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業界トップのコメダとココイチ。名古屋発チェーンの実はスゴい!セカンドブランド

大竹敏之名古屋ネタライター
おかげ庵の抹茶シロノワールにパスタ・デ・ココのあんかけスパゲッティ

喫茶とカレー。大衆的外食産業でそれぞれトップのコメダとココイチ

コメダ珈琲店にカレーハウスCoCo壱番屋(以下「コメダ」「ココイチ」)はいずれも名古屋、愛知が発祥。コメダは約880店舗とフルサービス式の喫茶チェーンでは業界トップ(セルフサービス式はスターバックスコーヒー約1600店、ドトールコーヒーグループ約1200店)。ココイチも約1250店舗と2位・ゴーゴーカレー80数店舗を大きく引き離しての圧倒的ナンバー1です。

それぞれ全国47都道府県に出店しているので、その存在は日本中で知られるところ。しかし、両社に10~20数店舗を展開しているセカンドブランドがあることは、地元以外の人はあまり知らないのではないでしょうか? 今回はその魅力やポテンシャルを紹介します。

甘味や和食。こだわりメニューが充実の「おかげ庵」

コメダのセカンドブランドが「甘味喫茶 おかげ庵」(以下「おかげ庵」)です。名古屋市内に1号店をオープンしたのは1999年と20年以上の歴史があり、現在愛知県内7・関東4の計11店舗を出店しています。

左上から時計回りに抹茶シロノワール760円、おにぎりモーニング450円~(ドリンク代のみ)、牛丼790円、おだんご570円(価格は地域によって一部異なる)
左上から時計回りに抹茶シロノワール760円、おにぎりモーニング450円~(ドリンク代のみ)、牛丼790円、おだんご570円(価格は地域によって一部異なる)

「甘味喫茶」の冠がついている通り、和菓子などを楽しめる喫茶店。コメダの代名詞であるモーニングサービスでもおにぎりを選べ、またコメダにはないご飯物のメニューがあるなど、“和”の要素を取り入れているのが特色です。

随所にこだわりも注がれています。コメダの看板メニューであるシロノワールは、抹茶味を基本とし、ソフトクリームも乳脂肪分の高いおかげ庵専用のものを使用。シロノワール極みいちご、シロノワール小倉というさらにグレードアップした2種類も用意しています。

他にも抹茶を使ったメニューが多彩で、スイーツをはじめ、ドリンクでもお抹茶をはじめ抹茶オーレ、抹茶シェークなどをラインナップ。日本を代表する抹茶の産地・愛知県西尾産を使用し、上品な香りをしっかり感じられます。

モーニングのおにぎりにもこだわりが。ご飯は店内で炊き、型を使うのではなく手で握っているため、炊き立ての香りと温かさ、ふんわりした柔らかさを存分に楽しめます。

おかげ庵ならではの大人気メニューが七輪を使った“焼ける”甘味。団子、大福、いそべ餅、五平餅があり、自分で焼く楽しさ、そして熱々のおいしさを味わうことができるのです。

脚の長いイス、広い通路幅などより快適な空間づくり

コメダと同様のログハウス調だが、イスの色や脚の形が異なるなど細かいところに違いが。写真は「おかげ庵 葵店」(名古屋市東区)
コメダと同様のログハウス調だが、イスの色や脚の形が異なるなど細かいところに違いが。写真は「おかげ庵 葵店」(名古屋市東区)

空間づくりにもコメダとの違いが。緑のベロア地のソファは、コメダと色違いのように見えますが、コメダのソファが脚の短いボックス型なのに対してこちらは脚の長い四脚型。子ども連れの女性やお年寄りといった動きが制限されるお客が多いことを想定し、イスを引いたり、座った状態で足を自由に動かすことがしやすい、より優しく快適な設計になっています。またテーブルや通路の幅もコメダよりやや広く、ここでもより過ごしやすい工夫が施されています。

さらに最新動向として、食事メニューがより充実。昨秋には味噌煮込みうどんを初導入(冬季限定)、この春には牛丼がラインナップに加わりました。

関東エリアでの出店強化で展開スピードがアップ(?)

これまでの20年で出店は2年に1店ペースと、成長曲線は非常にゆるやかだったおかげ庵ですが、今後は積極的な出店が期待できそうです。

ロードサイドや商業施設内、コメダとの併設など様々な立地に出店。写真は「おかげ庵 上飯田店」(名古屋市北区)
ロードサイドや商業施設内、コメダとの併設など様々な立地に出店。写真は「おかげ庵 上飯田店」(名古屋市北区)

「これまでは郊外のロードサイトや商業施設内、さらにはコメダとの併設など様々な立地に出店して業態の特性を見極めてきた。また近年はコメダの展開に力を注いできたため、おかげ庵の店舗展開はあえて控えてきました。コメダの認知度が全国的に高まってきたため、それにともなっておかげ庵の認知度も高めていける。今後は、まだ市場に余地のある関東地域で特に出店に力を入れて行きたいと考えています」とコメダ・マーケティング部長の杉野正貴さん。

空間の雰囲気はコメダと共通点が多いため安心感があり、それでいてメニューはおかげ庵にしかないオリジナルが大半なので、その日食べたいメニューによって使い分けが可能。和のメニューが充実しているためコメダ以上に幅広い客層に受け入れられるポテンシャルも感じます。喫茶チェーン業界の台風の目になる可能性も大いにあるんじゃないでしょうか?

名古屋めし系スパゲッティの専門店、ココイチの「パスタ・デ・ココ」

ココイチのセカンドブランドがあんかけスパゲッティ専門店「パスタ・デ・ココ」です。1号店オープンは2003年で現在28店舗。うち名古屋市内9・愛知県内17・岐阜県2。早い段階から東京に1店舗を出店していましたが昨年残念ながら閉店。現在はほぼ地元のみでの展開となっています。

「パスタ・デ・ココ」の看板メニュー、あんかけスパゲッティを中心にスパゲッティが約30種類。写真はミラカン946円。ちなみにミラカンとはハム類+野菜類をトッピングしたあんかけスパゲッティの定番
「パスタ・デ・ココ」の看板メニュー、あんかけスパゲッティを中心にスパゲッティが約30種類。写真はミラカン946円。ちなみにミラカンとはハム類+野菜類をトッピングしたあんかけスパゲッティの定番

看板メニューのあんかけスパゲッティとは1960年代に名古屋で生まれ、地元では専門店がいくつもあるほどのご当地グルメ。ネーミングの由来は、トマトやひき肉を煮込んだとろみのあるソースが和食や中華料理の“あん”のようで、これがたっぷりかかっているから。さらに2・2mmの極太麺をゆでた後にラードで炒めるのが基本。ガッツリした食べ応えのおかげで、スパゲッティでありながら男性ファンが多いのも特徴です。

パスタ・デ・ココはこのあんかけスパゲッティをメインにすえながら、もうひとつの名古屋のご当地スパである“鉄板ナポリタン”(ケチャップベースのいわゆるナポリタンを鉄板皿に盛り、とき卵を流し入れる喫茶店発祥の名古屋めし)が第2の柱に成長。ソースの辛さや麺の量、トッピングなど選択肢を豊富にそろえて、ココイチと同様に選ぶ楽しさを提案しています。筆者としては、あんかけスパの元祖の店と比べてソースはややマイルドで万人ウケしやすいという印象。スパイシーでありつつ誰もが親しめる味、という点ではカレー界のガリバーであるココイチの商品開発力が発揮されていると感じます。

名古屋の喫茶店発祥で広まった鉄板ナポリタン。写真は「パスタ・デ・ココ豊田前山町店」オリジナルの鉄板ハバネロソースの辛旨ナポリタン909円
名古屋の喫茶店発祥で広まった鉄板ナポリタン。写真は「パスタ・デ・ココ豊田前山町店」オリジナルの鉄板ハバネロソースの辛旨ナポリタン909円

そのココイチの出店力を考えると、18年で30店舗足らずとはかなりスローペース。その理由は日本の国民食ともいうべきカレーライスに対して、きわめてコアな名古屋限定グルメであるあんかけスパゲッティ、その認知度の差に尽きるでしょう。壱番屋パスタ営業部長の徳永篤宣さんも「名古屋以外の地域では、あんかけスパゲッティは食べたことのない未知の料理。最初に“食べてみよう”と思ってもらうまで時間がかかる」といいます。それでも、近年の名古屋めしブームもあって少しずつですが着実にその名前は浸透しつつあるよう。「コメダさんもあんかけスパゲッティを出すようになっており、ようやく存在が広く知られてきたのではないかと感じます」と徳永さん。

ソースの種類、麺の量、トッピングと自分好みにチョイスできる
ソースの種類、麺の量、トッピングと自分好みにチョイスできる

ココイチがチェーンとしてあまりにも成功しているがゆえ、つい比較してしまいがちですが、「そもそもココイチと比較する必要はない」と徳永さんはいいます。「(同規模の店舗での平均)売上はココイチにはおよびませんが、スパゲッティ専門店では他にないくらいの業績を上げています。外食業界全体でもスパゲッティ専門店のチェーンで30店以上展開しているブランドは数えるほどしかありません。この分野では十分に競争力があるといえます」(徳永さん)

写真のようなココイチとの複合型や商業施設内、ロードサイドの独立型など様々なタイプがある。スパゲッティ専門店では珍しいドライブスルー店も3店舗。写真は「パスタ・デ・ココ中区新栄店」(名古屋市中区)
写真のようなココイチとの複合型や商業施設内、ロードサイドの独立型など様々なタイプがある。スパゲッティ専門店では珍しいドライブスルー店も3店舗。写真は「パスタ・デ・ココ中区新栄店」(名古屋市中区)

チャレンジ精神あるオーナーには魅力的な成長途上ブランド

コメダのおかげ庵も、ココイチのパスタ・デ・ココも、いずれもトップブランドが強力すぎるゆえに、これまで全国的にはあまり目立たない存在でした。加えて、両社ともにFC主体のチェーンのため、繁盛の可能性がより高いメインブランドを選択する加盟希望者が多いのも当然でした。店舗数がなかなか伸びなかったのも、一番の理由はここにあることは間違いありません。

しかし、それでもあえてセカンドブランドを選ぶのは「おかげ庵(またはパスタ・デ・ココ)にほれ込んでこの店をやりたい!という熱意を持っているオーナーばかり」と両社の担当者は口を揃えます。飲食店は労働集約型産業といわれるように、現場で働く人によってこそ成り立つビジネスで、経営者のモチベーションが現場の活気、さらには業績に強く反映されます。実際にパスタ・デ・ココでは、本部直営からFCオーナーに譲渡されて売上が前年比120%に大幅アップした店もあるそうです。飲食店での独立開業は本来ベンチャー精神が不可欠ですから、成長途上にあるセカンドブランドは意欲あるオーナーにはむしろ魅力的ともいえます。オリジナルメニューの開発など独自性を発揮できる余地も多く、その活力が今後の成長の原動力になることも期待できます。

コメダもココイチもゆるぎない全国チェーンとなり、それにともなって店舗数の多いエリアでは、自社店舗同士の競合を避ける必要も生じてきます。その際、セカンドブランドならメインブランドとの住み分けも可能。そうすると逆にこれからは、コメダ、ココイチが浸透しているエリアほど、おかげ庵やパスタ・デ・ココの出店のチャンスも広がるとも考えられます。そうやって少しずつ認知度が高まれば、かつてのコメダやココイチがそうだったように、出店スピードがどんどん加速していく可能性も膨らんできます。業界ナンバー1チェーンがじっくり育ててきた第2の柱だけに実力は既に十分。今からしっかりウオッチしておいてはいかがでしょうか。

(写真撮影/すべて筆者)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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