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高齢者施設に入居後“退去勧告” 「終の棲家」と考えるのは甘いのか 契約前に心づもりを!

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:イメージマート)

 高齢者施設といえば、最期まで手厚い介護を行ってくれるところだと思っていませんか。

 もちろん看取りまで、のケースもあります。が、一方で「出て行ってください」と退去勧告されるケースもあります。

「出て行ってください」問題を想定しておく

 親に介護が必要になると、施設介護を検討するケースは多いと思います。費用など、何かとハードルは高いものの、「家族で介護することは難しい」という結論に至ると、子にとって(親本人にとっても)救世主。ところが、肝心な段階になって「出て行ってください」と言われ慌てることがあります。

Aさんのケース:1人暮らしの父親が施設に入居。1年少々で退去勧告……

 Aさんの父親は1人暮らしをしていました。病気で入院。退院後は、1人暮らしは困難と思われました。実家から比較的近いところにある高齢者施設に空きがあったので、病院から直行(自宅へは帰らず)の形で、入居。

 ところが、入居1年少々で、施設から「うちでは看られないので、ほかを探してください」と連絡が来ました。

 入居した際、軽度の認知症はありましたが、1年で進行。他の入居者の居室に入ったり、大声を出したりすることが退去勧告の理由でした。

Bさんのケース:入居中の母親が胃ろうを造設したところ、退去勧告

 Bさんの母親は高齢者施設で暮らしていました。誤嚥性肺炎を繰り返すようになり、入院となった病院の医師の勧めで胃ろうを造設。お腹に穴をあけて胃に管を通し、直接栄養を流し入れる医療的措置です。

「もちろん、退院後はもとの施設に戻れる」と思っていたとBさん。しかし、施設から、「うちでは対応ができない」と言われてしまいました。

契約書・重要事項説明書を読もう

 AさんとBさんのケース、「まれなことだろう」と思っている人もいるかもしれません。けれども、「出て行ってください」問題は、決して他人事ではありません。

「退去するかどうか決めるのは入居者でしょ」と考えがちです。もちろん本人から退去を申し出る権利はありますが、通常、施設側からも勧告できる契約となっています。

 契約書及び重要事項説明書には、「契約解除の内容(退去要件)」の項目が設けられています。「入居者からの申し出」と並んで「事業者からの申し出」の欄もあるので、見落とさないようにしましょう。

写真:イメージマート

退去勧告の主な3つの理由

「事業者からの申し出」には、どのような内容があるのでしょうか。詳細は施設ごとに異なりますが、大きく分けて次の3点です。

1,月々の利用料を一定期間以上滞納した場合

2,入居者・身元引受人などに反社会勢力の該当が判明した場合

3,施設の職員体制では対応できない看護や介護が必要になった場合

 この他、費用が安く人気のある特別養護老人ホーム(特養)などでは、長期入院すると退去となるケースがあります。一般的には3か月ですが、「1か月で肩たたきされてしまった」という人もいました(特養には入居を希望する待機者が多いためです)。いずれの施設も、「明日、出て行け」と言われるわけではなく、多くは90日程度の予告期間を設けています。

施設は病院ではない

 1~3のうち、もっとも注意が必要なのは3です。ここには、幅広い内容が含まれます。

 AさんとBさんの退去勧告の理由も3に該当します。Aさんの父親は認知症が進んだことにより、共同生活に支障が生じ、施設の職員体制では対応不可となったといえます。

 Bさんの母親の場合も、胃ろうの造設により、施設の職員体制ではケアが難しくなったということでしょう。胃ろうの処置に関しては、医師や看護師のほか、専門研修を修了した介護スタッフでも行えることになっており、ひと昔前に比べると対応可の施設は増えています。

 とはいえ、施設は病院ではありません。高齢者施設には看護師が常駐していると思い込んでいる人もいますが、看護職員の配置体制は色々です。配置義務のない施設もありますし、配置している施設でも、夜間も含めた24時間体制のところはそれほど多くありません。その結果、継続的な医療行為が必要になると対応が難しくなるケースが少なくないのです。

退去が必要になる理由は個々に確認を

 高齢者施設の種類は多く、行われているケアの内容は個別に異なります。「高額な有料老人ホームなら、まさか追い出されないでしょ」と考える人もいます。けれども、利用料が高い施設でも、対応できるケアの内容はそれぞれ定まっています。利用料金の安い・高いに関係なく「出て行ってください」問題は起きる可能性があるということです。

 入居を検討する際には、早い段階で重要事項説明書をもらいましょう(入居を決める前でも、もらえます)。退去となる理由のほか、看護師などの医療体制についても確認を。

 契約書と重要事項説明書をしっかり読んで、不明点については説明を求めてください。読んだだけでは理解できない場合、「これまで、どういうケースで、退去となった方がいますか」と聞いてみましょう。そして、退去となった人は、退去後にどこへ行ったかについても聞いてみてください。なかには、関連の施設に移れるケースもあります。

 脅すわけではありませんが、安易に高齢者施設を“終の棲家”と考えるべきではないと思います。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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