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消えた名古屋ご当地タレント・宮地佑紀生“復帰舞台”の意外な反応

大竹敏之名古屋ネタライター
1年半ぶりに公の場に姿を現わせた宮地佑紀生氏。聴衆に向かって深々と頭を下げた

名古屋のラジオ番組で起こった1年半前の衝撃的な事件

「名古屋の人気ラジオDJが生放送中に暴行!」。こんな衝撃的なニュースがメディアを駆け巡ったのは昨年6月末のこと。名古屋で絶大な人気を得ていたタレントの宮地佑紀生(みやちゆきお)さんが、自身の冠番組である東海ラジオ『聞いてみや~ち』の本番中に、アシスタント女性に蹴る、殴るの暴力をふるったという事件は、全国区のワイドショーやネットニュースでも大きく取り上げられました。

名古屋ではこのニュースはとりわけショッキングなスキャンダルでした。容疑者となった宮地さんは1970年代から活躍する大ベテランのご当地タレント。こてこての名古屋弁と親しみやすいキャラクターで、名古屋では知らない人はいないほどの知名度を誇る存在だったのです。事件の報に対しても「信じられない!?」という反応がほとんどでした。

宮地さんは事件3日後の6月30日に傷害容疑で逮捕され、東海ラジオは同日に19年続いた番組の打ち切りを決定。その後、12月に名古屋簡易裁判所が略式命令を出し有罪が確定し、今年6月には当事者間での円満解決が発表されました。この間、宮地さんは芸能活動を自粛。表舞台から姿を消しました。

ライバル局とライバルタレントが用意した“復帰”の舞台

謝罪会見などもないまま事件から1年半。宮地さんが公の場に立つ機会は思わぬ形でやってきました。CBCラジオの人気ラジオ番組『つボイノリオの聞けば聞くほど』25周年記念イベントにゲスト出演するというのです。つボイノリオさんといえば、かつてコミックソング『金太の大冒険』で一世を風靡し、オールナイトニッポンのDJも務めながら、その後は地元・名古屋を拠点としてきたこれまた超ベテランの人気ご当地タレント。同じ68歳の宮地さんとは永遠のライバルと並び称される存在です。CBCと東海もともにラジオ・テレビ双方のメディアを持つ名古屋の老舗放送局で互いにしのぎを削る間柄。ライバル局の元・看板パーソナリティに対して、つボイさんとCBCが救いの手を差し伸べる格好となったのです。

12月3日のCBCホールでのイベントには、争奪戦の末にチケットを入手した約600人のファンが押し寄せた
12月3日のCBCホールでのイベントには、争奪戦の末にチケットを入手した約600人のファンが押し寄せた

公の場ではほとんど顔を合わせることがなかった地元の大物同士の共演、しかも宮地さんがショッキングな事件後初めて肉声を発する機会とあって話題性は十分。イベントのチケットは500枚がわずか10分で完売し、追加販売分100枚もアッという間に売り切れとなりました。

そして12月3日。会場のCBCホール(名古屋市中区)を埋め尽くした来場者の大半はミドル世代以上。つボイ・宮地、名古屋の2大ラジオスターの長年のファンたちでした。

2時間のイベントで明かされたこと、語られなかったこと

つボイさんと番組アシスタント・小高直子さんのアナウンスの後、ついに宮地さんが登場。すると客席から一斉に割れんばかりの拍手、さらに「おかえりーッ!」「宮地さーーん!!」という歓声が。深々と頭を下げた宮地さんの第一声は「謝罪します!」。続いて、被害者、関係者らに対するお詫びの言葉。時折、言葉をつまらせると客席から「頑張ってッ!」と再び声援が。謝罪は3分間にわたりました。

イベントの冒頭で登場した宮地佑紀生さん。謝罪はおよそ3分間におよんだ
イベントの冒頭で登場した宮地佑紀生さん。謝罪はおよそ3分間におよんだ

その後はステージ上でつボイさんとのかけ合い。「つボイ君」「宮地君」と呼び合う同い年同士のトークはここからはあくまで軽妙に、会場を笑いの渦に包んでいきます。後半、逮捕の際の状況や、自宅にこもって絵を描いていたという自粛中の生活が宮地さんの口から生々しく語られ、さらにつボイさんの元に届いたリスナーからのメッセージが読み上げられます。「人が何といおうと応援しています」「あなたがいなくなってラジオがつまらなかった。声を聴かせてください。待ってます」などなど。

つボイノリオさん(真ん中)と宮地佑紀生さん(右)。名古屋の大物ご当地タレントである2人が並んで舞台に立つのはおそらく初めてのこと
つボイノリオさん(真ん中)と宮地佑紀生さん(右)。名古屋の大物ご当地タレントである2人が並んで舞台に立つのはおそらく初めてのこと

そして、およそ2時間にわたる宮地さんの“復帰舞台”は「また何かの機会に僕の声がスピーカーから聴こえてくることがありましたら、チラッと聴いて、できたら応援してほしいです。今日はどうもありがとうございます」という言葉で締めくくられました。

イベントを通して伝わってきたのは、何より集まったファンの人たちの温かさでした。聴衆は終始、久しぶりに聴く宮地さんのトークを楽しみ、声援と拍手を送っていました。来場者に声をかけてみても、「やっぱり宮地さんの名古屋弁はええね。河村(たかし)市長の名古屋弁は嫌いだけど」「またラジオでしゃべってほしいです」と晴れての復帰を望む意見が聞かれました。

つボイノリオさんのおとこ気とCBCラジオの英断が今回の“復活の舞台”を実現させた。イベントの模様は後日、CBCラジオのつボイさんの番組内で放送される予定
つボイノリオさんのおとこ気とCBCラジオの英断が今回の“復活の舞台”を実現させた。イベントの模様は後日、CBCラジオのつボイさんの番組内で放送される予定

宮地さんと所属事務所、そして謝罪の場を用意したCBCラジオも「今後のことはまったくの白紙で、復帰(起用)も未定」とのこと。しかし、最後の挨拶にもあったように本人が芸能活動の再開を望み、今回の出演をその足がかりにしたいと考えているのも疑いのないところです。そして、イベントの雰囲気を見る限り(ラジオのリスナーを中心としたファンミーティング的イベントなので当然ではありますが)、それを望む人たちが多数いることは証明されたといえるでしょう。

ただし、今回のイベント内では、事件発覚後にファンが最も首をひねり、かつ知りたいと思っていた暴行の背景や理由についてはほぼ語られることはありませんでした。事の性格上公にできない事情もあるのでしょうが、可能な範囲で本人の口から真実を明らかにすることが、結果的にファンにあらためて受け入れてもらうための近道ではないかとも感じます。

本格復帰の鍵はローカルだからこその関係修復

このところ有名人の不祥事に対して“排除”が当然といった不寛容さが蔓延しているように感じます。今回のイベントに対しても、ネットでは批判的なコメントも見られ、局や番組にもクレームは寄せられたそうです。

一方で、名古屋を含めて地方ではタレントとファン、視聴者の距離が近く、まるで旧知の友人や親せきのような親近感をもって接する人も少なくありません。昔から双方向性が強いラジオのタレントであればなおさらです。そんな間柄だからこそ、事件についても他人ごととはとらえられず、業界から抹消されて当然という無慈悲な論理に走ったりできない心理が働くのかもしれません。

つまづいてしまった、でも当然これから先の人生もある相手にどうあい対していくのか。当の本人は信頼を取り戻すためにどう態度で示していくのか。名古屋と宮地佑紀生さんとのこれからの関係修復に、排除とは違ったローカルだからこその道筋がつけられることを期待したいと思います。

(写真はすべて筆者撮影)

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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