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「今までやってきた私ら損やんかズルイ!」入会届に反対する会員、校長に対する、あるPTA連合会の取組み

大塚玲子ライター
対応のポイントは「広い心」だそう(写真:アフロ)

「市内の小中高校PTAの、約4つに1つが加入届を配っている」と聞いたとき、つい耳を疑ってしまいました。

任意加入を口頭で説明するくらいなら、同程度の地域もあるかもしれませんが、「加入届配布率が25%」というのは、現状ではかなり高い割合でしょう。

入会届をとっている学校数

(奈良市PTA連合会調べ)

小学校 43校中11校 

中高校 21校中 5校

(※P連加入率は中高校が100%、小学校は98%)

このアンケートは、奈良市PTA連合会(*)が昨年(2016年)5月に行ったものです。筆者はこのアンケートの集計直後、同P連事務局の岡田由美子さんから、結果を教えてもらいました。(*以下「奈良市P連」と表記。「P連」=PTAの連合組織) 

なお、一般にP連の事務局は教育委員会が兼ねているケースや、元校長が就任しているケースが多いのですが(実働はナシ)、まれに奈良市P連のように、元PTA役員が勤務しているケースもあります。

奈良市P連の場合、事務局の給料は決して高くはなく、岡田さんもダブルワークで他のお仕事もしているそうです。

奈良市P連では、このアンケートをとった後も各校のPTA(以下、単位PTA=「単P」と呼ぶ)に加入届の整備を促し、いまではさらに配布率があがったとのこと。

なぜそのようなことが可能なのか? 岡田さんにお話を聞かせてもらいました。

  • ――入会届を配っているPTAが多くて、びっくりしました。奈良市では、どうしてそれができているんでしょう?

奈良市P連は、わたしたちの母親の代くらいからずっと「PTAは任意加入の団体だ」ということを言い続けてきました。1976年に、名称が協議会から連合会に変わった頃から行ってきた「部会」という学習活動のなかで、「入会届をとりましょう」という話をしてきたんです。

だから、その頃にできた学校のPTAは大体、入会届をとれています。とれていないのは、昔からある旧市街地や中南部の学校で、分布図にするとはっきりわかります。

  • ――そういう背景があるんですね。いまは、さらに入会届をとるPTAが増えているそうですが?

以前は「入会届をとれへんところは仕方ない」という方針でしたが、昨年度から「時代も変わってきているし、入会届をとる準備をしておいたほうがいいよ」という方針に切り替えたんです。

学習会では、入会届を配っているPTAの役員さんの話を聞いたり、入会届の例を配ったりして、P連の広報紙でも毎回必ずどこかで「任意」ということを伝えるようにしました。

1年間そんなふうに、いろいろと働きかけをしてきたところ、この春「入会届をとりました」というPTAがちらほら増えてきました。入会届はまだ整備できないものの「任意加入の団体なので、退会意思のある方は教頭先生のところまで退会届をとりにきてください」という手紙を配布したところもあります。

中学校のPTAでも熱心に話し合いをしているところが多いので、今年度はもっと、入会届をとる確率が上がるかなと思います。

奈良市では小中一貫教育を全市展開しているので、中学校区単位で各PTAが同時に話を進めれば、入会届をとりやすいんちがうか、という話もしています。中学校のPTAだけが先にやると、「小学校ではとってないのに、なんでやねん」という話になるので。実際にいま、中学校区単位で準備を進めているところもあります。

  • ――確実に前進していますね。他地域でも入会届はじわじわと増えてはいますが、一方で「提案したけれど、反対されて実現しない」という声も、まだまだよく聞きます。

奈良市でもそれはあります。「入会届をとります」というと、一般の会員さんから「いまさら、なんでそんなもん、とらなあかんねん」という声があがったりするんです。

いままで「ポイント制」や「1子1役」でやってきた人たちは、「入会届を配って、やめる人がいっぱい出てきたら、今までやってきた自分が損するやん」と言うんですね。「え?そこ?」と思うんですけれど(苦笑)。

役員さんたちのなかには、「やめる人がいっぱい出てきたら、どうするんや」みたいな意見もあるんですけれど、一般会員さん的には、そっちのほうが大きいのかもしれませんね。

  • ――現状は「PTA活動=義務」であることが多いので、「やっただけ損」という発想になるんですね……。学校側は、どうですか?

校長先生も「やめる人がたくさん出てくると困る」というので、慎重姿勢の方が多いです。

役員さんが時間をかけて取り組んできて、「さあ、入会届をとりましょう」というところで、校長先生から「ちょっと様子を見たほうがいいんじゃないか」とストップがかかることもあります。そうすると、次年度は会長さんが変わったりして、また1から話を始めることになってしまうんですね。

それが本当にかわいそうなので、先日は会長と私で、奈良市の校長会に行って、後押しをお願いしてきました。市内の小中高の校長先生がずらーっと並んでいる前で、個人情報保護法改正のこともお伝えして。その後、ちゃんと個人情報保護法についてのお手紙を出してくださった先生もいらしたので、無駄ではなかったかなと思うんですけれど。

  • ――自治体にもよりますが、校長先生たちはよく「学校運営にPTA予算がないと困る」とおっしゃいますね。

奈良市では、PTAの役員さんたちも「公教育は公費で」とお金の使い方も学習していて、PTAが学校運営にお金を出すことはほぼありません。校長先生方が心配されているのは、先生の人数も減り、地域やPTAの協力なしでは学校運営が難しい、というマンパワーが減る部分なんです。

奈良市P連事務局・岡田由美子さん
奈良市P連事務局・岡田由美子さん
  • ――加入届をとる必要性を理解しながらも、何もしないP連や単Pが多いですが、奈良市P連では、なぜ積極的に整備を促すんでしょうか?

数年前から、単Pの役員さんたちから「退会したいという会員さんや、任意の団体じゃないのか?っていう会員さんが出てきたけれど、どうしよう」という相談が、どんどん出てきているんです。入会届を配っていないPTAは、そういうときに右往左往してしまう。

とくに今年はPTA退会に関するニュースが多いので、よく相談の電話がきて、わたしも一日中電話にかかりっきりのときもあります。もう入会届に手をつけてないとどうしようもないやろ、という待ったなしの状況です。

  • ――奈良市P連のような単PサポートをできていないP連では、現場の状況が見えず、危機感が薄いのかもしれないですね。退会者が出たとき、加入届がないPTAの役員さんたちは、どんな対応をされるんでしょう?

みんな、退会する人に恨めしさのようなものを感じて「(PTAを辞めたら)これもできませんよ、あれもできませんよ!」と言いたくなってしまうんです。だから事務局にも「(退会者が)できないことは何があるんですか!?」と聞いてきはります(苦笑)。

わたしは「できないことは、ほとんどないねん」って答えます。「子どもさんにとっては、全くないねん」と。

広い心で「いままで入会していただいて、ありがとうございます。退会されても、あなたの子どもさんは、何一つ差別を受けません。わたしたちが一生懸命、あなたの子どもさんをサポートします」という気持ちで手紙を書いて、と言っているんですけれど、なかなかそれは伝わらなくて。でも本来は、そういうもんじゃないですか?

  • ――同意しすぎて、涙出そうです。

PTAから子どもたちに配るものも、「PTAって、ほんとは子ども全員が支援の対象だから、退会者のお子さんにも全部渡さんなあかんねんで」ってお話をしているんですけれど。実際は会員感情を考えて、非会員家庭からも実費をいただいているPTAが多いです。

だったらせめて、実費をいただくのは一番お金がかかる卒業証書ホルダーだけにしようとか、個々に配るものを減らしていこうとか、その分のお金は(PTA会費ではなく)学校徴収金として保護者全員から集めてもらおうとか、いま各PTAや学校でいろんな形を検討してもらっているんですけれど。

  • ――PTAが行うのは、会員家庭限定サービスではなく、学校に通う子どもたち全員のための活動だ、ということが伝わらないんですね……。どうしたらいいんでしょう?

「そもそも、何のためにやってんねん」というところに立ち戻って、考えてほしいですね。本来はPTAって「子どもたちをサポートしながら親が成長していく場」だとわたしは思っているんですけれど、でもみんなは「平等に負担をして、活動をする場」みたいに思っているから、こんな話になってしまう。

だから、いったん「学級活動だけに戻したらいい」と思うんです。役員と学級委員だけ選んで。PTAの原点って、やっぱり学級活動だとわたしは思うので。

学級のなかで、子どもの悩みが話せたり、経験者の親御さんの話が聞けたり、そこにプロの教育者である先生のお話が加わったりっていうのが、たぶん子育てのなかでは、一番役立つことやと思うので。そこまでいったん戻って、それからやり直したらいいんと違うかな、と。

乱暴な話ですけれど、個人的には、PTAはいったんなくしてから立ち上げたほうが早いんちがうかな、というのも思うんですよ(笑)。長年積み重ねてきたものを変えるのはとても大変なので。やめたらやめたで、また何かが立ち上がるのかな、なんて思いますが、それはそれで混乱するでしょうね。丁寧に、学習会で言い続けていきます(笑)

  • ――いったんまっさらにしたい、というの、わたしもよくわかります……。

わたしがいま、P連事務局でこういう仕事をしているのは、自分がPTAをやってきて、得たものが多かったからだと思うんですね。だから本当は、いまPTAをやっている方たちにも、それを感じていただきたいんですけれど。

でもPTAで得るものって、目に見えないものだから、みなさん、なかなか評価ができない。だから「何かがもらえなかったら、損やんか」とか「お金出してんのに、参加できひんかったら損やんか」みたいな話になってしまう。でも本来は、そうじゃない。

いまは学級活動がなくなり、会員さんたちの交流がないところで、強制的に仕事をまわしているから、ややこしくなるんやと思うんです。本来の学級活動に戻れば、いらないものも見えてくるんちがうかな、と思います。

  • ――いったん、最初から自由に作り直せたらいいんですけれどね。

1から始めるの、すごくいいですよ。

いま奈良市では、幼稚園と保育園が再編して「こども園」になっているんですけれど、そのときに保育園の保護者会が、幼稚園のPTAといっしょになるんですね。

そうすると保育園の保護者の方は、PTAになることにすごく抵抗を感じるんです。いまPTAって「すごくイヤなもの、めんどくさいもの」というイメージがあるので。でも保護者会もPTAも、実際のところはそんなに違わないんです。

だから「どうせ1からPTAを作るんだったら、学級活動だけにしておいたらいい」とお伝えしています。そこからもし新たに生まれてくる活動があれば、それはそれでいいから、最初は学級活動だけにしたらいいって。

そうすると、すーごく、すっきりしますよ。小中学校のPTAも、「全部1からつくりましょう」って言えたら、すっきりするんですけれど(笑)。

  • ――それ、できたらいいですね。ほか、全国のPTA関係者に何か伝えたいことはありますか?

はい、最後にひとつお願いがあるんです。いまネットの情報だけを見て、学校に入学する前からPTAをすごく敵視する方が増えているんですよ。

  • ――ああ。最初から喧嘩腰で、PTAの役員さんに食ってかかる、みたいなこともあるみたいですね……。

ネットはどうしても、PTAで嫌な思いをした方たちの声が多いので、そういう情報を拾えばそうなるのでしょうけれど、でもなかにはちゃんと一生懸命やっているPTAも、たくさんあるんですよ。奈良市の単Pの役員さんたちは、会員さんの負担が減るように形を変えていこうと、みなさん本当に泣いたりしながら、一生懸命やってはって。

そういう役員さんたちは、「悔しい」って言ってます。そういう声があることも、とりあげていただきたくて。

  • ――そうですよね。なかにはひどいPTAもありますけれど、一方で、ちゃんとした運営にしようと、真剣にがんばっている役員さんもたくさんいます。だからもしPTAに不満があるなら、最初からケンカ腰ではなく、ふつうに言ってほしいですね。万一「お子さんがいじめられますよ」などと脅されたりしたら、話は別ですが。その点は、筆者からもぜひ、みなさんにお伝えしておきたいところです。

(了)

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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