護者に指摘してもらって気付けたことは、たくさんあります。

 保護者も先生も、お互いに完ぺきではない。どちらも失敗したときは、ポジティブに共有して、前に進んでいける関係になれたら、すごくいいなと思っています。

***

 保護者にもいろいろ心配ごとがある一方で、先生たちも日々、さまざまな問題に向き合いながら過ごしています。

 筆者も「先生は忙しそう」と思い、話をしづらく感じることが多いのですが、そうやって勝手に距離をつくるのも、よくないことなのかもしれません。

 お互いを「先生」「保護者」と一括りに見るのではなく、それぞれ一対一の人間として、いい関係を築いていけるようになるといいんだろうな、と感じました。

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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