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誤解が多いPTA活動中の保険「非会員の子どもは対象外」「P連を抜けると契約不可」は本当か?

大塚玲子ライター
結論からいうと、どちらも誤解です。(写真:アフロ)

先日の記事では、卒業祝い品の費用について、学校とPTAのなかでややこしい分担が行われていることを指摘しましたが、PTAのなかにはこのほかにも、みんなに知られていないややこしい問題が、いろいろとあります。

そのうちのひとつが、PTA活動中の保険(共済)です。PTAが主催する行事や活動中の事故に適用されるもので、たいがい“傷害保険”と“賠償責任保険”を含みます。おそらくPTA役員をやった人でもなければ、知らない人がほとんどでしょう。

都道府県や政令市のP連(PTA連絡協議会の略 *1)が主体となって、こういった保険事業を行う(「安全互助会」「安全会」など別の団体をつくって行う)ことが多く、各校のPTA(以下「単P」と表記 *2)はそれに加入しているのですが、なかには市区町村のP連が同様の事業を行っているケースや、単Pで独自に保険会社と契約を結んでいるケースもあります。

ちなみに学校では、P連と保険会社の連名で保険の案内(「24時間総合保障」などと書かれた大きな封書)が配られることがありますが、これは全く別モノです。こちらは(なぜか)P連が扱っている一般の保険商品のようなもので、PTA活動とは無関係です。

(※このタイプの保険と、PTA活動中の保険を合体させている安全互助会もいくつかあるようですが、当記事では以下、このタイプのものは除外して、説明を進めます)

さらに、学校が加入するスポーツ振興センターの保険も、これとは別モノです。こちらは子どもたちが対象で、学校の管理下(授業中や登下校中など)で怪我をした場合等に支払われるものですから、保護者や、PTA管理下の活動は対象となりません。

いろいろとややこしいのですが、話を戻しましょう。

それで、このPTA向けの保険についても、「PTAに入らない人が出てきたら、PTAの主催イベントに参加する子どもに、この保険が適用されないのは問題では」とか「非加入家庭の分まで、加入している家庭が負担することになってズルイ」といった声があがる場合があるのですが、これはどう考えたらよいのでしょうか?

役員や会長を複数回経験し、PTAやP連の構造的な問題に詳しい、井上哲也さん(滋賀県在住・メーカー勤務)にお話を聞かせてもらいました。

*在校する児童・生徒はみんな対象

「まず、保護者がPTAに入らないと子どもに保険が適用されない、というのは誤解です。

たとえば、滋賀県PTA安全会の規約には“被保険者”として“その学校・園に通学する児童・生徒”が含まれていますから、PTA非加入家庭の子どもにも保険は適用されます。情報公開しない安全会が多いから、そういう誤解が生じるのではないでしょうか」

さっそく筆者もいくつかの安全互助会・安全会のホームページを確認したところ、たしかにそのように書かれています(はっきり書いていないところもありますが)。

また、単Pが直接契約できるPTA向け保険のパンフレットも取り寄せてみましたが、これにも同様の記載がありました。

「非加入家庭の子どもだけでなく、保護者についても、適用は可能でしょう。たとえば滋賀県PTA安全会では、“PTA行事への参加が事前にPTAに認められている方”も被保険者となることができますから、非会員でもこの条件を満たせばいいはずです。

PTAが主催するイベントに、非加入家庭の保護者が参加することはあまりないかもしれませんが、もし本人から希望があった場合は、適用の対象とできるでしょう」

それでは「非加入家庭にも適用される保険の費用を、加入している家庭が負担するのはズルイ」という声については、どう考えればよいのでしょうか?

井上さんはこのように話します。

「そもそもこういった保険は、被保険者のためのものというより、イベント等の主催者側(PTA役員)の事故時の補償や、賠償リスクを回避・軽減する側面が強く、ですから“入っていない人がズルイ”ということ自体が、筋違いなのです」

なるほど、PTAに入らない人に対し、PTA組織のための保険のことで文句を言うのは意味がない、ということでしょう。

*P連を通さず保険会社と直接契約も可能

井上さんは、PTA活動中の保険には、もっと関心を向けるべき問題点があると言います。

「よく、単PがP連を抜けようとしたときに、“PTA活動中の保険に入れなくなるよ!”という脅し文句が使われるのですが、これも事実ではありません。

P連を介さず、単Pが直接、保険会社と同様の保険契約を結ぶことも可能です。

僕も一度問い合わせたことがありますが、同じ補償内容で、掛け金(保険料)はほとんど変わりませんでした(滋賀県PTA安全会の場合、約65円)。

さらに言うと、安全会等は自分たちがとる手数料を保険料に上乗せして集めています。金額はまちまちなのですが、この手数料が高い場合には、直接保険会社と契約したほうが、安くなるケースが多いでしょう」

筆者も保険会社から取り寄せた資料で確認したところ、300-400世帯規模のPTAであれば、P連を通して契約する保険と同様のもの(*3)を、1世帯あたり60-80円程度の掛け金で契約できることがわかりました。

ただし、あまり小規模のPTAだと、掛け金が高くなるケースもありそうです。確認したいときは、保険会社に問い合わせてみるといいでしょう。

なお、筆者がいま、HPで情報を公開している安全互助会・安全会をざっと調べてみたところ、「1児童または1世帯100円」くらいの会費が比較的多く、一番安いところで「1世帯70円」でした(奈良市PTA安全会)。

一方で、高いところは「1世帯または1児童当たり250円」といったものもありました。死亡給付金は高めでしたが、それにしても、手数料も大きそうです。

*知られていないため、怪我をしても申請する人が少ない

さらに井上さんは、こういったPTA向けの保険が単Pの個々の会員に知られていないことも、大きな問題だといいます。

「PTA向けの保険は、PTA予算のなかで“P連の会費(分担金)”に含まれていることが多く、存在自体がほとんど知られていません。そのため、請求する人が少ないのです。たとえば、PTA活動の帰り道に自転車で転んで怪我をした、といったときにも給付されるのですが、知らずに申請しない人が多いでしょう。

P連はしっかり情報を出して周知すべきです。でないと、せっかくの保険が、必要なときに活かされません」

たしかに筆者も、こういった保険があることなどPTAの取材を始めるまでは全く知りませんでした。なお存在を知ってからも、仕組みが複雑そうで、遠巻きにしていたというのが正直なところです(今回ようやく宿題に着手)。

PTAの一般会員や、新しく役員になる人たちのためにも、安全互助会や安全会は、ホームページなどを通して、情報をオープンにする責任があるでしょう。

以上、今回は書ききれなかった問題点もまだいろいろあるのですが、それらについてはまた改めて、追いかけていきたいと思います。

(*1 P連…PTA連絡協議会などPTAのネットワーク。市区町村P連、都道府県P連、全国組織の日Pなどがある)

(*2 単P…P連を構成する、一つひとつのPTA)

(*3 賠償責任保険の支払い限度額→対人1名3千万、1事故1億、対物1事故500万、等、傷害保険の保険金額→死亡保険金100万、後遺障害保険金4~100万円等)

ライター

主なテーマは「保護者と学校の関係(PTA等)」と「いろんな形の家族」。著書は『さよなら、理不尽PTA!』『ルポ 定形外家族』『PTAをけっこうラクにたのしくする本』『オトナ婚です、わたしたち』ほか。共著は『子どもの人権をまもるために』など。ひとり親。定形外かぞく(家族のダイバーシティ)代表。ohj@ニフティドットコム

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