近年増える大型音楽特番、他局にはない『テレ東音楽祭』の魅力

番組ロゴ(公式HPからのスクリーンショット)

 本日6月26日放送の『テレ東音楽祭2019』で嵐がテレビ東京に初出演することが話題になっている。また同番組で女優の広末涼子が生放送の音楽番組で初のMCを務めるのも同様に話題だ。

 この番組は、5時間に及ぶ生放送。近年、音楽番組にこれと同様の長時間特番が増えたという印象を持っている方もいらっしゃるのではないだろうか。そしてそのなかで『テレ東音楽祭』は、テレビ東京ならではのユニークな存在感を発揮している。以下では、今日の番組を楽しんでもらうためにも、具体的にどのあたりがユニークなのかをテレビ東京の歴史とも絡めながら探ってみたい。

音楽番組は大型特番化している

 テレビ全体が転換期を迎えるなかで、昨今は音楽番組も試行錯誤が続いている。今年で70回目の節目を迎える『NHK紅白歌合戦』の視聴率も近年は40%前後。いまのテレビとしては十分すぎるくらいだが、それでも80%台を記録することもあった昭和の全盛期(ちなみに番組史上最高視聴率は1963年の81.4%(ビデオリサーチ調べ。関東地区))から見れば大きく下がっている。

 民放キー局でもその状況は基本的に変わらない。現在、プライムタイムのレギュラー音楽番組はテレビ朝日系『ミュージックステーション』くらい。これも各局に『ザ・ベストテン』や『夜のヒットスタジオ』など看板音楽番組がひしめいていた昭和からは様変わりした。

 そのなかで新たな傾向として目立つのが、音楽番組の大型特番化だ。老舗的なものとしてはフジテレビ『FNS歌謡祭』があるが、これは昭和期に全盛だった音楽賞番組が1991年に衣替えしたものである。

 そして2010年代になると、TBSテレビ系『音楽の日』(2011年から)、フジテレビ系『FNSうたの夏まつり』(2012年から)、日本テレビ系『THE MUSIC DAY』(2013年から)、テレビ朝日系『ミュージックステーションウルトラFES』(2015年から)と、夏の大型音楽特番が続々と始まった。そのなかには10時間以上に及ぶ生放送のケースもある。

 その背景には、先述した音楽番組の苦戦傾向があるだろう。大型音楽特番は、レギュラーではなくスペシャル、しかも長時間の生放送であることで自然に非日常的なお祭り感が醸し出される。そこにまず視聴者の耳目を引きつけたい、ということだろう。

 さらにお祭り感は、放送時間の長さだけでなく大型音楽特番ではおなじみとなっている多彩なコラボ企画やメドレー企画などによっても高められる。あるアーティストが自分の代表曲を他のアーティストとその日限りのコラボをしたり、豪華なアーティストたちによって次々とヒット曲が歌い継がれたりする様子は、いやが上にもお祭り感を増幅させる。

『テレ東音楽祭』は初回からテレ東らしさ全開だった

 さて、そうしたなか『テレ東音楽祭』は夏の大型音楽特番のひとつとして2014年に始まった。

 この年は2部構成。第1部が演歌・歌謡曲系で、第2部がJ-POP・アイドル系の歌手の出演と分かれていたが、とりわけ国分太一がMCを務めた第2部がネットなどを中心にかなりの話題になった。

 まずタイトルから「慣れない生放送 ドタバタですいませんSP」と、他局なら絶対なさそうなネーミング。テレビ東京らしい自虐テイストである。視聴者から見れば、そもそもあのテレ東が大型音楽特番をやって大丈夫なのか? というちょっとした心配があったに違いない。しかしふたを開けてみると、その心配を逆手にとったかのような大胆で遊び心に満ちた企画・演出で、『テレ東音楽祭』は斬新でユニークな大型音楽特番という印象を視聴者に残すことになった。

 たとえば、同局の『ローカル路線バス乗り継ぎの旅』でおなじみの蛭子能収がわざわざ貸し切った都バスに乗ってその名も「恵比寿横丁」に向かったかと思えば、関ジャニ∞がテレビ東京の社内を移動しながら歌った際には社員も大挙出演、最後は社長まで登場し振り付けに合わせて踊った。いずれもいかにもテレビ東京らしい魅力的な「ユルさ」を感じさせる場面である。

 またMCが堂々と「事前収録」であることを“バラした”のも同じくテレビ東京らしい「ユルさ」だった。

 出演歌手のスケジュールの都合で事前に歌を収録したVTRが流れることも、こうした大型音楽特番では珍しくない。そんなとき他局だと生放送であることを強調したいあまり、なんの断りもなく進行することがある。いわば体裁を繕うわけである。

 ところが『テレ東音楽祭』は違った。国分が「すばらしい事前収録でしたね」と包み隠さず言うと、もうひとりのMCだったテレ東アナ(当時)・大橋未歩がわざわざテープを見せてもう一本収録があることをにこやかに予告したのである。この場面もまた、大型音楽特番の“タブー”破りとして視聴者は盛り上がった。

 それだけが理由ではないだろうが、こうした反響の多さもあって、翌2015年の第2回からは第2部の放送時間が拡大されるとともに独立するかたちとなり、現在の『テレ東音楽祭』の基本フォーマットが定まっていく。

『テレ東音楽祭』のユニークさのルーツ

 こうした『テレ東音楽祭』のユニークさは、テレビ東京というテレビ局の歴史に根差したものでもある。

 テレビ東京(局名としては1981年10月から。それ以前は「東京12チャンネル」だが、ここでは便宜上「テレビ東京」で統一する)は、1964年開局。今年は開局55周年に当たる。現在の在京民放キー局のなかでは、最後発である。

 しかも民間企業ではなく財団法人が経営主体、かつ教育専門局としてスタートしたこともあり、視聴率は振るわず開局後まもなくテレビ東京は深刻な経営不振に陥った。その後紆余曲折を経て日本経済新聞が経営参加して再建が進んでいくのだが、そうした経緯もあってネットワーク構築が進み始めたのも1980年代になってからだった。

 そのなかでテレビ東京が活路を見出そうとしたジャンルのひとつが音楽番組だった。

 たとえば、『題名のない音楽会』は、実は元々はテレビ東京の番組だった。それが先述の経営不振で存続が難しくなり、テレビ朝日(当時はNET)に移ったのである。クラシック音楽とポピュラー音楽をコラボさせるという番組コンセプトは、いま思えばアイデア勝負をモットーとするテレビ東京らしさそのものである。

 またテレビ東京は、演歌をフィーチャーした番組にも早くから力を入れた。いまや『紅白』と並んで年末恒例となった歌番組『年忘れにっぽんの歌』の原点は、1960年代にさかのぼる。また1970年代に始まり、毎回曲の世界観を表現する手の込んだセットを作るなどきめの細かい演出で根強い支持を受けた長寿番組『演歌の花道』もあった。これらの番組で培ったノウハウは、『テレ東音楽祭』でもクオリティの高いセットや照明、カメラワークに生きている。

 演歌とは対極にあるアイドルの歌番組もテレビ東京が得意としてきたところだ。

 その代表が1970年代に始まった『ヤンヤン歌うスタジオ』で、山口百恵やピンク・レディー、松田聖子のような女性アイドル、たのきんトリオのようなジャニーズ勢など多くのアイドルが毎週出演した。アイドルしか出ない番組は当時まだ珍しく、歌の合間の楽屋トークでアイドルの素の部分を見せる演出も時代を先取りしていた。また1990年代にはオーディション番組『ASAYAN』からモーニング娘。が誕生し、国民的アイドルになった。

 したがって『テレ東音楽祭』のアイドル企画は付け焼刃なものではない。今回おそらく流れる嵐のJr.時代の映像のように懐かし映像が豊富なだけでなく、企画やキャスティングのセンスにもアイドルファンのツボを心得たものがある。2016年には、現在はタレントの薬丸裕英がジャニーズの後輩であるMCの国分、そしてV6の井ノ原快彦とともに28年ぶりの『100%…SOかもね!』を披露した一夜限りの“シブがき隊復活”が話題を呼んだ。さらに今回は、モーニング娘。の元メンバーである加護亜依と辻希美のユニット・W(ダブルユー)が13年ぶりにテレビ出演する。これもまたアイドルファンの琴線に触れるものだろう。

これからの大型音楽特番に求められるもの

 いまこうして民放各局に大型音楽特番が横並びになった状況になってくると、次はどのようにして他の番組との違いを出すかという段階になるに違いない。

 たとえば、テレビにめったに出ないビッグアーティストの出演やプロジェクションマッピングのような最先端のテクノロジーを使った演出など、よりお金のかかった豪華さを追求する道もある。だがそれには自ずと限界があるし、結局似たり寄ったりなものになってしまうリスクは少なからずある。

 とすれば、もう一方で、テレビ局の個性を生かした企画・演出がこれからの大型音楽特番にとっていっそう重要になってくるはずだ。テレビ東京がアイデア勝負を個性にしたのは、先述したように開局時からの経営面の苦境によってそうせざるを得なかったという面が少なからずあった。しかしいまではその個性が逆にプラスに転じて、『テレ東音楽祭』を後発組でありながらキラリと光る大型音楽特番にしていると言えるのではなかろうか。今年もまたどんなアイデアで楽しませてくれるのか、期待したい。