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なぜ名古屋は「ロケ地の宝庫」になったのか?

大竹敏之名古屋ネタライター
観光案内所でも「ロケ地の宝庫・名古屋」をアピール。ロケ地マップも配布している

福山雅治が「名古屋は映画の街だ!」と絶賛

名古屋市役所本庁舎は昭和8年築の国指定重要文化財。見学はマナーを守って
名古屋市役所本庁舎は昭和8年築の国指定重要文化財。見学はマナーを守って

福山雅治×是枝裕和のコンビでヒット中の映画『三度目の殺人』。心理サスペンスの緊迫感を印象づけるのに効果的に使われているのが、くり返し登場する裁判所の景観です。大理石の柱や手すりが重厚さを醸し出す階段、「御休憩室」というガラス扉のフォントがレトロな控室。風格ある建築が硬質な作風をいっそう際立たせています。

名古屋での舞台あいさつで福山さんが「ロケに協力的で普通なら貸してくれないような場所も貸してくれる。名古屋は映画の街だ!」という趣旨の発言で絶賛していた通り、この作品の上記の重要なシーンは、名古屋で撮影が行われました。作中では横浜地方裁判所とされているのは、実は名古屋市役所なのです。

『三度目の殺人』の重厚なムードを盛り立てた名古屋市役所本庁舎中央階段
『三度目の殺人』の重厚なムードを盛り立てた名古屋市役所本庁舎中央階段
同じく市役所本庁舎の御休憩室も『三度目の殺人』で印象的に使われている
同じく市役所本庁舎の御休憩室も『三度目の殺人』で印象的に使われている

福山さんは、前作『SCOOP!』でも名古屋でロケを行っています。スクープカメラマンの福山さんがターゲットのイケメン政治家を待ち伏せるホテルのラウンジは名古屋東急ホテル。4フロア吹き抜けのゴージャスな空間が、手に汗握るシークエンスを盛り上げるのにひと役買っていました。ちなみに、撮影は宿泊客が寝静まる深夜から早朝にかけて行われたそうです。

福山雅治がパパラッチを演じた『SCOOP!』で使われた名古屋東急ホテルのラウンジ
福山雅治がパパラッチを演じた『SCOOP!』で使われた名古屋東急ホテルのラウンジ

この他にも、『亜人』『海賊とよばれた男』『ビリギャル』『寄生獣』など、名古屋で撮影された映画は数知れず。今、名古屋は“ロケ地の宝庫”となっているのです。

年間約100件のロケが名古屋市内で

「映画、ドラマ、CM、ポスターなどのスチール撮影など、年間100件前後のロケが市内で行われています」と言うのはなごや・ロケーション・ナビ(以下「なごやロケナビ」)の三宅友里さん。なごやロケナビは名古屋市の外郭団体、名古屋観光コンベンションビューロー内の組織で、行政サービスとしてロケ撮影の支援を行っています。ちなみにこの夏、地元での盛り上がりが話題となったNHKの『ブラタモリ』名古屋編も、やはりなごやロケナビがバックアップしています(関連記事「なぜ『ブラタモリ』名古屋編はこんなに話題沸騰したのか?」)。

「観光推進や地域振興を目的に、地方公共団体が撮影の誘致や支援を行うフィルムコミッション(FC)が、2000年頃から全国各地で設立されるようになりました。ジャパン・フィルムコミッションには100以上の団体が加盟しています。名古屋市では全国でも比較的早い2001年になごやロケナビが発足しました」(三宅さん)

撮影者・地元双方にメリットもたらすフィルムコミッション

FCの業務はロケ地情報の提供・提案から、候補地への撮影交渉、宿泊施設やエキストラの手配など多岐にわたります。

「公共団体が行うことで市役所や県庁など公共の施設の協力が得られやすい。また、エキストラとして参加する方々にも安心感があり、作品に参加できるのはもちろん、市役所の貴賓室など普段は非公開の場所に特別に入れるという楽しみもあります」(三宅さん)と、撮影者と地元の双方にメリットがあるのがFCの利点。名古屋は20年近いノウハウと信用の蓄積があるため、冒頭の福山さんのような発言に代表されるように映画関係者からの評価も高く、撮影の頻度も高くなっているというわけです。

もちろん、歴史的建造物や昔ながらの商店街など、ロケ地にふさわしい場所が街のあちこちに存在することが、多くの撮影に採用されている最大の要因であることは言うまでもありません。

ネオバロック様式の名古屋市市政資料館はNHKドラマ『坂の上の雲』の舞台に
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『海賊と呼ばれた男』では愛知県庁舎の講堂やその前の廊下が使われた
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『寄生獣』で主人公の母が買い物に立ち寄るのは、円頓寺商店街の老舗肉屋「肉の丸小」
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有村架純主演の『ビルギャル』は名古屋が舞台。栄のオアシス21など市内各所が登場
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隠れた観光資源の掘り起こしや地元の意識改革に期待

“ロケ地の宝庫”を観光に活かすため、なごやロケナビでは「なごやロケーションマップ」やブラタモリのルートを紹介する「名古屋ブラリMAP」などを作成。観光案内所・オアシス21iセンターなどで無料配布しています。

観光案内所などで無料配布されているナゴヤロケーションマップと名古屋ブラリMAP
観光案内所などで無料配布されているナゴヤロケーションマップと名古屋ブラリMAP

こうした活動は、地域の隠れた観光資源の掘り起こしにもつながります。地元の人にとっては当たり前の風景が、映像のプロの目には魅力的に映り、それがスクリーンに映し出されることで、あらためて建築や景観の価値に気づくことができます。

「名古屋なんて何もないよ」。残念なことに名古屋では、よその人にお薦めの場所を聞かれた際にこう答える人が少なくありません(今春、名古屋の魅力向上・発信のキャッチコピーとして選ばれた「名古屋なんて、だいすき」もこうした心理を逆手にとったものです)。映画のロケ地になったからといって、それだけで観光客が増えると期待するのは楽観的すぎますが、名古屋を訪れた際に出かける先の選択肢のひとつになることは確か。それ以上に、地元の人が地元の魅力に気づくきっかけになることにこそ効果が期待できると感じます。

そういう意味では、地元民の地元推奨度が低い名古屋にとって、なごやロケナビの活動は「地域振興」の策として大いに意義があると言えるでしょう。そして、これは他の多くの地方都市にとっても、FCに取り組む際のよきメルクマール(指標)になるんじゃないでしょうか。

「なごや・ロケーション・ナビ」のサイトでは、各ロケ地の情報を検索でき、撮影された作品も確認できます。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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