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「手羽先記念日」は1年で一番手羽先が食べたくなる日?

大竹敏之名古屋ネタライター
名古屋めしの代表格、手羽先は一本、また一本と止まらなくなる

知ってればよほどの名古屋めしツウ。6月14日は手羽先記念日

6月14日は「手羽先記念日」。といっても、名古屋の人でもほとんど知らないと思いますし、かくいう名古屋めしをメシのタネにしている私も寡聞にして存じませんでした。

というのも、これの由来は語呂合わせでも何でもなく、手羽先の代表的チェーンのひとつである「世界の山ちゃん」(以下「山ちゃん」)が創業記念日を自ら制定したものなのです。

同チェーンを運営するエスワイフードによると、日本記念日協会への登録は2007年11月。翌年から創業記念企画を毎年開催しているといいますから、手羽先記念日が一般に広報されるようになって今年でちょうど10年目ということになります。

「山ちゃん」の今年の創業記念企画は手羽先1人前の無料券プレゼント。6月13~15日の3日間、2500円以上飲食したお客さんに進呈されます。梅雨に入って蒸し暑さが増すこの時期はビールをグイッといきたくなる日も多く、ビールとの相性バッチリの手羽先をいつも以上に食べたくなる季節。そんなタイミングで文字通りおいしいサービスがあるのですから、記念日にふさわしく手羽先が1年で最も食べたくなる日といっても過言ではないかもしれません。

手羽先がもっと美味しくなる(?)手羽先豆知識

さて、今や名古屋めしの代表格のひとつに数えられる手羽先ですが、当サイトでも記念日企画として、手羽先がもっと美味しくなる豆知識をいくつかご紹介したいと思います。

【「手羽先豆知識 その1」~誕生のきっかけは発注ミスだった】

時は昭和30年代、名古屋市熱田区で創業した居酒屋「風来坊」は、オリジナルのタレとスパイスで鶏の半身を味つけ調理したターザン焼きが名物料理でした。ところがある日、発注ミスで問屋に肝心の鶏肉がない・・・!替わりにあるのは、身が小さく骨が多いため当時は飼料かダシにしか使われていなかった手羽先だけ。苦肉の策でこれを仕入れてターザン焼き同様に調理して出したところ、意外やこれが大好評。身が小さい分、自慢のタレとスパイスの味が際立ち、また小ぶりなサイズも酒のツマミにはぴったりだったのです。かくして手羽先は「風来坊」の人気メニューとなり、やがて名古屋中に広まったのでした。

【「手羽先豆知識 その2」~「風来坊」と「山ちゃん」の意外な関係】

手羽先の2大チェーン、「風来坊」と「山ちゃん」。いずれも名古屋市に本社を置き、個人経営の小さな店舗から全国(および海外)70店舗を超す居酒屋チェーンへと成長を遂げました。先のエピソードがある通り、元祖として通っているのは「風来坊」。一方の「山ちゃん」は昭和56年に創業し、「手羽先をやろうということになって風来坊の店長にも教えてもらった」と「風来坊」がネタ元であることを創業者が公に認めています。この潔さに「風来坊」の会長も「山本さん(山ちゃんの創業者の重雄氏・故人)はいい男ですよ」とあるインタビューで答えています。そんなトップ同士が互いを認め合う関係もあって、手羽先を看板メニューとするライバル同士でありながら両雄並び立つ格好となっているのです。

【「手羽先豆知識 その3」~「風来坊」と「山ちゃん」は味も見た目も違う!】

どっちがどっち「風来坊」と「山ちゃん」
どっちがどっち「風来坊」と「山ちゃん」
ご覧の通り、形状がまったく違う。あなたはどっち派?
ご覧の通り、形状がまったく違う。あなたはどっち派?

そんな間柄の両者ですが、味も見た目もかなり異なります。「風来坊」はタレに深いコクがあり、「山ちゃん」はピリリとスパイシー。「風来坊」は日本酒や焼酎にもよく合い、「山ちゃん」はビールがよりグビグビ進みます。見た目もかなり違い、名古屋人なら見た目でどちらか分からないとちょっと恥ずかしいレベル(?)。ふたつの写真を見比べて、どっちがどっちか、分からない人は実際にお店へ食べに行って確かめてみて下さい。

【「手羽先豆知識 その4」~“唐揚げ”だけど衣はない】

名古屋名物の手羽先の正式なメニュー名は「手羽先の唐揚げ」。一般的に鶏の唐揚げというと小麦粉や片栗粉をまぶして衣をつけた料理をイメージするのではないでしょうか。近年、全国的にテイクアウトの唐揚げ専門店がブームですが、それもほとんどがこのタイプです。ところが、先の2大チェーンをはじめ名古屋周辺で手羽先を出す店のほとんどは、手羽先を素揚げしてタレを塗ってスパイスをまぶすという調理法をとっています。衣をつけてもつけなくても唐揚げと呼ぶことは間違いではありませんが、名古屋めしの手羽先の唐揚げは、唐揚げブームで主流のものとはちょっと違うタイプの料理なのです。

【「手羽先豆知識 その5」~煮込みタイプの手羽先も人気】

中華料理店では煮込み系手羽先も多い。写真は「味仙」の手羽先
中華料理店では煮込み系手羽先も多い。写真は「味仙」の手羽先

名古屋では唐揚げだけでなく、タレで煮込んだタイプの手羽先も広く食べられています。中華料理店に多く、例えば台湾ラーメンで有名な「味仙」でも、柔らかくなるまで煮込んだ上に激辛に味つけた手羽先は人気メニューのひとつです。おみやげ用の商品にも多く見られ、名古屋のデパ地下やキヨスクでも人気がある「石昆」の「うみぁーっ手羽」もじっくり煮込んだ手羽先料理です。

名古屋では毎日が「手羽先記念日」

鶏好きで、甘辛好きで、なおかつビール好き(酒類の消費量中ビールの割合が圧倒的に高い)。そんな名古屋人の嗜好にマッチしてご当地グルメのひとつにまでなった手羽先。名古屋では居酒屋へ行ったら、「とりあえずビール」と一緒に「とりあえず手羽先」を注文する人も少なくありません。いわば名古屋では毎日が「手羽先記念日」。6月14日に限らず、一本、また一本と召し上がってみてください。

名古屋ネタライター

名古屋在住のフリーライター。名古屋メシと中日ドラゴンズをこよなく愛する。最新刊は『間違いだらけの名古屋めし』。2017年発行の『なごやじまん』は、当サイトに寄稿した「なぜ週刊ポスト『名古屋ぎらい』特集は組まれたのか?」をきっかけに書籍化したもの。著書は他に『サンデージャーナルのデータで解析!名古屋・愛知』『名古屋の酒場』『名古屋の喫茶店 完全版』『名古屋めし』『名古屋メン』『名古屋の商店街』『東海の和菓子名店』等がある。コンクリート造型師、浅野祥雲の研究をライフワークとし、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称。作品の修復活動も主宰する。『コンクリート魂 浅野祥雲大全』はその研究の集大成的1冊。

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