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「有料老人ホーム」なのに「介護施設」じゃない? 80代母親はわずか1年で退去!?

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
その老人ホームではどんな介護をしてくれる?(写真:イメージマート)

 年老いた親の介護の必要度合いが増し、「有料老人ホームへ入居してもらおう」と考えることがあります。有料老人ホームといえば、24時間体制で介護をしてくれるところだと思っていませんか。けれども、「介護付き」の有料老人ホームは、全体のうち、たった3割程なのです。

まさかの退去勧告

 ミチルさん(50代)の母親(80代)はゆっくりとしか歩けず、初期の認知症があり、介護保険の認定は「要介護1」でした。「1人暮らしは難しい」状態となり、地元の有料老人ホームに入居しました。

 入居後、母親は環境の変化が影響したのか認知症が進みました。頻繁に居室の呼び出しボタンを押したり、夜間を含めて大声を出してスタッフを呼んでしまったり……。ミチルさんは何度もホームに出かけ、母親を諭し、医師にも相談しましたが、うまくいきません。

 とうとう、入居1年を迎えるころ、「うちのホームで暮らしていただくことは難しい。『介護付き』の施設に移ることを考えてください」と“退去勧告”されてしまったのです。

「介護付きではない」とは?

 ミチルさんは、ホーム側の言うことを理解できないでいました。

「ここは有料老人ホームでしょ。介護施設よね」と……。

 実は、有料老人ホームは、大きく分けて「介護付き」と「住宅型」があります。ミチルさんの母親の入居しているホームは、後者の「住宅型」なのでしょう。「介護付き」は、都道府県知事から「特定施設入居者生活介護」(以下、「特定施設」)の指定を受けた施設です。ホームのスタッフから24時間体制で介護を受けることができます。

 つまり、「特定施設」の指定を受けていない有料老人ホームは「住宅型」なのです。

 2006年に国が導入した「総量規制」の影響で、「特定施設」の新規開設は制限されるようになりました。その結果、有料老人ホーム全体の7割程が「特定施設」の指定を受けていません(2020年厚生労働省資料)。

「特定施設の指定を受けていないホームは、広告、パンフレットなどにおいて『介護付き』『ケア付き』などの表示を行ってはいけません」(厚生労働省)、となっています。ですから、ミチルさんの母親が入居するホームでも、「介護付き」とは表記されていないはずです。しかし、一般の方からみれば、有料老人ホーム=介護施設と捉えるのは無理もないことです。

「特定施設入居者生活介護」(特定施設)とは

・厚生労働省が定めた基準を満たしている。

・食事や入浴など日常生活上の介護や機能訓練を定額制で提供する。

・指定を受けた施設のみが、「介護付き」「ケア付き」と名乗れる。

・有料老人ホームのほか、数は多くないが、「特定施設」のサービス付き高齢者向け住宅・ケアハウスなどもある。

「住宅型」は介護施設ではない

「住宅型」では、介護が必要になれば別途契約し、外部のサービスを利用することになります。

 一般の方が、「介護付き」「住宅型」の違いを理解することが難しい理由は、多くの住宅型が併設の介護事業所(多くはグループ会社)の介護サービスを提供していることにあります。見学に行った際にも、併設の介護事業所のスタッフが介護についての説明を行う場合があります。事前の知識がなければ、「介護は付いている」と勘違いするのは無理もありません。

 しかし、「住宅型有料老人ホーム」には、法令上の人員基準規定もなければ、設備基準もありません。手厚い介護を行う体制はないといえます。「介護施設」ではないのです。

 結果、要介護度が重くなると、住み続けることが難しくなったり、サービスを大量に利用することになり、「介護付き」よりも料金が高くなったりすることもあります。

*太田差惠子作成
*太田差惠子作成

24時間体制の介護を希望するなら

 何も「住宅型」が悪いと言っているのではありません。要介護度が低いうちは、必要なサービスだけを契約して利用することは、経済的にもメリットだといえます。

 しかし、24時間体制で切れ間なく介護をしてもらいたいなら、要注意です。「誰が」介護をしてくれるのか、「その費用」は利用料に含まれるのか、別途かかるのか、そして「介護の必要度合いが進むとどうなるのか」を事前に確認しておくことが欠かせません。

 付け加えると、住宅型の有料老人ホームでも、看護師が配置されていたり、多くの介護スタッフがいたり、特定施設と変わらないケアを行うところもあります。

 一方で、特定施設でも、「外部サービス利用型」というのがあり、こちらには看護師の配置義務はありません。

 つまり、「有料老人ホーム」とひとくくりにするのではなく、個別に、そのホームで行うケア内容を知ることが重要なのです。

「特定施設」の指定があるかどうか、「介護の具体的な内容」については、各ホームの「重要事項説明書」に記載されているので、早めに入手してしっかり読みましょう。そのうえで、疑問点があれば、見学に行った際などに尋ねましょう。

「重要事項説明書」の詳しい内容については、下記の記事を参考にしてください。

老人ホームに入居した母が「家に帰りたい」と泣く 事前に「重要事項説明書」を読めば良かったと大後悔(2022,12,18,yahooニュース,太田差惠子)

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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