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親の介護で超ストレス!「自分でできる、ヘルパーなんかいらない」と拒否する親を怒鳴りつけて大後悔

太田差惠子介護・暮らしジャーナリスト
(写真:NOBU/イメージマート)

 介護保険がスタートして20年以上たちました。テレビやネット記事などでも、介護保険のことが頻繁に取り上げられます。介護に詳しくなくても“ホームヘルプサービス”や“デイサービス”の存在については、ほとんどの人が知っているでしょう。

 そこで、親に介護が必要になると、多くの子は「介護保険でサービスを使おう!」と考えます。

 ところがです……。結構な確率で、親からサービス利用を拒否されます。

親は「自分でできる」と言うが……

 心身の衰えが生じてきた親に対し、「ヘルパーさんに来てもらおう」と提案したところ、拒否されたという子の多いこと、多いこと。

 こんな感じです。

子「生活に支障が出ているから、ヘルパーさんに来てもらおう。水まわりだけでも掃除してもらおう」

親「いらない」

子「どうして?」

親「自分でできる」

子「自分でできるって、トイレがこんなに汚れているよ。臭いもするし、不衛生だよ」

親「放っておいてくれ。自分のことは自分でできる」

 もしかしたら、本人にとっては、「全部自分でしている(できていなくても)」ことが生きるささえになっているのかもしれません。

 けれども、子としては放置できないこともあります。不衛生な水まわりもそうですが、例えば親が「きちんと食事を食べていない」「お風呂に何週間も入っていない」「1日中、布団の上で過ごしている」など……。そうなると、心身機能は衰える一方なので、ホームヘルプサービスやデイサービスの利用を勧めたくなります。

 しかし、サービス利用を拒否されると、親をささえるために子が親の家へ定期的に通っていくことになります。“遠距離介護”の始まりです。

子は「できないじゃないか」と声を荒らげる

 子としては、親のことを放置できないから通ってその世話をするのですが、「卵が先か鶏が先か」のようになっていくことがあります。

 子が手を貸すから、親はますます「自分でできる」と思い込み(勘違い?)、サービスの利用を頑なに拒否。実際には、本人ができないことは増え、子は帰省の頻度を上げざるをえなくなります。

 コウジさん(49歳)のところもそうでした。

 両親は実家で2人暮らしです。父親は要介護1。母親は要支援1。コウジさんがうるさく言って、2人共介護保険の認定は取ったものの、サービスの利用は拒否しています。普段はよく夫婦げんかをするにもかかわらず、「他人が家にきたら疲れるだけだ」という意見だけは妙に一致。コウジさんがどれだけ勧めようと、一枚岩で受け入れないのです。

 しかし、もともと掃除は苦手な両親で、体が弱ってきてからはまったく掃除をしていないようす。「久しぶりに帰省したとき、風呂の湯があまりに汚くて閉口してしまいました」とコウジさん。茶の間の床にはモノが散乱しているので、転倒事故も心配です。

 仕方なく、コウジさんは実家の掃除をするために、月に2回、帰省するようになりました。「はっきり言ってストレスです。先日、あまりに腹が立ち、ついに怒鳴ってしまったんです」とコウジさん。

「できる、できるって、僕がやってるんだろ。2人じゃ何もできないのに、偉そうに言うんじゃないよ」と……。父親からは、「帰れ」と怒鳴り返されました。

「おとな気ないことをしてしまった」とコウジさんは悔やんでいました。

まとめ

 読者の皆さんは、親の多くは、「サービスの利用を拒否する」ものと覚えておいてください。介護が始まったときの“最初のハードル”となることが実に多いのです。

 だからこそ、それほど弱っていないときから少しずつ「サービスを利用すること」に慣れておいてもらってはどうでしょう。例えば、週に1~2回でも食事の宅配サービスを利用する。大掃除の際などに、業者や便利屋さんを使ってみるのもよいかもしれません。

 介護保険を利用するほどでなくても、自治体の“総合事業”で、ホームヘルプサービスやデイサービスを利用できる場合もあります。“総合事業”のサービスについても地元の地域包括支援センターで教えてくれます。地域のボランティア団体やシルバー人材センターのサービスを利用してもいいでしょう。

 今すぐ利用しないにしても、「高齢者向けのサービスはすごく充実していて助かるらしいよ」と話しておくことをお勧めします。親にも、「介護はサービスを利用するもの」と少しずつ意識を変えておいてもらえると、そのときスムーズです。

 そして、いよいよ支援が必要になったら、手を出し過ぎないこと。さじ加減が難しいですが、できることは本人にしてもらう。できないことは、“サービスを利用するしかない”と本人が思える環境づくりも大切です。“だまし”なので、お勧めとまではいえませんが、「体調が悪くて、しばらく帰省できない。申し訳ないけれど、その間だけヘルパーを使ってくれないか」と言い(嘘)、サービス導入に成功した人もいました。

 “サービス利用を拒否する高齢者”は世の中、ものすごく多いので、介護の専門家はその対応にも手馴れています。親が使わないと言っても、地域包括支援センターに相談してみましょう。利用を促すために協力してくれるはずです。

介護・暮らしジャーナリスト

京都市生まれ。1993年頃より老親介護の現場を取材。「遠距離介護」「高齢者住宅」「仕事と介護の両立」などの情報を発信。AFP(日本FP協会)の資格も持ち「介護とお金」にも詳しい。一方、1996年遠距離介護の情報交換場、NPO法人パオッコを立ち上げて子世代支援(~2023)。著書に『親が倒れた!親の入院・介護ですぐやること・考えること・お金のこと 第3版』『高齢者施設 お金・選び方・入居の流れがわかる本 第2版』(以上翔泳社)『遠距離介護で自滅しない選択』(日本経済新聞出版)『知っトク介護 弱った親と自分を守る お金とおトクなサービス超入門』(共著,KADOKAWA)など。

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