朝ドラ「半分、青い。」で大人気の五平餅。愛知・岐阜・長野の美味を食べ比べてみた!

わらじ型(左上)が最も一般的だが、団子型、御幣型など様々なタイプがある

NHKの朝ドラ『半分、青い。』効果で今、五平餅(ごへいもち)が熱い! 物語の序盤で、豊川悦司が「うんま!」とほおばったことで注目を浴び、ロケ地の岐阜県恵那市では五平餅の売上が5倍に急増した店もあるとか。まさに大ブレイクを果たしています。

しかし、その一方で「五平餅が注目されるのはうれしいけどちょっと複雑…」という声も。心境を吐露するのは恵那市のお隣・中津川市出身の筆者の友人です。「トヨエツが食べたのはわらじ型。中津川や恵那の東濃地方は団子型が多いんです」。

そう。実は五平餅は形も味つけも様々。そして、岐阜県だけでなく隣接する愛知県や長野県にも広く分布する郷土料理なのです。確かにドラマに登場するわらじ型は名古屋在住の筆者にとっても最もなじみがあり、名古屋周辺の山間部のドライブイン、さらには市内のスーパーや縁日の屋台などでもよく見かけます。他のタイプがあることはうっすらと知ってはいますが、その実態を十分把握しているわけではありません。せっかく身近なご当地グルメが脚光を浴びている今、あらためてそのバリエーションや分布を調べてみることにしました。

世界でただ1人、五平餅の“学芸員”が解説

とよた五平餅学会の天野博之さん。「一本の五平餅にも山河あり。食の裏側に潜む物語を知り、ふるさとと一緒に味わうとよりおいしくいただけます」
とよた五平餅学会の天野博之さん。「一本の五平餅にも山河あり。食の裏側に潜む物語を知り、ふるさとと一緒に味わうとよりおいしくいただけます」

「五平餅は愛知、岐阜、長野の3県にまたがる限られた地域に分布します。お米を餅のようにした食べ物は日本中あちこちに見られ、秋田のきりたんぽや全国各地のおはぎも親戚と考えられます。しかし、つぶした米を棒または串に平たくはりつけて焼く、という食べ物は五平餅しかありません」

こう語るのは「とよた五平餅学会」の天野博之さん。世界で唯一の五平餅の学芸員として、その発祥や分布、地域の生活とのつながりなどについて調査・考察しています。

「起源には諸説があります。山の神を祀る『山の講』のお供えがルーツ、林業など山仕事の人たちのお弁当だった、五平さんという人物が考案したなど…。米や味噌、醤油、くるみ、えごまなど材料はどれも山でとれるものですし、山の暮らしの中で生まれた地域特有の食文化といえます」

そして、天野さんが唱えるのが「豊田市(愛知県)発祥説」です。

「五平餅の分布とぴったり重なるのが信州~三河をつなぐ中馬(ちゅうま)街道です。この街道は塩の道とも呼ばれ、人馬によって物資輸送が行われていました。発祥の諸説から五平餅は山間部で生まれ、陸上輸送する人たちによって街道伝いに広まったと考えられます。豊田市の中でも長野県境に近い地域は五平餅分布圏の背骨にあたる街道筋にあり、岐阜の東濃や長野の南信州、木曽、どのエリアにも進みやすく、伝播にちょうど都合のいい位置にあたります」

さらに、豊田市は五平餅に欠かせない味噌、たまりの醸造文化が古くから根付いていること、五平餅の中では古風なわらじ型が主流であることも、この地が発祥である有力な裏付けになるのではないかと、天野さんはいいます。

とよた五平餅学会による五平餅基礎知識

【五平餅の定義】

〇ごはんをつぶした生地を使う。名前は「餅」だが、うるち米を使う

〇上の生地を棒につける(串に刺す)

〇豆が原料のタレ(味噌、たまり、醤油)を塗る

〇あぶる(白焼きとタレを塗った後にもう一回あぶる二度焼きが基本)

【五平餅の由来】

「山の講・説」… 山の講とは山の神様をお祭りする行事。米をつぶして作った餅状のものをお供えし、その後におさがりとして焼いて食べたものが五平餅になった

「山仕事の人の携帯食・説」… 林業の人たちの携帯食、保存食が起源

「五平さん考案・説」…五平さんという人物が考案した  など

【五平餅の分布】

愛知県…県北東部に当たる三河地方山間部(豊田市、新城市、設楽町、豊根村、東栄町など)

岐阜県…県南東部の東濃地方(多治見市・土岐市・瑞浪市・恵那市・中津川市など) ※飛騨地方(高山市、下呂市など)でも見られるが、郷土食としての分布はまれ

長野県…県南部の南信州(飯田市、伊那市など)、県南西部の木曽地域(木曽川流域の木曽町、南木曽町など)

いずれにしても、五平餅が中部地方の山間部で古くから親しまれてきた食べ物であることは間違いありません。それぞれの地域でどのように食べられてきたのか、そして味や形にどんな違いがあるのか、3県を巡って、実際に食体験しながら確かめてみようと思います。

形は多彩 味は味噌ダレが基本の愛知県

愛知県の五平餅分布の多くを占めるのが豊田市です。世界一の自動車メーカー・トヨタの本拠地なので工業都市のイメージが強いかもしれませんが、平成17年に県東部6町村と合併したため、市域の多くが山間部。そこでほぼもれなく五平餅が食べられ、地域ごとに形がバラエティに富んでいるのが特徴です。

「壱利岐」の五平餅は“大わらじ”タイプ。単品350円。ご飯の量は何と丼1杯分!面白いのは定食のごはんを+150円で五平餅に変えられること。五平餅が食事にもなり得るポジションにあることが分かる
「壱利岐」の五平餅は“大わらじ”タイプ。単品350円。ご飯の量は何と丼1杯分!面白いのは定食のごはんを+150円で五平餅に変えられること。五平餅が食事にもなり得るポジションにあることが分かる

市街地から車で30分ほど、市南部に位置する下山地区は大わらじ型が主流です。

「この先にある三河湖(昭和38年に作られたダム湖)ができた当時、このへんはドライブのお客さんですごくにぎわったの。うちみたいな食堂やドライブインもたくさんできて、何か特徴を出さなくちゃ、ということでどの店も五平餅を大きくしたんですよ。旧・下山村はすべてこの形で、味も味噌ベースで大体同じですね」と「壱利岐」(いちりき)の鈴木千佳さん。“大わらじ”と呼ばれる五平餅は長さ20cmはあり、名前の通りのビッグサイズ! 豆味噌ベースのタレのこってりした甘辛さもインパクト抜群です。

足助地区「井の上」はわらじ型+こってり味噌味で250円。「びっくりや」はやや大きめのわらじ型。味噌の他にきな粉味も。310円。「きくや」は足助地域独特の御幣型で炭火焼の香ばしさもたまらない。180円
足助地区「井の上」はわらじ型+こってり味噌味で250円。「びっくりや」はやや大きめのわらじ型。味噌の他にきな粉味も。310円。「きくや」は足助地域独特の御幣型で炭火焼の香ばしさもたまらない。180円
家庭料理の五平餅は手で成形するが、店では木型を使うところが多い
家庭料理の五平餅は手で成形するが、店では木型を使うところが多い

 続いては紅葉の名所・香嵐渓(こうらんけい)で有名な足助(あすけ)地区。行楽地だけあって、この地区だけでおよそ20件の五平餅提供店があります。「井の上」「びっくりや」はそれぞれ創業40~50年の老舗で、どちらもオーソドックスなわらじ型。楕円形のラインに店ごとの特徴があります。味噌のコクや香ばしさもあいまって、これぞ五平餅!と納得のスタンダードです。

 そんな中、「きくや」は五角形の“御幣型”。神様に捧げるお供え物をかたどっています。

「今はうちともう1軒くらいしかないけど、この辺は昔は大体この形だったんですよ」と昭和22年生まれの安藤恵子さん。炭火でじっくりあぶり、表面はパリッとしていますが中は意外とふんわり感も。ちょっと小ぶりなので、醤油味と味噌味の2種類がちょうどいい具合におなかにおさまります。この地区では「新米では柔らかすぎるので、古米を使った方が五平餅らしい食感になる」という声も何軒かから聞くことができました。

ユニークなひょうたん型は愛知県豊田市小原地区の「樟茶屋」。1本200円
ユニークなひょうたん型は愛知県豊田市小原地区の「樟茶屋」。1本200円

 岐阜県との県境、小原地区ではこれまた珍しいひょうたん型が。

「このへんはわらじ型やお団子型が定番なんですが、平成16年にお店を始める時に、変わった形にして特徴を出そうと主人に木型を作ってもらったんです。ほっぺに味噌がつかなくて食べやすい、と喜ばれます」という「樟茶屋」(くすのきぢゃや)の原田昭子さんは昭和24年生まれ。形こそオリジナルですが、五平餅自体は「親戚が集まる時にはちらし寿司か五平餅。てっとり早く作れる食べ物として昔からありますよ」と郷土料理として慣れ親しまれてきたものだといいます。

長野県・南信州では団子型に甘いごまダレが人気

宿の夕食にも五平餅が。長野県・妻籠宿は甘いごまダレが主流。どのタイミングで食べればいいのかちょっと迷う…
宿の夕食にも五平餅が。長野県・妻籠宿は甘いごまダレが主流。どのタイミングで食べればいいのかちょっと迷う…

 この日は長野県・南信州の妻籠宿(つまごじゅく)で宿泊。1日で7本の五平餅を食べてもうおなかいっぱい。しかし、もしや…と思っていたら案の定、宿でも夕食に五平餅がついてきました。

「このあたりの宿では大体五平餅をつけますね」とのこと。ごはんもそばもあり、「どういう順番で食べればいいんでしょう?」と尋ねると「お好きにどうぞ」との答えで、食事の中での五平餅の立ち位置がよくわかりません。食べてみても甘めのごまダレで、日本酒と合わなくもないがお菓子のようでもあり。名古屋人の筆者は五平餅・準地元民のつもりでしたが、地元では当たり前の食べ物でもヨソから見るとちょっと不思議、ということをあらためて実感しました。

 翌朝、まず観光協会に立ち寄り、長野県の五平餅事情について尋ねてみました。

京都と江戸を結ぶ中山道の宿場町として栄えた妻籠宿。江戸情緒が残る街並みが守られている
京都と江戸を結ぶ中山道の宿場町として栄えた妻籠宿。江戸情緒が残る街並みが守られている
妻籠宿「おもて」の五平餅は団子2玉タイプ。この地域では醤油ベースにくるみや落花生、ごまなどで風味を加える五平餅が多い。1本200円
妻籠宿「おもて」の五平餅は団子2玉タイプ。この地域では醤油ベースにくるみや落花生、ごまなどで風味を加える五平餅が多い。1本200円

新米の収穫を祝う農村の祭りがルーツと考えられています。このあたりでは醤油に砂糖、ごまやくるみ、えごまで甘みとコクを加えたタレが基本です。形は団子型が主流。戦前まで、山の講の日(米の収穫祝いと同じ日)に里芋を串に刺して焼いてタレをつけて食べる風習があったので、その名残で団子型になったと考えられます」と妻籠観光協会事務局長の藤原義則さん。前日の愛知県での説や作り方とはかなり違いがあります。

「うちは米から作ってます。くるみも地元で採れたものを使います」とは宿場町でおよそ50年営業を続けている人気の茶屋「おもて」の藤原須美子さん。もっちりした柔らかさに優しい甘味。お団子型のかわいらしい形の通り、おやつ感覚で食べられます。

「林業が盛んだった頃は男の人が自分で作って山へ入ってったもんで、男の人が作るもんやった。大きさももっと大きくてね」と阿智村五平餅手作り体験講師の水上さん(左)と田中さん(右)
「林業が盛んだった頃は男の人が自分で作って山へ入ってったもんで、男の人が作るもんやった。大きさももっと大きくてね」と阿智村五平餅手作り体験講師の水上さん(左)と田中さん(右)

南信州をさらに南下して阿智村へ。ここは名湯として知られる昼神温泉郷があり、観光客も少なくありません。しかし、観光客向けのご当地グルメというよりも現地の人が作って食べる習慣が今なお残っているのだそう。そこで、地元のおばちゃんたちが指南してくれる五平餅づくりを体験することに。

「孫や親せきやお友達が集まると作ってみんなで食べますね。他にあれこれ料理を用意せんでいいから楽だし、囲炉裏で焼きながらわいわいおしゃべりするのも楽しいですよ」というのはともに70代の田中和代さんと水上みのりさん。

2人の指導にしたがって、少し柔らかめに炊いたごはんをすりこぎでつぶし、棒につけて形を整えます。一応、オーソドックスなわらじ型を作ったつもりですが、木型は使わないのでちょっと不ぞろいで、より素朴な田舎料理といった感じです。味つけはくるみたっぷりの甘いタレとネギ味噌の2種類。味噌は愛知県の豆味噌とは違い、信州味噌なので優しい甘味があります

五平餅作りの手順。ごはんをすりつぶし、木の棒に塗って平たく伸ばし、焼いて、タレを塗ってもう一度焼く
五平餅作りの手順。ごはんをすりつぶし、木の棒に塗って平たく伸ばし、焼いて、タレを塗ってもう一度焼く

岐阜県・中津川は団子3玉+甘口ゴマ風味

岐阜県中津川市「喜楽」の五平餅は1本120円
岐阜県中津川市「喜楽」の五平餅は1本120円

 最後は岐阜県へ。中津川市は長野県と隣接し、信州とも東海地方ともつながりが強い地域です。市内で最も歴史がある五平餅の店「喜楽」を訪れると、これまた今まで食べたものとは違った五平餅が。小さなお団子3玉が串に刺さり、見た目はほぼいわゆる串団子。違いは団子がやや平たいくらいでしょうか。タレは甘辛の醤油をベースにごま、クルミ、落花生を半日かけてねっているとのこと。値段も一本120円と安く、お客さんは5本10本とまとめ買いする人が大半で、手軽なおやつとして親しまれているようです。

「創業は昭和18年。それ以前から五平餅は花見や縁日の屋台で売られていたが、一年中営業する店はうちが最初。当時からこの形と味で、中津川の味として親しまれています」と昭和5年生まれの2代目、金澤慶治さん。

朝ドラ聖地巡礼でにぎわう恵那市は団子型&わらじ型

 そして今、五平餅が最も熱いスポットが恵那市・岩村町です。古くからの商店が並ぶ城下町は、朝ドラのロケ地にもなり、大勢の観光客が押し寄せています。

朝ドラロケ地の聖地巡礼で多くの人が散策を楽しむ岐阜県恵那市岩村町。「みはら」には五平餅を求める人たちで行列ができる
朝ドラロケ地の聖地巡礼で多くの人が散策を楽しむ岐阜県恵那市岩村町。「みはら」には五平餅を求める人たちで行列ができる

中でも行列が絶えないのが、主演の永野芽郁さんも食べたという「みはら」と、佐藤健さんが絶賛した「あまから」です。「みはら」はやや小ぶりのわらじ型でごまダレがたっぷり。「あまから」は団子型で店名通り甘辛のごまダレ。今回食べ歩いた中では最もミニサイズ&ロープライス(100円)です。「団子型の方がタレがからみやすいでしょう。小学生でも5、6本ぺろっと食べちゃいますよ」と店長の田中利定さんの言葉にも納得。両店が人気を二分している通り、恵那では団子型とわらじ型が半々だといいます。

「みはら」(上)はわらじ型で1本200円、「あまから」(下)は団子型で1本100円。筆者・大竹は2日間で11軒16本を完食! どれも「うんま!」
「みはら」(上)はわらじ型で1本200円、「あまから」(下)は団子型で1本100円。筆者・大竹は2日間で11軒16本を完食! どれも「うんま!」

愛知~長野~岐阜と3県をまたいで駆け回り、2日間で食べた五平餅は16本。想像していた以上に形も味も多種多彩で、また広いエリアで庶民の暮らしに息づいてきた郷土食であることが実感できました。愛知県ではわらじ型が主流ながらもユニークな御幣型、ひょうたん型などで個性を競い合い、味つけはこってりした豆味噌が基本。長野県や岐阜県では全域でわらじ型が多く見られる一方、中山道の宿場町を中心に食べやすい団子型が目立ちます。味噌を使わず醤油ベースでごまやくるみを加えたまろやかな甘味が、旅の途中のおやつにもぴったりです。

これでも巡ったのは五平餅分布の一部で、他にも魅力的な五平餅はたくさんあるはず。次は愛知県の奥三河にも足を延ばしたり、長野県のおやき文化圏との境界線も探ってみたいと思います。

皆さんも五平餅を生み、育ててきた土地の人たちの愛着を受け止め、さらには様々な由来や地域の食材、風習などにも思いをはせながら食べ歩けば、より味わい深く感じられることでしょう。

(写真はすべて筆者撮影)

【この記事は、Yahoo!ニュース 個人の企画支援記事です。オーサーが発案した企画について、編集部が一定の基準に基づく審査の上、取材費などを負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】