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絶滅危惧種…? どっこいレトロブームで再注目。名古屋発祥・百貨店の「回るお菓子売り場」

大竹敏之名古屋ネタライター
カラフルなお菓子を自由に選べる「回るお菓子売り場」。名鉄百貨店一宮店にて

レトロで懐かしいお菓子売り場。“引退”の情報も話題に

「回るお菓子売り場」と聞いてすぐさま“懐かしい!”と感じる、そんな人の多くは昭和世代ではないでしょうか?

円盤型の陳列台に多彩な菓子が並んでぐるぐる回り、好きなものを好きなだけ取って量り売りしてもらう。ラウンド菓子とも呼ばれるこの売り場は、かつては百貨店の食品売り場の花形でした。

今年3月にはこの売り場の“引退”がSNSで話題に。松坂屋静岡店がTwitter公式アカウントで「回るお菓子売り場」の引退を告知すると、またたく間に拡散され、Webニュースや新聞、テレビなど多くの媒体で取り上げられました。

このニュースを見て、“最後の1台がなくなってしまったのか…”と思った人も少なからずいたのではないでしょうか? しかし、この時各地から「まだあるよ!」というツイートがいくつも投稿された通り、実は「回るお菓子売り場」はまだまだ日本のあちこちで元気に回っているのです。

全盛期は全国に約200台。現在も29台が活躍中

「全国で29台が現役で活躍しています。地方の百貨店などでは今でも根強い人気があります」とはこの什器(現在のブランド名は「Gram」=グラム。量り売りだけに!)を手がける松風屋(名古屋市中区)、開発本部研究室の山内直哉さん。

同社は菓子の企画から販売・卸売までを手がける1900(明治33)年創業の老舗。「1958(昭和33)年頃、当時の先代会長が、フランスのスーパーで小さな円形のアイスクリームの販売台を見かけたのが開発のきっかけです。それは固定式で、お客様が周りを移動しながら好きなものを買う形式だったのですが、販売台自体を回転させれば今までにない面白い売り場になるのでは、と思いつきました」といいます。

「回るお菓子売り場」第1号は1959(昭和34)年に名古屋の名鉄百貨店でデビュー。その後全国に広まり、最盛期の1980年代は約200台を展開していたそうです。

1980年代の「回るお菓子売り場」の様子。当時はお菓子を見つめすぎて目を回してしまうお客もいたとか。現在も全国各地にあり、どちらかといえば西日本の方に多く見られるそう(写真/松風屋提供)
1980年代の「回るお菓子売り場」の様子。当時はお菓子を見つめすぎて目を回してしまうお客もいたとか。現在も全国各地にあり、どちらかといえば西日本の方に多く見られるそう(写真/松風屋提供)

こちらも1980年代。販売スタッフが内側に3人もいることが当時の人気ぶりを表している(写真提供/松風屋)
こちらも1980年代。販売スタッフが内側に3人もいることが当時の人気ぶりを表している(写真提供/松風屋)

駄菓子、菓子の生産が盛んな名古屋の土地柄も誕生の背景に

現在、この売り場で販売している菓子はクッピーラムネやたまごボーロなどの懐かしい駄菓子や、贈答用にも使われるクリームをサンドしたクッキー、最新のチョコなどバラエティ豊か。何十種もの菓子を陳列できるため、新商品やクリスマスやハロウイーンなど時節に合ったものを自在にミックスさせられるのも強みだといいます。

名古屋は国内屈指の駄菓子の生産地であり、菓子全体の出荷額も愛知県(=県庁所在地は名古屋)は全国3位。「回るお菓子売り場」も、菓子生産が盛んな名古屋という土地柄があってこそ生まれ、発展したのだとも考えられます。

おひざ元の愛知県では現在、名鉄百貨店一宮店(一宮市)にあるとのこと。早速足を運んでみました。

名鉄百貨店一宮店1階の回るお菓子売り場「Gram」。商品は松風屋のオリジナルが中心で、その他名古屋の定番駄菓子なども。量り売りで100g270円(税込)
名鉄百貨店一宮店1階の回るお菓子売り場「Gram」。商品は松風屋のオリジナルが中心で、その他名古屋の定番駄菓子なども。量り売りで100g270円(税込)

好きなお菓子を自由に取って平均500円台。回る速度も価格も絶妙

「Gram」があるのは同店1階のお菓子売り場。カラフルなお菓子が詰め合わされた回転台がゆっくりと回っています。その様子を見るだけで、子ども時代にあこがれを抱いていた筆者としては、懐かしさがこみ上げます。

買い物を楽しんでいた小学1年生の女の子は「ラムネとガムとたまごボーロとたい焼きとゴーフレット(クリームをはさんだ焼き菓子)を買いました。自分で好きなお菓子を選べるから楽しい」とにっこり。「娘が好きなので、ここに来るときはよく利用します」とはお母さん。ちなみにこの日の合計金額は518円でした。

好きなお菓子、気になるお菓子を1個単位から選べるのも子どもたちにはうれしい。親だけでなくおじいちゃんおばあちゃんが孫を連れて買いに来るケースも多いとか
好きなお菓子、気になるお菓子を1個単位から選べるのも子どもたちにはうれしい。親だけでなくおじいちゃんおばあちゃんが孫を連れて買いに来るケースも多いとか

懐かしさを感じる反面、子どもの頃は売り場がもっと大きかった印象が。自分が小さかったので、あこがれの対象がより大きく見えていたのでしょうか?

「これは直径約150cmと比較的小さなサイズのものなんです。昔は円の内側にスタッフが入るものも多く、そのタイプはこれよりもかなり大型でした。当時は、お客さんが何重にも取り囲んで、一周する間に台が空っぽになってしまい、休む間もなくお菓子を補充していたと聞いています」と松風屋・営業担当の青木慎さん。

ちなみに回転の速度は1周1分12秒(時速36m)、1人あたりの単価は568円(名鉄百貨店一宮店での2022年10月実績)。のんびりしていると通り過ぎてしまう=買わなきゃ! とつい手が伸びるスピードといい、高すぎずまた買いたいと思わせつつも安すぎない価格設定といい、売り場としてなかなか絶妙な設定となっています。

筆者も購入。これで518円。自宅に持ち帰ると、おつまみ向けの豆菓子以外は、小学生の息子にあっという間にすべて食べられた
筆者も購入。これで518円。自宅に持ち帰ると、おつまみ向けの豆菓子以外は、小学生の息子にあっという間にすべて食べられた

レトロブームで注目。新たな展開であなたの町にも…?

そして近年、昭和レトロのブームもあってじわじわ注目度が高まっているそう。

「60年以上あるブランドになりますので、懐かしく感じてくださる方も多く、近年取材は増えています」と同社・山内さん。

さらに今後は、新たな販売スポットの開拓にも取り組んでいきたいといいます。

「什器は軽トラで運べるので、今後はショッピングモール、住宅展示場、新車発表会など、百貨店以外のイベント会場などでの移動販売も考えていきたい。好きなお菓子を好きな分だけ購入できるスタイルは、食品ロスが出にくく今の時代にもマッチしている。これからも時代に合ったおいしいお菓子の開発と合わせて、変化・進化していきたいと思っています」(松風屋・山内さん)

ゆっくりゆっくり回っているように見えて、実は少しずつ進化し、なおかつ子どもたちに変わらず愛されている「回るお菓子売り場」。先の名鉄百貨店一宮店なら名古屋駅から電車で約10分ほど。他、東海地方では松菱(三重県津市)、遠鉄百貨店(静岡県浜松市)のご当地百貨店でも見られます。

名古屋生まれの懐かしくも新鮮なお菓子売り場を見かけたら、子どもと一緒に、また大人だけでも存分に大人買いするなどして、楽しんでみてはいかがでしょうか。

(写真/昔の売り場風景は松風屋提供。他は筆者撮影)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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