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「名古屋めし」で売上倍増! エスカ地下街が50周年

大竹敏之名古屋ネタライター
名古屋駅新幹線改札口から最も近い地下街・エスカは名古屋めしストリートとしても人気

飲食店テナントの7割で名古屋めしを食べられる

ナゴヤ新幹線地下街エスカが2021年12月1日で開業50周年を迎えました。JR名古屋駅の新幹線改札口に最も近く、県外からの旅行者・出張族にとって、名古屋で最も利用しやすい地下街です。

エスカは2000年代以降の名古屋めし人気の高まりを最も効果的に業績に反映させ、成功したスポットです。テナント80店舗中、飲食店は33店舗。うちおよそ7割を名古屋のご当地グルメを食べられる店が占めています

「開業した1971年当初からの名古屋めしを出す店は山本屋本店(味噌煮込みうどん)、きしめんよしだ、きしめん亭、珍串(串焼きの居酒屋で味噌串カツがある)くらいで、他の多くは2000年代以降にオープンした店舗です」とエスカ理事・営業部担当部長の加藤茂勝さん。

新幹線の改札を出てすぐの場所に入口がある。2本の通路が並行して通るシンプルな動線のため、初めての人でも利用しやすい
新幹線の改札を出てすぐの場所に入口がある。2本の通路が並行して通るシンプルな動線のため、初めての人でも利用しやすい

きっかけは2005年の愛知万博

起爆剤となったのは、2005年に名古屋のお隣、愛知県長久手町(現・長久手市)・瀬戸市で開かれた愛・地球博(愛知万博)です。

「愛知万博で全国から名古屋に人が集まるようになった。それにともない名古屋めしも認知度が広まっていったと感じます」(エスカ・加藤さん)

エスカではこの人気の高まりに応えて名古屋めしを強化するテナント誘致を図りました。

名古屋めしには様々な種類があり、まずNo1ブランド、知名度のある有名店に声をかけていきました。飲食店のテナントに空きが出るタイミングで誘致を進め、2010年頃にはいわゆる名古屋めしと呼ばれる料理はひと通り網羅できました。最新のガイドブックでは表紙に『名古屋メシ』と謳っていますが、開業40周年(2011年)の際にも既に販促媒体など様々なところで『名古屋メシ』というフレーズを使っていたと記憶しています」(同)

エスカのガイドブック。表紙でも名古屋めしを積極的にアピールしている
エスカのガイドブック。表紙でも名古屋めしを積極的にアピールしている

【エスカの主な名古屋めしブランドの出店】

〇2001年 =矢場とん(味噌カツ)

〇2006年 =コメダ珈琲店

〇2008年 =備長ひつまぶし

〇2010年 =風来坊(手羽先)

〇2011年 =天むす千寿

     =コメダ珈琲店 拡張

     =海老どて食堂 (エビフライ)

〇2014年 =鳥開総本家(名古屋コーチン)

これらの新規出店の店舗に加えて、既存店もきしめん、ひつまぶし、味噌カツなどの名古屋めしをお勧めメニューとして前面に打ち出すように。例えば、エスカ開業時から続く「喫茶リッチ」では「万博の前後の頃から新たに鉄板ナポリタンをメニューに加えました。今ではフード類の中で一番人気です」といいます。

「名古屋めしストリート」化で売上は20億円→45億円へ急増

こうしてエスカは名古屋市内で最も早く、最も充実した名古屋めし集積スポットに。特に旅行者にとっては、何か名古屋めしを食べたいと思ったらとりあえずここへ行けば、ひと通りの種類の中から選べる便利な場所になりました。

名古屋めしストリート化の効果は絶大でした。飲食テナント全体の年間売上は、1990年代が約20億円だったところ、2015年には45億円に。「売上が倍増した分の大半は名古屋めしの店の売上増です。2000年以降、コロナ禍まではずっと右肩上がりで、飲食店の売上は2倍以上に伸びました」(同)

エスカで食べられる名古屋めしの数々。「矢場とん」の味噌カツ、「喫茶リッチ」の鉄板ナポリタン、「山本屋本店」の味噌煮込みうどん、「きしめんよしだ」の天ぷらきしめん
エスカで食べられる名古屋めしの数々。「矢場とん」の味噌カツ、「喫茶リッチ」の鉄板ナポリタン、「山本屋本店」の味噌煮込みうどん、「きしめんよしだ」の天ぷらきしめん

名古屋めしブームの引き金にもなった「矢場とん」の大ヒット

売上急増のきっかけは愛知万博。しかし、さらにさかのぼった2001年の「矢場とん」の出店が、実は最も大きな引き金でした。矢場とんエスカ店は同ブランドの2号店。本店以外では初の姉妹店でした(1971~1996年までの中日球場(後のナゴヤ球場)の串カツ売店があるがイートイン式の飲食店の姉妹店としては初)。

「現・社長(創業者の孫の鈴木拓将氏)が98年までホテル勤務していて、お客様から『名古屋駅の近くで矢場とんの味噌カツを食べられないか』とよく問い合わせを受けていたのです。そこで、遠方から来てくれるたくさんの人に食べていただきやすいようにと、名古屋駅の地下街エスカに出店することを決断しました」(「矢場とん」広報・鬼頭明嗣さん)

矢場とんエスカ店は特に2年目以降、倍々ゲームというほど売上を急上昇させ、行列が常態化。万博でのブレイクに先駆け、「名古屋めしに観光客が長蛇の列をなす」ことを真っ先に可視化させることになりました。

行列が絶えない「矢場とんエスカ店」。同社にとっても矢場町の本店に次ぐ2号店で、現在名古屋市内および全国各地におよそ30店舗を出店する多店舗展開のきっかけとなった
行列が絶えない「矢場とんエスカ店」。同社にとっても矢場町の本店に次ぐ2号店で、現在名古屋市内および全国各地におよそ30店舗を出店する多店舗展開のきっかけとなった

初の地下街・コメダも大行列店に

もうひとつエスカのジャンピングボードになったのが2006年のコメダ珈琲店の出店です。当時のコメダの新規出店は郊外の路面店が中心でしたが、有力フランチャイジー(加盟店)のトラフィコーポレーション(名古屋市)が初めて地下街での出店にチャレンジ。当時はまだ地元以外の出店は限られていたことも逆に功を奏し(東京23区内への初出店は翌2007年)、観光客が常に行列をなす大ヒット店となります。

「コメダ珈琲店エスカ店」。コメダのフランチャイズ店をおよそ30店舗展開するトラフィコーポレーションの経営で、同社の店舗の中でも一番の売上・集客を誇る
「コメダ珈琲店エスカ店」。コメダのフランチャイズ店をおよそ30店舗展開するトラフィコーポレーションの経営で、同社の店舗の中でも一番の売上・集客を誇る

「92席の店舗で、コロナ禍以前のピーク時は1時間で2回転半していました」とコメダ珈琲店エスカ店店長の田頭正毅さん。

常連中心の路面店とは違って観光客が多いため、利用動向にも違いがあり、「シロノワール、みそカツパン、小倉トーストがよく出て、客単価が路面店より高い。特にシロノワールの注文数はずば抜けて多く、週末はミニサイズを含めて1日120~130個のご注文があります」(田頭さん)。

コメダの大人気スイーツ、シロノワール。名古屋めしの食べ歩きを楽しむ観光客の利用が多いため、ミニサイズ(左)の注文が多く、100個以上出ることも。ノーマルサイズと合わせて1日120~130個売れるという
コメダの大人気スイーツ、シロノワール。名古屋めしの食べ歩きを楽しむ観光客の利用が多いため、ミニサイズ(左)の注文が多く、100個以上出ることも。ノーマルサイズと合わせて1日120~130個売れるという

この爆発的な繁盛は、コメダ珈琲店自体の人気もさることながら、名古屋めしストリートであることの効果も大きいといいます。

「当店でモーニングを食べてから他の名古屋めしを食べに行く、周りのお店で名古屋めしを食べてから当店でコーヒーやデザートを召し上がるというご利用が非常に多い。エスカ内の飲食店はライバルというより、お互いに相乗効果をもたらしてくれる関係にあると考えています」(田頭さん)

「矢場とん」と「コメダ珈琲店」、2つのトップブランドのエスカ出店の成功は、エスカ全体のにぎわいをもけん引。また両ブランドにとっても、その後の多店舗化に弾みをつけるきっかけのひとつになりました。

名古屋を訪れる人がバラエティ豊かな名古屋めしを選んで気軽に食べられる。そしてその人気を目の当たりにする。エスカは名古屋めしブームに乗ったというよりもむしろ、名古屋めしブームの大きな推進力になったともいえるのです

V字回復のカギをにぎる地元客の獲得

名古屋めしストリート化によって大成功を収めたエスカですが、コロナ禍では一転、大きな打撃を受けました。観光客・出張族がメインターゲットとなっていたため、外出自粛で客足が遠のいてしまったのです。

「2020年4~5月の緊急事態宣言下では1カ月間の休業もあり、地下街全体で従来の3~4割程度の売上に落ちてしまいました。現在は、あいスタ認証(ニューあいちスタンダード=愛知県内の飲食店の感染防止対策認証制度)全店舗取得、感染症予防のための特定の設備投資費用の9割負担など、地下街全体で感染症対策に取り組んでいます」(前出のエスカ・加藤さん)。

コロナ禍が下火になりつつあった昨年11~12月は一昨年水準近くまで持ち直しつつあり、それでも昨年の飲食関連テナントの売上は2~3割減。平常時並みに戻るまでにはもうしばらく時間がかかりそうです。

青柳総本家エスカ直営店では「ドラゴンクエストウォーク」とのコラボ商品・スライムういろうの人気で全国からドラクエファンが殺到。話題性ある商品はにぎわい復活のきっかけにもなる(販売は5月31日まで)
青柳総本家エスカ直営店では「ドラゴンクエストウォーク」とのコラボ商品・スライムういろうの人気で全国からドラクエファンが殺到。話題性ある商品はにぎわい復活のきっかけにもなる(販売は5月31日まで)

感染症のリスクなども見すえ、今後はあらためて地元の利用者への訴求も必要だとも。「新幹線改札から一番近いという最大の強みは不変ですから、名古屋めしという強みは残しながら、地元の人が名古屋駅に求めるリラクセーションや空き時間の活用といった要素、サービスも提供していきたいと考えています」(エスカ・加藤さん)

コメダのエスカ店でも地元客の重要性をこう語ります。「コロナ禍で観光のお客様が減った分、思っていた以上に常連さんがいらっしゃることに気づかされました。週に何度も来て下さる地元の方の存在は気持ちの面でも売上の面でもとてもありがたかったです」(店長の田頭さん)。

キャリーケースを手にした観光客が目立つが、身軽な格好で歩く周辺に勤務する人も実は少なくない。観光客+地元客の二段構のファン獲得が非常時にも強い健全経営につながる
キャリーケースを手にした観光客が目立つが、身軽な格好で歩く周辺に勤務する人も実は少なくない。観光客+地元客の二段構のファン獲得が非常時にも強い健全経営につながる

コロナ禍以前の最盛期と比べるとまだ混雑が緩和されているこの時期は、あらためて地元客にアピールするチャンスともいえます。本来、名古屋・愛知で愛されてきた名古屋めしの魅力で地元客をがっちりつかむことが、ポストコロナの時代も、エスカが名古屋めしストリートとしていっそう輝きを放つためのポイントになるかもしれません。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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