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コロナ禍で相次ぐスポーツ関係者の入国拒否とその理由 Bリーグ開幕までに必要な取り組みは?

大島和人スポーツライター
新型コロナ問題は外国人の日本入国にも大きく影響している(写真:アフロ)

外国人選手の入国に暗雲

スポーツにはシーズンがある。今季はJリーグが2月、プロ野球なら3月に開幕するスケジュールだった。対して男子バスケットのBリーグ、バレーのVプレミアリーグは「秋春制」で、2020-21シーズンはともに10月の開幕が予定されている。

しかし新型コロナウィルス感染症の影響で、2020-21シーズンの開幕が不透明になっている。

どんな競技も、レベルの高い外国人選手がチームの中心を担う場合が多い。Bリーグならば外国籍選手は3名までエントリーできて、同時に2名起用できる。

日本政府は7月22日の時点で、129カ国(地域)について、出入国管理及び難民認定法に基づく上陸拒否を行っている。アメリカ、中国、ロシア、イギリス、フランスのような「大国」が揃ってその対象だ。日本に外国人アスリートを送り出している国は、おおよそ上陸拒否の対象国だ。

スポーツ選手のビザ取得、入国に精通した行政書士の長友耕一氏はこう説明する。

「日本国内で働けるビザを持っていても、原則的に日本への入国はできない状況になっています」

入国には「特段の事情」が必要に

なぜJリーグ、プロ野球で問題なく外国籍選手がプレーしているかというと、大半が上陸拒否の措置が採られる前に入国を済ませていたからだ。

また法務省は「特段の事情」が認められるケースに限って入国を認めている。7月6日にはアメリカのビーガン国務副長官が来日し、北朝鮮や香港の情勢について日本側と協議を行った。配偶者が日本で暮らしていて、家族が離れ離れになっているケースも配慮を受けられる。

一方でアジアリーグアイスホッケー「日光アイスバックス」のアリペッカ・シッキネンヘッドコーチは、フィンランドから来日したものの新東京国際空港で入国拒否を受けたと報道されている。過去に3シーズンにわたって日光の指揮を採り、就労ビザも保持し、入国は可能という認識を自身は持っていたようだ。にもかかわらず、上陸を認められなかった。

Bリーグは緩和を模索中

Bリーグも2020-21シーズンに向けて契約を済ませたコーチ、選手が入国待ちの状況に置かれている。日本国内の空港へ到着したにも関わらず、上陸を拒否された例もあると聞く。7月14日のメディアブリーフィングで、Bリーグ競技運営グループの数野真吾マネージャーはこう説明していた。

「(国内に)入りたいものの入れない選手、スタッフが多数います。入国の制限に関しては国、関係省庁がどういった基準を示していくのか、緩和等を進めていくのかが非常に大きい。秋冬制の他競技、他リーグも含めてどこまでご緩和していただけるのか。スポーツ庁、関係省庁とコミュニケーションを取りながら進めている」

プロスポーツ選手はリモートワークが効かない仕事だ。10月の開幕ならば7月か8月に来日して準備を行う必要がある。仮に入国が開幕後になったらリーグの根幹が損なわれ、興行としての魅力が落ちてしまう。外国籍選手がいるチームと「いないチーム」の対戦は明らかなミスマッチで、不平等だ。

プロ野球では入国を認められた例も

プロ野球では福岡ソフトバンクホークスのデニス・サファテが6月、アルフレド・デスパイネ、ジュリスベル・グラシアルが7月に相次いで入国を認められている。当然ながら上陸時のPCR検査と、待機といった条件は課せられている。また必要な書類を揃えた上での入国だった。

長友氏は述べる。

「キューバの2選手(デスパイネ、グラシアル)は必要な検査治療のための一時帰国で、再入国を許可されています。手ぶらで日本に来ても、絶対に上陸を拒否される事案です。選手が本国で治療・検査を受けたという診断書を準備して、球団も出入国に関する経緯の説明文書を予め準備をして、上陸審査時に提出をしていると思います。そういった準備がない人は空港でUターンさせられます」

長友氏は入管当局から、上陸時には経緯を説明する「疎明書類」が必要で、口頭の説明では許可を得られないという趣旨の説明を受けた。逆に検査治療や親族訪問といった理由があり、必要な書式が揃っているケースは、入国を認められる可能性が高いという。

リーグの動きと情報共有が必要に

プロスポーツは相応の雇用を生み、地域を活気づける経済活動だ。もちろん感染の抑止は大前提だし、社会活動を妨げてまで興行を強行するべきではない。しかしプロ野球、Jリーグが公式戦を再開しており、秋開幕のトップリーグも同等の活動は認められていい。

入国を拒否するデメリットが大きく、なおかつ感染拡大につながらないケースについては、興行ビザの運用について緩和を認めるべきだろう。

長友氏は述べる。

「現状の入国禁止措置が緩和されないと、根本的な解決にはつながりません。リーグから活動をしていただくのが、非常に重要だと思われます」

スポーツ界が「ワンチーム」となって国、法務省に働きかけを行い、興行ビザ保有者に関する緩和が認められる状況になればベストだ。実際に7月21日にはBリーグとVリーグの関係者が自民党スポーツ立国調査会に出席。困難となっている外国人選手の入国を認めるように要望を行った。

個別の取り組みも重要だ。通常は本人、クラブのマネージャーらが行うビザ申請だが、緊急事態には特別な知識が必要になる。リーグやクラブは書類、手続きについて情報共有を行い、専門家を含めたサポート体制を整備するべきだろう。

「新規」の入国は極めて困難

ただしどんなに用意しても、開幕までに解決し切れない問題もある。そのような「覚悟」も必要だ。

就労ビザの期間は通常1年間で、シーズンが終わってもしばらくは期間内だ。おおよその目安として、7月中ならば次年度の更新も認められる。2019-20シーズンに日本国内でプレーした選手ならばビザが発給され、入国を認められる可能性は高い。

しかし新規の選手は状況が違う。長友氏はこのような見解を述べる。

「新規の外国籍選手は、実務面から見て入国できないのではないかと思います。新規はプロ野球もそうだし、プロレスも来ていない。10月開幕(までの入国)は現実的でないですね」

Bリーグを見ると2020-21シーズンに向けて契約済みの外国籍選手は更新か、国内の移籍が多い。それは各クラブが新規選手を可能な限り避けたからだろう。新規契約となる外国籍選手の入国遅延は、ファンも想定して受け入れるべきリスクだ。

2020年秋に開幕する競技はもちろんだが、来冬や来春に開幕する種目にも影響が及ぶ可能性はある。コロナ禍における外国人アスリートの出入国問題は注視が必要で、スポーツ文化を守るためにも研究と取り組みが重要だ。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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